今週の永田町(2015.3.11~18)

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 【来年度予算案、参議院で審議入り】

 先週13日、一般会計総額96.34兆円(前年度当初予算比0.5%増)の来年度予算案が、衆議院本会議で与党などの賛成多数により可決、参議院に送付された。また、同日の衆議院本会議で、税制改正関連法案4案が与党などの賛成多数により可決、民主党が提出した対案「格差是正及び経済成長のために講ずべき税制上の措置等に関する法律案」は反対多数により否決された。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

 衆議院本会議への緊急上程に先立って行われた衆議院予算委員会での締めくくり総括質疑で、安倍総理は「景気回復の動き、デフレ脱却を確実にする。成長戦略を進めることにより、好循環を実感できる経済をつくる」「賃金や地方のみなさんの所得で実感できる経済をつくっていきたい」などと述べ、来年度予算の早期成立を呼びかけた。

 一方、来年度予算に関する衆議院本会議での討論で、民主党は「格差に立ち向かう熱意がまったく感じられない」(小川淳也・衆議院議員)、「弱い立場の方の生活や命を脅かす予算削減が含まれている」(山井和則・衆議院議員)などと批判して、予算案に反対した。「身を切る改革の観点から切り込みが不十分で、公共事業費などが膨張している」(松野頼久幹事長)などと批判する維新の党は、国会議員歳費や公共事業費など約4.5兆円を減額して子育て支援の拡充や国債減額などに回す組み替え動議を提出した。共産党も組み替え動議を提出したが、いずれも反対多数により否決された。

 来年度予算案の衆議院通過を受け、仮に参議院で議決に至らなくても、衆議院の優越を定めた憲法規定により4月12日には自然成立することとなる。与党は、年度内成立をすでに断念しているが、統一地方選前半戦の投開票日(4月12日)より前の成立をめざしている。政府は、国民生活に影響が及ばないよう、来年度4月1日から予算成立までの必要経費に関する暫定予算案を11日間程度で編成する方針だ。

 16日、参議院で実質審議入りし、論戦の舞台は参議院予算委員会に移った。16日と17日には、安倍総理はじめ全閣僚が出席して基本的質疑が行われた。18日には安倍総理と関係閣僚が出席して一般質疑、19日には麻生財務大臣ら関係閣僚が出席して一般質疑が行われる。与党は、16日の参議院予算委員会理事懇談会で、委員会採決の前提となる中央公聴会を24日に行うよう提案したが、民主党など野党は「集中審議の日程も併せて提示してほしい」として回答を留保した。来年度予算案の審議日程について、17日にも改めて協議することとなった。

【献金規制のあり方をめぐって議論】

 来年予算の早期成立をめざす与党は、国会審議の遅れを最小限に食い止めたい考えだ。一方、野党は、下村文部科学大臣の任意団体「博友会」をめぐる献金問題など閣僚の政治とカネ問題を引き続き追及する。また、政治資金規正法改正に否定的な見解を示す安倍総理との質疑を通じて、自民党は企業・団体の献金規制に後ろ向きとのイメージ付けも試みているようだ。

 16日、参議院予算委員会での基本的質疑で、民主党の羽田参議院幹事長は、政治資金パーティーの自粛などを定めた閣僚・政務三役の服務基準を規定する「大臣規範」を改正して在任中の企業・団体献金受け取りを禁じるよう提案した。これに対し、安倍総理は「各閣僚は法にのっとり政治資金に適正に対処している。大臣規範もしっかり順守されている」と国の補助金交付企業からの献金をめぐる問題の違法性を否定したうえで、大臣規範の改正は現時点で必要ないとの認識を示した。

 安倍総理は「企業・団体献金をすべて禁止するとの考え方はとっていない。そもそも企業・団体献金が間違っているという考えではない」(12日、衆議院予算委員会での答弁)と明言している。そのうえで、企業・団体献金の規制強化は政治資金規正法の運用改善でまず対応すべきだとして、野党が求める規正法改正による規制強化にも否定的な見解を示した。

