男性の育休取得を阻む「パタハラ」の厚い壁
男性が育児に参加しやすい環境が未だ整っていない
政府は、男性の育児参加を促した新たな「少子化社会対策大綱」を閣議決定しました。その中で、妻の出産直後に男性が有給などの休暇を取得する割合を8割にするという目標を掲げています。少子化対策として、男性の育児参加を促進したい狙いです。
一方、男性の育児休業取得率は、なかなか上がっていません。5年前の育児・介護休業法の改正により、育休を取得できる男性対象者が拡大しているにも関わらず、ほとんど取得率が改善されていないということは、男性が育児に参加しやすい環境が未だ整っていないことを示しています。
旧態依然とした考えが日本の管理職世代に根強くある
この問題の原因のひとつと考えられているのが、男性が育児休業などを取得することを、職場の上司や同僚などが妨げる「パタニティハラスメント(パタハラ)」です。最近でも、人気マンガ「島耕作」シリーズの作者、弘兼憲史氏が、ある雑誌のコラムで「育児に熱心な男は出世しない」と発言し、物議を醸しました。弘兼氏は、「昨今、子育てを熱心にやるイクメン会社員がもてはやされているが、現実には、仕事のできる人間というのは必ずしも家庭では好かれておらず、逆に家庭的で幸せなパパというのは会社ではそんなに出世しない」「男性の『出世』と『家庭』の両立は理想であるが、現実はそう簡単ではない」と主張しています。
こうした「男性は外で仕事をして、女性は家庭を守るもの」といった旧態依然とした考えが、一部の日本の管理職世代に根強くあることは間違いありません。こうした上司の元で働いている場合、「育児休業を取りたいんですけど」と申し出たところで、「ふざけるな!」と一喝されるか、「休むのは勝手だが、出世はあきらめてくれ」となるのがオチでしょう。
また、政府の方針もあり、男性の育児参加に一定の理解も示している企業であっても、「育休はしっかり取れ、ただし仕事の成果もしっかり上げろ」というのが本音でしょう。育児休暇を取れば、どうしてもその分、仕事に遅れが生じたり、他の社員にしわ寄せがいくことから、多くの男性が取得を躊躇しているのが現実です。
管理職世代の意識改革は必須。企業は育休取得の義務づけも視野に
こうした問題を改善し、男性の育児参加を促すためには、管理職世代の意識改革は必須です。会社としても、強制的に部下に育児休業を取得させることを義務づけるぐらいの心構えは必要でしょう。それと平行して、育児をしながらも仕事ができるように、短時間勤務制度の導入や、在宅勤務の仕組みづくりを進めていくことも大切です。
幸いなことに、これからの社会を担う若年世代においては「男性も育児に参加するのは当然」という考えが浸透しています。国が男性の育児参加に向けた取り組みを積極的に行っている企業には、助成を行うなどの政策を取り、企業の改革を後押ししてやれば、今後、男性も安心して育児に参加できる社会が広がっていくのではないでしょうか。
(吉田 崇/社会保険労務士)
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