『ソロモンの偽証』成島監督インタビュー「14歳という危うい世代への“生きてていいんだよ”というメッセージ」
ベストセラー作家・宮部みゆきの最高傑作と謳われている「ソロモンの偽証」を、日本アカデミー賞ほか主要映画賞を30冠受賞した成島出監督をはじめとする『八日目の蟬』チームが再結集し、完全映画化した日本映画史上最強のヒューマン・ミステリー超大作、映画『ソロモンの偽証 前篇・事件』。いよいよ3月7日より公開となります。
本作は、クリスマスの朝、転落死した男子生徒の事件をきっかけに、過熱するマスコミ報道、無力な学校と親、新たな殺人計画、そして犠牲者がひとり、また一人……と事件が進行していくミステリー。「もう大人には任せておけない」と生徒達が“学校内裁判”を行う物語です。
生徒を演じたのは主演の藤野涼子さんをはじめ、ほとんどが無名の新人俳優たち。全国から応募を募った1万人の大規模オーディションで配役を決定したことも話題です。今回は、原作のどんな部分に一番惹かれたのか? 生徒役の俳優陣をほぼ新人にした意図とは? 成島出監督に色々とお話を伺ってきました。
――本作は宮部みゆきさんのベストセラーを映画化したものですが、きっかけはどんな事だったのですか?
成島監督:僕はもともと宮部さんの大ファンで、小説「ソロモンの偽証」が発売された時にすぐに手にとって。その時は映画化するつもりなどは無かったのですが、別作品で動いていたスタッフに「この本すごいから読んでみて」と貸して、結果同じスタッフと映画化する事に。全部で6冊もある小説ですから、どうやって映画化するんだろうと。前後篇でやろうと決まった時は、松竹さんの決意を感じました。
――原作のどんな所に一番惹かれましたか?
成島監督:中学生の14歳って、子供と大人の境目のすごく危うい世代で。原作を読んだ時に、その子たちへの「生きてていいんだよ」という宮部さんからのメッセージを感じて涙したんですね。宮部さんっていまだに14、15歳の精神を忘れて無いんですよね、そこに感動して。なおかつエンターテイメントとしても面白い。とてつもない作家さんだと思います。
それで多くの子供達にこの話を知って欲しいと思ったんだけど、小説が長くてなかなか読めないだろうから、映画にして届けようと。僕もそうだったんだけど、中学生の時に観て、ショックを受けた映画って一生忘れないから。今の子供達にとってそうなって欲しいなと。
――長い小説を映画にまとめて、しかも物語の本質自体は無くしてはいけないというのは、とても難しい作業だったのでは無いでしょうか。
成島監督:苦労しました。前後篇に分かれてはいますけど、メインは“学校内裁判”ですから、そのシーンがお遊戯会になってはいけないと。前篇では事件が起こり、事件の周りの人間が翻弄されていく姿や、子供達がどんな事に傷ついているのかが描かれていますが、後篇ではスリリングで、さらにエンターテイメントの要素も増えてきます。何より裁判のシーンは苦労しましたが、満足しています。
――本作は、キャストを大規模オーディションで選んでいますが、これも企画当初からの考えですか?
成島監督:そうですね、生徒役の大オーディションをやることは、映画の企画がスタートした時から決まっていました。最初1万人からスタートして、だんだん人数が減って行くわけですから、子供達にとってはしんどいオーディションだったのでは無いでしょうか。でも良かったのは、半年間以上かけて演技のワークショップを行った事で、本当のクラスメイトの様な絆が出来た事ですね。
――主演を藤野涼子さんに決めた理由を教えてください。
成島監督:彼女は最終オーディションで残った子達の中でも一番何も出来なかったんですよ。他のキャストは子役経験のある子とかもいたから、すぐに役にハマる場合もあったんだけど、彼女はクランクインまでにちゃんと物になるかという時間との戦いでしたね。毎日レッスンに来てもらって。だけど、撮影しはじめたら、彼女が話す言葉って説得力があるし、役柄の「藤野涼子」そのものに見えてくるんですね。演技経験が無いからこそ、本当に事件に戸惑って、考えて発言している空気感があるというか。
――藤野涼子さんは本作でデビューし、今後も芸名を「藤野涼子」で活動するという、ちょっと昔の日本映画の様な試みも面白いですね。
成島監督:彼女自体が今時の顔では無くて、昭和顔というかね。彼女が今後女優として活動していく時に芸名をつけたいと言っていて、たまたま「藤野涼子」を姓名判断したら女優にむいている名前だという事が分かったので、それにしようと。
――藤野さんはもちろん、他のキャストさんも、ギリギリで頑張っている14歳の姿が生々しくて、見ているだけで涙が出そうになりました。後篇は4月11日に公開となりますが、こちらも楽しみです。
成島監督:後篇ではいよいよ“学校内裁判”がはじまります。先ほど、お遊戯会にはしたくないと言いましたが、一番気合いを入れて作ったシーンですので、期待していただきたいです。前篇はミステリー色が強くで、後味が悪い作品なのかな? と思う方も多いと思うのですが、後篇はとても救いのあるお話になっています。今悩んでいる、もがいている子供達はもちろん、14歳を経験した大人達も映画館を出た後、ああ良かったなって、そんな気持ちになっていただきたいです。
――今日はどうもありがとうございました!
『ソロモンの偽証 前篇・事件』ストーリー
バブル経済が終焉を迎えつつあった1990年12月25日のクリスマスの朝、城東第三中学校の校庭で2年A組の男子生徒・柏木卓也が屋上から転落死した遺体となって発見される。警察は自殺と断定するが、さまざまな疑惑や推測が飛び交い、やがて札付きの不良生徒として知られる大出俊次を名指しした殺人の告発状が届き、事態は混沌としていく。遺体の第一発見者で2年A組のクラス委員を務めていた藤野涼子は、柏木の小学校時代の友人という他校生・神原和彦らの協力を得て、自分たちの手で真実をつかもうと学校内裁判の開廷を決意する。
(C)2015「ソロモンの偽証」製作委員会
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