Chara『Secret Garden』インタビュー(後編)
肌の色をした背景を丸くくり抜いた穴の向こうには、美しい花園が広がり、そこで誰かを待つように佇むChara――。そんなヴィジュアルを掲げた2年半ぶりのアルバムに、ずばり子宮をイメージしたタイトル『Secret Garden』を与えた彼女は、“女”という職業を極めてヴィンテージと呼べる年頃になった自分の内なる世界をさらけ出す。自宅で録音した音源も用いてセルフ・プロデュースで完成させた本作はまた、彼女の原点である鍵盤の響きとソウル・ミュージックのヴァイブに立ち返ったアルバムでもある。色んな意味でCharaらしさを突き詰めた、どこまでもセンチメンタルで、たまらなくハッピーなこの花園を、彼女に案内してもらおう。
(前編より続き)
――子宮のイメージの話に戻りますが、それはアルバムに着手した時から頭にあったんですか?
Chara「そうでもなかった。最初に手を付けた曲は、『スーパーセンチメンタル』と『せつなくてごめんね』のあたりだったかな。『スーパーセンチメンタル』は失恋の曲で、2年くらい前からライヴでもちょっと歌ったことがあったから、古いネタなんだけど、実際に失恋中だとこういう曲は泣けて歌えない。失恋中に自分の曲を歌うのは本当に苦しくて、ファンの子が泣いてる理由が良く分かるわ(笑)。ライヴで歌えない時があったもの。1曲目が鍵盤を弾きながら歌う『breaking hearts』っていう曲で、当時めっちゃリアルタイムだったから歌えなくて、インスト曲になっちゃったの。そういう意味では、今回はすごく安らかでピースフルな場所に佇んでますから。普段は過去は振り返らないんだけど、この曲は“ありがとう、失恋”みたいな(笑)。そういう強い部分が『スーパーセンチメンタル』には出てる。そんな感じも含めた歌詞に出来た気がするし、“無駄な恋はないんだよ”って子供たちに言える。子供たちが大失恋して泣くこととか、これからあるかもしれないしね!」
――でも、実はこのアルバムは基本的にものすごくハッピーで、幸せ感が伝わってきて……。
Chara「そうね。ま、愛されてるんですかね。それは自分でも分かってます(笑)」
――だからこそ『スーパーセンチメンタル』で始まり『せつなくてごめんね』で終わり、切ない2曲に包まれているという構成が面白いですね。
Chara「だってセンチメンタルな感じとか切ないものというのは、無くならないのよ。なんか、好きみたい。趣味として(笑)。ほら、若い頃はまさにスーパーセンチメンタルな泉が溢れ出ているっていうくらいあった切なさを、普通なら“はいはい”と言って蓋をするものなんだけど(笑)、それを歌い続けたり、そういう曲を書き続けることによって、私の泉は枯れていない気がする(笑)。子供の頃から妄想するのが好きだったし、哀しいコードを弾きながら泣いたりとかしていたし、やっぱり得意なんですよね、そういう切ない響きとか、神聖な感じのものが。幼稚園の頃の話になりますが、昭和の時代なのでクラスに足踏みオルガンがあって、うちには無かったからすごく憧れて、先生が弾くのを見ながら覚えたの。で、名前が美和だから当時“みーちゃん”って呼ばれてたんだけど、ある日“みーちゃん、先生の代わりに弾いてもらえる?”と言われて、伴奏を弾いたのが全ての始まり。それもよくよく考えたら讃美歌みたいな、バロックぽいところがある曲で、すり込まれているんだよね。プロコルハルムの『青い影』みたいなのも好きだったし」
――切なさや神聖さって、ソウルにもつながりますよね。ゴスペルも然りで。
Chara「だから好きなの。ゴスペル経験は薄いですけど、10代の頃は興味があってすごく聴いてました。だって調べてみると、ソウルのミュージシャンはだいたい教会で歌っているから、“それはなんだ?”ってことになるでしょ?(笑)」
――『恋は目を閉じて』はまさにゴスペル調では?
