オリンポス12寮が激突! 死屍累々の火星バトルロイヤル

オリンポス12寮が激突! 死屍累々の火星バトルロイヤル

 火星での吊し首は、重力があまり強くないので首の骨を折るために両足を引っぱる必要がある。その役目を負うのは近親者だ。それがルールだ。

 そんなショッキングなエピソードから、この物語は開幕する。未来の太陽系社会は厳格なカースト制度が敷かれ、上位階級ゴールドの圧倒的統治におかれている。主人公の青年ダロウは最下階級レッドに属している。冒頭シーンで絞首刑にあうのは彼の父親だ。父は自分たち労働者の食料割り当てを増やそうと雇用主を説得しようとし、それが反乱と見なされ罪に問われた。彼らが従事しているのは、火星の地下資源ヘリウム3の採掘だ。労働環境は最悪だが、レッドに生まれた者は苦しい境涯に甘んじるしかない。

 作品タイトルの『レッド・ライジング』のレッドは火星の色にして、ダロウが属する最下層の色だ。そこからの上昇は不可能だ。しかし、ダロウはどんな犠牲を払っても、それを果たさなければならない。父親だけではなくもっとも大切なひとが、ゴールド支配を印象づける見せしめとして冷酷に殺された。もはや彼の生きがいは、このおぞましい社会体制の転覆だけだ。レッドの地下組織にスカウトされたダロウは、前代未聞の計画に身を投じる。

 ゴールドの強権的支配に対抗するには、反乱など意味がない。あっさりと鎮圧されてしまうだけだ。支配機構の中枢に入りこみ内側から壊すしかない。ダロウは外科的な人体改造と厳しい訓練(知力・教養・立ちふるまい)を経てゴールドの子息になりすまし、エリート養成校の難関選抜試験を突破する。養成校はオリンポス神になぞらえた12の寮からなり、そのあいだの対抗によって成績を競う。

 それはハリー・ポッターのような牧歌的なものではない。ダロウは入寮初日から、同寮生と殺しあいを強いられる。寮監によってふたりはひとつの部屋に閉じこめられ、出ていけるのはひとりだけと宣告されたのだ。一緒に閉じこめられた相手は、よりによってダロウが最初に仲良くなった気立ての良い少年。のっけから試練だ。

 ここまでが600ページ強ある全体の約3分の1。テンポがよく一気に読ませる。古代のスパルタクスをはじめ、社会下層から実力によって指導的存在へと成りあがっていく展開は、英雄物語のひとつの典型だ。火星を舞台にする意味はあまりないのだが(テラフォーミングが進んでいるので地表でも普通に行動ができる)、そこはまあ「戦の星」という雰囲気ってことで。ダロウが所属するのは「マーズ寮」なので輪をかけて勇ましい。

 ヤバいのはゴールド階級の思想で、彼らは「文明が自然淘汰を弱体化させる」と信じており、弱肉強食の闘争を当然としてスパルタ式に子どもを育てる。戦って生き延びられる強い者だけがいればよいのだ。それにしても、人が死にすぎだろう、このガッコ。自然淘汰どころじゃなく、殺しあいになってるじゃん。

 ゴールドの強さは戦闘力だけではなく、策略や人心掌握も含まれる。ダロウが競いあう相手は、それぞれに特長を備えたクセモノばかり。同じ寮のなかで協力しないと他寮にやられてしまうが、各自の思惑があって反目や裏切りは日常茶飯事だ。そのなかで誰かがリーダーシップを執らなければならない。そのうえ、先述した入寮初日の強制決闘のように、寮監(それぞれの寮についているので12人いる)が恣意的に介入してくる。どうもキナ臭い陰謀があるらしい。

 この状況下でダロウは、自分を失わずに生き延びていけるか? 心が通じあうように感じる仲間も見つかるし、性質は下劣だが頼れる配下もいる。しかし、彼らはいずれすべてダロウの敵になるゴールドなのだ。この小説の良さは、愛とか正義とかのおためごかしを唱えず、やることに躊躇がないところだ。さんざんな目に合って武力のみではバトルを勝ちぬけないと知ったあとでも、ダロウは「あいつをとらえ、報復として殺してやる」などと口走る。なんてバイオレンス!

 本書は三部作の最初の一冊。後続の巻もこの調子でいくのかな。

(牧眞司)

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