「ピンク映画」ってなんだ?【倉沢いちはの映画レビュー】

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久しぶりであり、これが最後のコラム執筆となります。AV女優の倉沢いちはです。今年4月の引退を決め、活動もあとひと月あまりとなりました。気になる映画のレビューを自由に綴ってきたこのコラムの最終回に何を書くか。最後くらい自分が出演した映画のことを書いてもいいのではないかと思い、ピンク映画について書いてみます。

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ピンク映画と聞いて、皆さんはまず何を思い浮かべるだろうか。昔のもの?廃れてる?そもそもその存在を知らないという方もいるかもしれない。私も最初の1本のオファーを受けるまで、ピンク映画を知らない一人だった。そんな人にこそ、このコラムを読んでいただきたい。

セックスや性欲といったものは、睡眠欲・食欲と並ぶ人間の三大性欲であり、遥か昔から日常生活にしっかりと存在し続けている。だが、日本では近年特に「有害」とか「公序良俗に反する」とか言われて忌避され、さも存在しないもののような扱いを受けている。書店に並ぶアダルト雑誌しかりアダルトビデオしかり風俗店しかり、性に関する表現や性風俗への規制は勢いを増し続けている。そんな状況にあっても、性から逃げず、性を省かず、つくられ続けているのがピンク映画だ。現在も年間40本程度の新作が発表されている。

成人指定映画だからといって、なにもセックスシーンのみが延々スクリーンに映し出されるわけではない。ストーリーがあり、人物があり、起承転結の流れのなかにセックスシーンやエロティックな表現が組み込まれている。ただエロいだけではないのかと侮るなかれ。文化的芸術的作品なのである。基本的にDVDなど記録媒体として販売やレンタルされることはなく、映画館での上映でしか目にすることができないため、全く観たことのない人にとっては最初のハードルは高いかもしれない。しかし、一度足を踏み入れれば、何ということはない。ピンク映画館の居心地は想像以上にいいものだ。一見の価値は必ずある。

昨年、ピンク映画は大転換の年を迎えた。主要メディアであるテレビも2011年に地上デジタル放送に完全移行し、スマートフォンにおける経済市場は拡大を続け、あらゆるアナログ仕様のものは時代から取り残されてしまいつつある。そんな時代のなか、ピンク映画は多くの作品においてフィルム撮影を続け、映像を撮影したあとに音声をアフレコで録音して重ねるという手法を取ってきた。

しかし2014年、ピンク映画製作大手である大蔵映画が35mmフィルムでの撮影からデジタル撮影への転換を実行した。ピンク映画ファンや制作関係者のなかには、独特の味があるフィルム撮影でこそピンク映画であるとの意見を持つ人も多く、また歴史あるピンク映画館ではデジタル上映の設備がなく新規投資しなければならないなどの理由からデジタル化は難航した。しかしフィルム自体の生産を中止する企業が出てきたことや、コスト高などを要因にデジタル化が実行された。ただ、一部の作品ではデジタル撮影になってからもアフレコによる録音が行われている。

私自身、2013年初頭から2014年末まで4本のピンク映画に出演した。そのうち3本はフィルム撮影、最後の1本はデジタル撮影だった。出演本数は多くはないが、フィルム撮影とデジタル撮影の両方を経験した人間として、僭越ながら主観的な感想を書き留めたい。初めてのピンク映画出演がフィルム撮影だったわけだが、まず「フィルムはそれ自体が値段の高いものだから、何度も撮り直しはできないよ」と聞いたのを覚えている。お芝居というものの経験がなかった私にとって、その言葉は恐怖そのものだった。撮影現場では、フィルムの回る「ジー」という音がカメラから聞こえ、平成生まれの私にとっても不思議に懐かしく、心を落ち着かせてくれた。

アフレコでは自分の指を舐めながら愛撫の音を入れ、撮影時の気持ちを思い出しながら口の動きに合わせてセリフをしゃべることに四苦八苦した。モザイク処理のできないフィルム撮影では、モザイクをかけなければならない箇所とカメラとの間にグラスを置いたり、レンズにフィルターをかけてワセリンのようなものを塗りボカシをかけたりと工夫を凝らしている技術スタッフの姿に目をみはった。アフレコをする録音所では、長い年月と膨大な数の作品づくりにより刻まれた歴史と、熟練の録音技術に衝撃を受けた。そんな場所で仕事ができたことに興奮した。

デジタル撮影になり大きく変わったのは、録画と録音が同時になったことである。これにより、スタジオ周辺の騒音など外部音声の干渉を受けることとなったが、あとで映像に合わせて声や音をつくる必要がないため、そのときの雰囲気がものをいうベッドシーンは格段に演じやすくなった。また、デジタル形式で記録されるため、複製や編集が手軽になった。今後はピンク映画館に行かずとも、ピンク映画を目にすることがあるかもしれない。

私のピンク映画との出会いは、女優人生にとって最大の出会いだった。急遽欠員が出たこと等の偶然が重なって最初の1本に出演し、役者の先輩方や監督やカメラマンや録音技術師の職人技に感激し、自分の未熟さに途方に暮れた。再びピンク映画に出演したいとの思いを支えに女優を続け、ピンク映画に関わる人々のピンク映画にかける思いに奮い立たされてきた。デジタル化という転換期を経て、これからのピンク映画はどう進化していくのだろうか。女優引退後もひとりのピンク映画ファンとして、ピンク映画を観続けていきたい。このコラムが、お読みいただいた方とピンク映画との出会いの一歩となることを願うばかりだ。

不定期の配信となりましたが、これをもちまして倉沢いちはによるコラム連載を終了させていただきます。拙い文章ではありましたが、お読みいただきありがとうございました。

プロフィール

倉沢 いちは(くらさわ・いちは)
アダルトビデオ、ピンク映画、舞台演劇に出演する女優。
2015年3月13日より、上野オークラ劇場、横浜光音座2などで自身最後のピンク映画出演作「不倫美姉妹 白衣のあえぎ」(関根和美監督)公開。
2015年3月28日、阿佐ヶ谷ロフトAにて行われる第八回東京電撃映画祭において、友松直之・黒木歩共同監督による自身のドキュメンタリー自主映画が一夜限り上映される。
2015年4月2日~5日、下北沢GEKI地下Libertyにて舞台、石川蛍追悼公演「五番街のマリー」出演。
2015年4月14日~19日、同じく下北沢GEKI地下Libertyにて舞台、乱痴気STARTER本公演 乱痴気13「キャプテン・オブ・ザ・コック~お前が匙を取れ~」出演。その千秋楽にて引退予定。

倉沢いちは公式ブログ「交差点」 http://blog.livedoor.jp/kurasawa_ichiha/
Twitterアカウント https://twitter.com/icchan180

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藤本エリ

映画・アニメ・美容に興味津々な女ライター。猫と男性声優が好きです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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