プロレス界の”お手盛り”と重なる気がしないでもない時代劇コメディ『超高速!参勤交代』

 プロレスを含めイベント興行には招待客がつきもの。関係取引先、芸能界筋に観て貰って次回以降のイベントの宣伝やイメージアップに繋げたり、取材・中継向けにTV映りを良くするためにも欠かせない手段とされます。
 一般向けにも招待券が提供されることがあり、当時”札入り満員御礼”を連発していた四天王全盛期の旧全日本プロレスでも、日本武道館大会などで一番安い席などが開放されていました(※)。
 
 てことで、今回はプロレス界における”お手盛り”とうっすら重なる……気がする『超高速!参勤交代』(2014)がお題。
 8代将軍・徳川吉宗の時代。極悪老中の謀略によって、「5日以内の参勤交代」を命じられた湯長谷藩(現在の福島県いわき市)藩主・内藤らが、お家お取り潰し回避のため、あの手この手で江戸城を目指すロードムービーです。

 参勤交代は本来1年おきに実施されるものですが、「大名行列」を伴う費用は全て各藩の自腹となるため、小国では財政破綻の要因にもなったそうで。かといって参勤拒否すれば待つのはお家お取り潰し。
 極悪老中は、湯長谷藩領内で発見されたという金山の利権奪取を狙い、江戸から戻ったばかりのタイミングでお取り潰し不可避な参勤を強要した、というのが本作の取っ掛かり。

 僅か1万5千石で財力皆無の湯長谷藩の面々は、8日かかる行程を5日で駆け抜ける少人数(小猿含む)弾丸参勤を立案。監査が入る2つの関所だけ雇った人足(今でいう非正規雇用者?)で行列を水増しして切り抜けることに。
 人足水増し自体は史実にもあった正統派”お手盛り”策だった様ですが、湯長谷軍団はさらに”無限ループ”な荒業で強引に水増し!

 プロレス界における正統派”お手盛り”策は招待券、大会開催後の主催者発表の入場者数ですが、WWEではTV中継放映時、観客が驚く映像や歓声を”お手盛り”編集する荒業も!

 ともあれ、最初の関所を抜けた湯長谷軍団でしたが、三日目の夜、老中の刺客による闇討ちにより、湯長谷軍団は散り散りに。人足を雇う資財も失い、藩主は消息不明のままでお取り潰し待ったナシ!状態となりますが、ここからは説明するのが野暮な王道展開へ。
 
 邦画コメディの王道『釣りバカ』シリーズ数本も手掛けた本木克英監督は手堅い作風の印象ですが、『鴨川ホルモー』ではサブカル寄りのナンセンスな笑いの手腕もみせており、本作中に散りばめられた数々のギャグからも、スベることを恐れぬ信念すら伺えます。

 のんきな藩主に佐々木蔵之介、口うるさい家老には西村雅彦、敵役となるファッキン老中には陣内孝則など、濃い目のキャストが揃っていることもあり各人のキャラ立ちも明確。
 殺陣も本格派ではなく、アクロバティックな忍者ショー寄り。この辺りも緻密な攻防よりも見栄えやインパクトを旨とするWWE的かもしれません。

 現代劇テイストで気軽に観れる作品ですが、逆に真面目な時代劇を期待すると壮絶な肩透かしを食らうのでその辺りはご注意を。

(文/シングウヤスアキ)

※ 近年では取り扱いが減ったようですが、提供元となる某新聞社の関係企業が運営している会場での大会なら団体を問わず発行されていたとのこと。

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