 ただ、野党側も、規正法改正による企業・団体献金の全面禁止に積極的な維新の党、共産党、次世代の党、社民党などに対し、全面禁止に二の足を踏んでいる民主党と、一枚岩になりきれていない。民主党は、企業・団体献金の全面禁止(パーティー券購入含む)は「将来的に」としており、維新の党が宣言した自主的な全面禁止も否定的姿勢だ。「法改正で同じ土俵にしていくことが重要」(12日、長妻代表代行の記者会見)と、潤沢な企業・団体献金を受け続ける自民党などが賛同して法改正が実現しない限り、民主党も企業・団体献金を受け続ける意向を示している。

 12日に開かれた民主党の政治改革・国会改革推進本部(本部長:枝野幹事長)の総会では、(1)補助金を受けた企業・団体に1年間献金を禁じる条文の周知徹底、(2)補助金受給企業の政治家側への情報開示義務付け、(3)国以外の団体を経由した補助金も禁止、(4)違反者に対する罰金の引き上げや補助金返還などの罰則強化などを柱とする政治資金規正法改正案の骨子をまとめた。改正案を20日までに取りまとめたいとしている。

 民主党案がまとまり次第、野党は協議を行う予定でいる。ただ、規正法改正で野党が一致結束できるかは、いまのところ微妙な情勢だ。

【安全保障関連法案、全体像を提示】

 政府は13日、安全保障法制整備に関する与党協議会(座長:高村・自民党副総裁、座長代理:北側・公明党副代表)で、安全保障関連法案の全体像や、集団的自衛権行使の限定容認を除く6分野で法案に盛り込む派遣要件などについて一括提示した。

 焦点となっている自衛隊の海外派遣については、「周辺事態法改正案」「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」「新たに制定する恒久法案」の3法案で対応する。

 日本の平和と安全のため活動する他国軍への後方支援を可能にするため、周辺事態法を改正する。事実上の地理的制約がある「周辺事態」という概念を、わが国の平和および安全に重要な影響を与える事態「重要影響事態」という新たな概念を設けて置き換えるとしている。これにより、日本への原油輸入ルートであるシーレーン(海上交通路)などでも後方支援が可能となる。

 武器使用権限の拡大や人道復興支援も行えるようにするため、PKO協力法を改正では、PKO派遣の要件を定めた「PKO参加5原則」などを改正する。5原則のうち「武器使用は要員の生命等の防護のための必要最小限を基本」に「受け入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、業務の遂行に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能」を加え、停戦監視や安全確保など治安維持活動や駆け付け警護ができるよう、「任務遂行を妨害する行為を排除」にも武器使用権限を認める。

 また、PKO以外の人道復興支援については、PKO参加5原則に準じた5原則を別途策定する。派遣の要件として、(1)国連決議、(2)国際機関や地域的機関からの要請、(3)領域国の要請があり、国連主要機関が支持または称賛する場合のいずれかを満たせば可能とした。政府は、自衛隊の海外派遣に慎重な公明党に配慮して、海外新たな5原則を厳格に運用することで、自衛隊活動の歯止めとするとしている。治安維持活動を実施する場合は、原則として国会の事前承認が義務づけられるが、それ以外の人道復興支援活動には事前承認が不要となる。

 一方、国際社会の平和と安全のため活動する他国軍への後方支援については、新たに恒久法を制定する。国際紛争に対処する他国軍への後方支援に限定し、その3原則を(1)現に戦闘行為を行っている現場では支援活動を実施しない、(2)領域国政府等が活動の実施に同意、(3)これらが満たされない状況となった場合は撤収するとした。

 他国軍の活動については、(1)国連決議、(2)国連決議で「国際の平和と安全に対する脅威」があると認められている場合のいずれかを根拠としている場合としている。政府は、国連決議がない場合でも、「国際機関・地域的機関からの要請」「国連総会など主要機関の支持・称賛」を得て実施される活動であれば、他国軍への後方支援を行うことできるようにすることも検討するとしている。

