中国の食文化が豊かなのは、理不尽な支配が長年続いたから?
地方官による不当な搾取や横暴――古くから中央集権制をとっていた中国では、権力や財力はすべて役人たちに集中し、庶民たちは理不尽な支配を受け続け、決して生きやすい世ではなかったといいます。そうした苦しい生活から脱出するための手段は唯一つ、科挙に合格すること。科挙に合格すれば、高級官僚になることができ、裕福な暮らしを送ることが約束されるため、一族全体の死活問題でもあったとか。
しかし官僚になる道は険しく、科挙の試験は苛烈極まるものであり、あまりの過酷さに試験期間中に頓死したり、発狂してしまう受験生も。また見事科挙に合格し、晴れて官僚になっても油断はできず、常に弾劾の危険と隣合わせ。左遷や、残酷な刑罰を受け、命を落とすこともあったといいます。
東京大学東洋文化研究所の大木康教授による『中国人はつらいよ――その悲惨と悦楽』では、いかに中国で生きていくのが大変なことだったのか、明清時代の文献を中心に読み解きながら、詳しく説明がなされていきます。
こうした過酷な世界にある反面、中国人たちはつらい日々のなかにも楽しみを見出そうとし、様々な娯楽に興じることで人生を楽しもうとしてきたのだと大木教授はいいます。
そのなかには「食」に対する相当なこだわりも。
「『孟子』の告子上篇に『食と色とは性なり』という言葉が見える。食と色とは、人の本性、人の生活に欠くことのできない重要なものであることをいう。また『礼記』にも孔子の言葉として、『飲食男女は人の大欲の存する所』とある。中国人の生活、あるいは中国文化において、飲食と男女は、特別に重要な位置を占めているといってもよかろう」(同書より)
たとえば、李漁の『閑情偶寄』には、「わたしにあって飲食中の痴情であり、彼は天地間の怪物である」との言葉からはじまる、「蟹」への並々ならぬ愛情を示した記述があるのだそうです。
蟹を買うためにお金を貯めていたという李漁。李漁によると、蟹の最も美味しい食べ方は、蟹をよく蒸して、それをそのまま氷を盛った皿の上に置き、自分でバリバリと殻を割って食べるというもの。
不平に満ちた辛い世にあって、このような楽しみを見出してきた中国人の強さ。中国の食文化が豊かな要因は、そんな祖先のメンタリティの強さにもあるのではないでしょうか。。
苦と楽、両面から探っていくことで見えてくる中国の姿とは。また中国人のメンタリティーを形成している、その源流とは。この一冊から現代の中国を理解してみるのも、面白いかもしれません。
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