The SALOVERS『青春の象徴 恋のすべて』インタビュー(後編)
3月25日をもって無期限活動休止するThe SALOVERSのラストアルバム『青春の象徴 恋のすべて』。これがもう、本当に素晴らしい。とても切ないけれど、どこか晴れ晴れしくもあり、とにかく生きて、生きて、生きまくっているロックソングが鳴っている。これが、The SALOVERSだ。最後の最後にそう断言できるアルバムを4人は作り出してみせた。活動休止に至った経緯や本作に最大限の情熱を注げた理由、そして、これからのこと。フロントマンの古舘佑太郎が剥き出しの言葉ですべてを語ってくれた。
(前編より続き)
——ホントにこのアルバムがSALOVERSなんですよね。だからすごく切ない。堂々巡りなるけど、バンドが終わるからこういうアルバムを作れたのも間違いないわけで。
古舘「そうですね。俺、ずっと音楽をやってる理由がわからなくなっちゃってたんですよ。ライブもこなしてる感じがあったし。だけど、このアルバムが完成したときに思い出したんですよね。『ああ、俺は音楽をこういうふうに作ってたんだ』って。自分が自分の曲に救われる感覚を思い出したんです。10代のころに失恋したりして、そこで沸き上がった思いを自分で正当化したいから曲を書いて、歌って。自分の言葉で、自分の歌で、自分が癒されてたんですよ。寂しい夜に情けなくなって、月を見てる自分がいたり、そういう自分を自分の歌が全部肯定してくれてたんです。だから、最初はその歌がたくさんの人に響くとか関係なくて。リスナーは自分だけだったし。初期の“SAD GIRL”とかそういうものだったんです。でも、僕はその感覚をこのアルバムを作るまで忘れてた。救われるものではなくて、むしろどんどん傷ついていってしまった。いや、傷ついてるんじゃないな——『俺は何をやってるんだろう?』っていう虚無感ですね。そんな自分をこのアルバムが吹き飛ばしてくれたんです」
——1曲目の「Disaster of Youth」なんてこのアルバムを作る理由のすべてって感じですよね。
古舘「この曲は、さっきの話に出た大阪から車で帰るときに書いたんです」
——〈友情の全てを代償にしてまで目指す 夢に疲れただけさ〉、〈少年は大志を抱きすぎて死んだ そして生まれ変わるのさ〉ってすごいフレーズだなって思うんだけど、これは本音も本音で。
古舘「そうですね。今までずっと過去のことを歌ったり、中途半端にフィクションを歌ったりしてきたけど」
——感覚を引き伸ばしたり。
古舘「うん。でも、これは本音だし、事実だし。今回はただただSALOVERSのことを歌いたかったんです。2014年11月から2015年3月までのSALOVERSを歌いたかった。しかも、なるべくあっけらかんと」
——そうですね。だから、とても切ないけど悲観的ではないというか。
古舘「ただただ悲しいだけじゃなくて。“ニーチェに聞く”っていう4人で歌ってる曲は、やっと自分たちはこういう曲を鳴らして、歌えるようになったんだなって正直思ってるんですよ。実際問題、お先真っ暗な4人が、〈人生万歳! 僕らの未来は真っ暗闇のすばらしい世界だ〉ってあっけらかんと歌うのは、悲しそうに歌うよりもグッとくるなと思って」
——そういう感覚になれた古舘くんの音楽に向かう気持ちはこれからどうしていくつもりですか?
古舘「これからも音楽はやるとは思ってるんですけど——でも、僕はこの3年間、毎年『アルバムを出します』って言い続けてきた男なので(苦笑)。自分の心のなかでは今年中にはバンドサウンドでソロアルバムを作りたいという気持ちはあるけど、それを今ここで言ってもまた3年かかるような気もするし」
——じゃあ断言しないほうがいいと思う?
