『博士と彼女のセオリー』監督インタビュー「障害を超越して苦しみを共有する夫婦の姿」

TTOE_D09_03497

先日行われた「アカデミー賞」にて主演男優賞を受賞、「英国アカデミー賞」や「ゴールデン・グローブ賞」でも数々の賞に輝いている『博士と彼女のセオリー』。いよいよ3月13日本日から公開となります。

『博士と彼女のセオリー』はALS(筋萎縮性側索硬化症)のハンデを負いながら最先端の研究を精力的に行う“車椅子の天才科学者”として知られている、ジェーン・ホーキング博士の人生を描いたドラマ。筆者も一足お先に観て来たのですが、次々と色々な事が起こり、その度にホーキング博士とその最初の妻ジェーンの意志の強さに感動させられます。どんな困難を持ってしても人間の希望は誰にも奪えないのだと、勇気づけられると共に、お涙頂戴的な美談で終わらないストーリーの妙が非常に素晴らしい作品です。

本作を手掛けたのは2008年、ドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』でアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したジェームズ・マッシュ。今回、ガジェット通信ではジェームズ・マッシュ監督に電話インタビューを敢行。作品について色々とお話を伺いました。

TTOE_D09_03521_R_CROP

――映画拝見して本当に本当に素晴らしい作品でした。しかし、実在する、しかも存命の人物が主人公ということで苦労もあったのでは無いでしょうか?

ジェームズ・マーシュ:真実の物語なのでプレッシャーはもちろんありました。よく知られている作品だからこそ、それを映画として演出するのは難しい。ホーキング博士と最初の妻ジェーンの物語だけれど、結果的に2人は離婚している。でも、夫婦の姿の描き方を間違えると“のぞき見趣味”になってしまうといけないと思って、2人に最大のリスペクトを持って丁寧に作ろうと思ったんだ。

――本作はジェーンの回顧録『Travelling to Infinity: My Life with Stephen』が基になっていますが、監督が一番惹かれた部分はどんな所でしょうか。

ジェームズ・マーシュ:最初の10ページだけにも、非常に興味深いと思った点を見出していました。それは、スティーブンに恋した女性の視点であり、彼と一緒に生きてゆくかどうかという、非常に難しい選択をした女性。恋をしてこれから結婚をしようとしている彼が「余命2年」だと診断されていたのですから。「障害を超越して、苦しみをスティーブンと共に共有する」という視点が、これまでの伝記とは違う視点だと思いました。

――博士の功績を讃える為だけに作られた映画では無いという事ですね。

ジェームズ・マーシュ:この映画は、彼の科学者としてのキャリアについては、物語の中に深く埋め込まれて、それについてはさほど重きを置くものにはならず、あのような障害を持ちながら天才だった人物と、どのように生きて行くか、という物語に仕上がりました。ご存知のように、それは感情的にも非常に複雑なことであり、そのような状況が、この物語のオリジナル部分となりました。あのような病に侵されている人物を愛するのは、どのようなことなのか……どのような愛や束縛が妻であるあなたに課せられることになるのか。

――今回映画を作るにあたり、改めて調べた事や、初めて知って驚いた事などはあったのでしょうか?

ジェームズ・マーシュ:実は、僕はホーキング博士の事をちゃんと知らなかったんだって今回の映画作りで気付いたんだ。子供が3人いることも知らなかったくらい。でも多くの人が実は僕と同じ様に詳しくは知らないんじゃないかな? でも知らなかったからこそ、とてもフラットな気持ちで作品に挑めたよ。学生時代に恋に落ちて、余命二年と言われても結婚をして、病状が悪化して、結婚生活も複雑になりジョナサン(ジェーンの二番目の夫)が登場し、とてもドラマティックな人生だよね。

――そんな信じられない様な人生を、主演のエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズは見事に演じきっていましたよね。エディのキャスティングについて教えていただけますか?

ジェームズ・マーシュ:僕は最初から、彼だ、ということが分かっていました。お互い気が合いました。彼の情熱、そして彼の志が素晴らしかった。この役は肉体的にも精神的にも要求が多くて、俳優に大きな負担がかかると思います。それは、ジェーンの役柄もそうです。でも、エディに一度出会い、僕には分かりました。これは素晴らしいことになるぞ、と。多少、彼とダンス(話し合い)をして、僕が一緒に仕事をしたいのは彼だと、確信しました。彼はMNDの人々、MNDの医療関係者と会って、とても丁寧に準備をしてくれたんだ。

――そんなエディに、監督からお願いや演技指導を行う事はあったのでしょうか?

ジェームズ・マーシュ:僕の彼に関する役割は、彼に自信を与えることであり、サポートすることでした。彼を批判するのではなく、ただ準備のサポートをする。正直、彼はかなり恐ろしいこともしていました。ですがそれが、もしうまく行かなければ、あの役の、すべてのシーンを演じることは出来ません。ですが、結果はうまく行ったと思います。

――この映画を観た人なら誰もがエディが主演で正解だと間違い無く感じるでしょうね。今日はどうもありがとうございました。

TTOE_D02_01157

『博士と彼女のセオリー』3月13日より全国公開

http://hakase.link

(c)UNIVERSAL PICTURES 

  1. HOME
  2. エンタメ
  3. 『博士と彼女のセオリー』監督インタビュー「障害を超越して苦しみを共有する夫婦の姿」

藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。