 恒久法にもとづく後方支援は、医療、燃料などの補給、輸送支援、修理・整備、弾薬の提供などが可能で、武器の提供については引き続き除外となった。当初、政府は、他国軍と物資を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)を締結ごとに行っている自衛隊法改正を省略することを検討してきたが、慎重な公明党に配慮して見送ることとなった。また、戦闘参加者の遭難者捜索・救助も可能にし、救助は戦闘行為を行っている現場であっても活動の継続が許容される場合があるとの見解が示された。

 自衛隊の海外派遣する際の国会の関与については「事前に国会承認を得ることを基本」とし、具体的な活動を盛り込んだ基本計画を国会に提示することも明記するとしている。

 このほか、在外邦人救出のための自衛隊派遣について、政府は、派遣先の国家で武力紛争が起きていないことや、当事国の警察など治安機関が治安維持活動をしていることが前提とした。そのうえで、(1)在留邦人の安全確保の義務を負う領域国政府に代わり日本が安全確保を行う相応の事情があるか、(2)任務を遂行するための武器使用を含め自衛隊活動への領域国の同意があるか、(3)必要最小限度の武器使用で対応できるか、(4)領域国の治安機関による協力・支援が得られるかが、派遣可否の判断材料になるとしている。

 自衛隊による船舶検査活動については、対象船舶が帰属する国の同意があれば船長の同意がなくても検査できるよう要件を緩和するため、船舶検査活動法の改正が検討されていたが、公明党が難色を示すとともに、憲法が禁じる海外での武力行使にあたる恐れがあるとして見送ることとなった。

 グレーンゾーン事態(自衛隊法改正案)や集団的自衛権(武力攻撃事態法改正案、自衛隊法改正案)については、与党間の意見調整がほぼ終えている。

【安全保障法制の方向性、20日にも合意へ】

 こうした政府側の説明・提案に関し、自衛隊の海外派遣拡大を極力抑えたい公明党は、いまだ疑問点が残っているとし、事態の性質が理解できるよう詳細な内容を規定するよう要望した。

 重要影響事態という新たな概念に置き換わる点について、地理的制約がなくなることへの警戒から「概念が広すぎる」と批判しているほか、支援対象を米国以外の外国軍隊に広げることにも慎重姿勢をとっている。

 自衛隊の海外派遣の要件として国連安全保障理事会決議が絶対条件とする公明党は、恒久法で国連決議がない場合でも後方支援が実施できるよう検討項目に加えていることも問題視する。「武力行使をしている多国籍軍の後方支援をするなら、国際法上の正当性が強く求められるのは当然」(北側副代表)などとして、さらなる議論が必要としている。

 また、恒久法にもとづく後方支援について「事前に国会承認を得ることを基本」としている点について、公明党は、見直しを要求している。国会承認に手間取れば、迅速な自衛隊派遣ができなくなるため、政府・自民党は、緊急時であれば事後承認も可能とすべきではないかと主張したが、国会関与を強く求める公明党は、例外なく事前承認にすべきと主張している。

 自民党と公明党は、20日に予定される次回協議で正式合意する方針だ。それに先立って、18日に臨時会合を開催し、高村座長・北側座長代理がとりまとめた共同文書原案「安全保障法制整備の具体的な方向性について」を示して協議する。20日の与党合意に沿って、政府は、4月中旬までに法案化作業を進めていくようだ。その後、与党協議での審査などを経て、5月中旬にも閣議決定のうえ国会提出するという。

 

【主要法案の国会提出動向にも注目を】

 参議院予算委員会での来年度予算案審議がスタートした。いまのところ、安倍内閣のスキャンダルや閣僚の資質問題への追及、献金規制のあり方をめぐる議論が主な焦点となっている。来年度予算案に係わる経済再生や規制改革、地方再生など安倍内閣の重要政策に関する議論はあるものの、あまり深まっていないようだ。審議日程をめぐる与野党攻防を抑えつつ、今後、統一地方選を意識して、野党がどのようなテーマで論戦をしかけていくのかをみておきたい。

 また、統一地方選後の論戦がどのようなテーマでおこなわれることになるのかを見極めるためにも、まずは政府が提出する主要法案、野党の対案づくりなどの動向もあわせてみておいたほうがいいだろう。

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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