古舘「そう。言わないほうがいいかなって」
——でもね、古舘くんのようなリリシストはホントに希有だから。このアルバムを聴いてあらためてそう思いました。
古舘「自分のなかでは才能が枯れたって思ってたし、正直このアルバムは奇跡的にできたものだと思うんです。謙遜ではなく、今の自分の才能はゼロだと思ってます。マジでそう思ってる。だから今はまた歌詞を書ける自信はないし」
——でも古舘くんが音楽を続けることを望んでる人はたくさんいるからね。同業者も含めて。
古舘「昔から一般のリスナーよりもミュージシャンに好かれますね(苦笑)。熱心なファンがいてくれたこともありがたいです。でも、不特定多数の人に届いたかと言われると全然そんなことなくて。それは完全に俺に原因があると思うんですけど」
——それはどういうところだと自己分析してるんですか?
古舘「自分に対するコンプレックスだったり、生い立ちだったり、そういうところと向き合うのがへたくそだから。それがバンドの風通しの悪さに繋がってたと思うし、自分で門を狭めていた気がします。『みんなおいでよ』って言えなかった。そのくせバンドはやりたいし、寂しがりやだから。ホントはいろんな人に聴いてほしいと思ってるくせに自分で門を狭めてたんですよね。ファンにもずっと秘密を隠してるような、そういう罪悪感もありましたね」
——でも、歌ではさらけ出してたと思うんだけどな。
古舘「出してたとは思うんだけど、作品としてひとり歩きする強さがなかった。ハマ(・オカモト)くんにすげえ怒られたことがあって。一緒ンに飲んでるときにハマくんは『バンドがんばりなよ』って言ってくれてたんです。『まだやめるな』って。俺にとってのハマくんってホントに大好きな、唯一と言ってもいいくらい深い付き合いのできる年上の友だちで。ハマくんの意見は素直に聞いてきたんですけど、それでもバンドを続ける気になれなかった。そのとき僕が『いや、でもSALOVERSなんか……』ってちょっと自虐的な言い方をしたんですよ」
——卑下するような。
古舘「そう。そのときにハマくんに『それはすごく失礼だよ』って言われて。『SALOVERSのことをめっちゃ好きでいてくれるファンとか周囲の人たちに失礼だよ』って怒られて。目から鱗でしたね。確かにそうだなって」
——とてもシンプルなことなんだけどね。
古舘「そう、すごくシンプルなんだけど、僕は気づけてなかったんです。またそういう自分がヤになって。でも、気づけてよかったです。だから、それ以来そういう言い方はしないようにしていて。塞ぎ込むときは徹底的に塞ぎ込んでしまう人間なので、これからはなるべくオープンなマインドでいろんなことに接していきたいなって。今までホントにバンドしかやってこなかったからこそ、自分が今まで避けてきたことも率先してやってもいいのかなって。それは音楽以外でも」
——あとね、このアルバムでもあらためて強く思い知ったけど、古館くんはやっぱり終わりを歌うとこんなに強い光を放つんだって。だからさ、俺はずっとあなたは終わりを歌い続ければいいと思ったんですよ。終わっていくことの感情であり感覚であり関係であり風景であり。
古舘「ああ、確かにそうかもしれない。バンド名もそうですしね。それはあるかもしれない」
——事実上の解散だと思うけど、解散と言わなかったのはいつかまたこの4人で音楽を共有したいからでしょ?
古舘「そうですね。いつかまたこの4人で小さいところでこっそりライブできたらいいなと思います」
——とりあえず生きてたらまたそういう日が来ると思うから。それまでは死なないでください。
古舘「大丈夫です。僕は死ぬのは怖いから(笑)。生きます」
撮影 中野修也/photo Shuya Nakano
文 三宅正一/text Shoichi Miyake(ONBU)
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The SALOVERS
古舘佑太郎(Vo&Gt) 藤川雄太(Dr) 藤井清也(Gt) 小林亮平(Ba)
2008年、高校の同級生によって結成。2010年、FUJI ROCK FESTIVAL「ROOKIE A GOGO」に出演。2010年9月に 『C’mon Dresden』、2011年5月に『バンドを始めた頃』リリース。2012年9月『珍文完聞-Chin Bung Kan Bung』、2015年3月に『青春の象徴 恋のすべて』をリリース。3月のライヴをもってバンドの無期限休止を発表。3月のライヴをもってバンドの無期限休止を発表。
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