Chara「うん。本当に“ウサギ組の美和ちゃん”の感じですよ。成熟したら、こうなったってわけ(笑)」
――“何かについて行くとしたら/私は愛について行くよ”という、『せつなくてごめんね』を締め括る言葉、つまりアルバムのラストワードがまた印象的で、しっくり感じられます。
Chara「それが言いたかったんでしょうね。それが言いたくて、絶対に入れようと思ってた。ある日、本を読んでいたんだったかな、よく覚えてないけどそういう文章があって、“じゃあ私なら何について行くだろう”って考えているうちに、“私だったら愛について行く”と。前作『COCOON』の時は神秘的なものに導かれて行きたいと思ってたから、その延長みたいなもの。言葉は変わったけど、同じだと思う」
――言葉と言えば、前回お会いした時、「昔はオリジナリティにこだわって、人と違う言葉を使いたいとか思いながら書いていたけど、最近はその辺に落ちてる言葉を使いたいと思うようになった」とおっしゃっていましたよね。
Chara「そういう言葉を使えるようになったと言うか、素直になった。“ああ、素直になったんだな”って分かったの。だから広がったよね。若い頃より素直になった分、いいなと思えるものも広がったし、はっきりしてきた。それはまあ当然のことで、ちゃんと一生懸命生きていたら、そういう風になって行くんじゃないですか? だから私も成長したんだと思う。そうすると使える言葉が増えるし、興味を持つ言葉が増える。人と話せる内容の幅も広がるし。興味を持つことが色々あると、だいたいの人と話せるよね」
――それにしても、40代の女性でここまで自分をさらしているアーティストは、日本にほかにいないですよ。
Chara「確かに、上の世代なら加藤登紀子さんから矢野顕子までいらっしゃるけど、そのあとは抜けているのかも。でも私も、昔からずっとやってるから出来るのであって、大人になってから、ある日突然やるとなったら、それは大変ね。私の場合は言葉も一緒に成長してきて、だからこんな風に出ちゃう。それに、何かを作る人って、本当に“掘る”からね。思っている以上に自分の内面を掘って、掘って、掘って、掘って! だから色んなものが出てくるんだよ。“出てきた、こんなの!これって、いつの、何?”みたいな(笑)。それも面白い。普通はそこまで掘り下げると危なくて、精神的にダメージがあるけど、私たちは、それを音楽の力で引き戻すことが出来る。ちょっと魔法みたいな感じで。そういう職業なのよ」
――Charaさんは昔から“生涯ガーリー”という言葉をよく口にしていますが、そこも全くブレていませんね。
Chara「ガーリーって私の場合はどっちかっていうと、“純粋”という意味。“純粋”とか“真っ直ぐ”とか、そういう意味を込めてます。もちろん成長はして行くし、老いて行くし、ガーリーでありつつも、老いと共にそれは変わって行く。自分が思ってもいない方向に。“更年期後は楽しいよ”とか“おばあちゃんは楽しいよ”とか先輩たちが良く言うから(笑)、それはそれでたくさん楽しいことが待っていそうだけど、歌を歌い続けるためには、老いていく部分に合わせた準備や調整は必要になると思う。そのためにも、昔の声はもう使わずに、年をとっても歌える中声を勉強してます。中声はずっと使えるんですよ。アレサ・フランクリンもキャロル・キングも地声じゃなくて中声だし、私も音楽をずっとやりたいと思ってるから。最初は誰もいいと言ってくれる人がいない状態で始めて、親でさえ“クラシックはどうなった?”とか“芸能界なんて”みたいな感じだったけど、“いや、私には才能あるから大丈夫だよ”と言って契約したんです(笑)。そういう自分を信じる力があったのかもしれないし、音楽が好きだったから。決めた以上は一生の仕事にするっていう、ちょっと男前なところもあって(笑)。“これだ!”って確信が得られた。だって音楽ってカッコイイもん。ステージで死にたいとまでは思ってないけど、なんかもう、ここにきて“女”と“音楽”が混ざっちゃったよね(笑)」
――このアルバム・ジャケットも一見可愛らしいようで、“女”という観点で捉えると衝撃的です。
Chara「そう、よくよく見るとすごいでしょ? 甘くないの。甘過ぎないよ!」
撮影 吉場正和/photo Masakazu Yoshiba
文 新谷洋子/text Hiroko Shintani
Chara
『Secret Garden』
発売中
http://www.amazon.co.jp/Secret-Garden-初回生産限定盤-DVD付-チャラ/dp/B00R3NFFPW/ref=ntt_mus_ep_dpi_1
https://itunes.apple.com/jp/album/secret-garden/id962225831
Chara
1991年9月、シングル「Heaven」でデビュー。1992年の2ndアルバムでは日本レコード大賞ポップ、ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。1996年には女優として出演した岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』が公開され、劇中のバンドYEN TOWN BANDのボーカルとして参加して制作されたテーマソング 「Swallowtail Butterfly~あいのうた」が大ヒット。1997年のアルバム『Junior Sweet』は100万枚を超えるセールスを記録。2015年3月『Secret Garden』を発表。音楽的探求のもと、新たな作品を発表し続けている。
[Chara Concert 2015 – Secret Garden -]
3月31日(火):Zepp Sapporo(札幌)
4月3日(金):日本特殊陶業市民会館(名古屋市民会館中ホール)(愛知)
4月5日(日):Zepp Fukuoka(福岡)
4月7日(火):倉敷市芸文館(岡山)
4月16日(木):中野サンプラザホール(東京)
都市で暮らす女性のためのカルチャーWebマガジン。最新ファッションや映画、音楽、 占いなど、創作を刺激する情報を発信。アーティスト連載も多数。
ウェブサイト: http://www.neol.jp/
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。