下僕として使って…」文豪・谷崎潤一郎、妻との”佐助ごっこ”

下僕として使って…」文豪・谷崎潤一郎、妻との”佐助ごっこ”

 今年は、文豪・谷崎潤一郎の没後50年を来年は、生誕130年を迎えます。

 このタイミングに合わせて、中央公論新社は、決定版「谷崎潤一郎全集」(全26巻)を5月10日から刊行開始します。さらに、それに先駆けて4月8日には、歴代の谷崎潤一郎賞受賞作家を集めて鼎談イベントを開催。登場するのは、阿部和重氏、川上未映子氏、奥泉光氏の3氏です。いずれも谷崎作品に造詣が深い面々とあって、谷崎作品の魅力に触れるチャンスとなっています(お問合わせ:サンライズプロモーション0570-00-3337)。

 谷崎と言えば、昨年11月25日に、妻・松子と、妻の妹・重子らと交わした未公開書簡288通が発見されたことも注目を集めました。松子と重子姉妹は、谷崎の代表作の1つ『細雪』で描かれた、豪商の美人4姉妹のモデルと言われています。

 谷崎が松子に宛てた手紙の中には、「夫婦之契」つまり、松子から男女の仲になることを許されたことや、谷崎が「忠僕として御奉公申上げ主従の分を守り候」と誓う文言をはじめ、小説さながらの表現も多々見られます。手紙の中では、美貌で高慢なヒロイン・春琴と、春琴に献身的に仕える奉公人・佐助を描いた小説『春琴抄』そのままの世界が繰り広げられていたのです。

 従来、これら恋文は、谷崎の女性崇拝の証拠であり、『盲目物語』『蘆刈』などの名作も、芸術のミューズたる松子夫人への愛情によって生み出された作品という”松子神話”が定説となっています。

 しかし、作家・小谷野敦さんは、著書『谷崎潤一郎伝』(中央公論新社刊)のなかで、それは、谷崎の死後、松子が「下僕として使ってください」式の手紙を公開したからであり、松子自身が意図的に”松子神話”を広めたためではないかと指摘。手が届かない女性を崇め奉るというよりは、”佐助ごっこ”という、夫婦合意の上でのプレイにすぎなかっただろうと述べています。

 何はともあれ、3番目の妻・松子の存在が、作品世界に多大な影響を与えたのは事実。最初の妻・千代をめぐって、佐藤春夫と三角関係になった”妻譲渡事件”をはじめ、数多くの女性スキャンダルで有名な谷崎ですが、生涯添い遂げた女性は松子だけでした。文豪・谷崎の心をとらえ、離さなかった松子は、まさに運命の女性だったのかもしれません。

【関連リンク】
谷崎潤一郎メモリアルイヤー 
http://www.chuko.co.jp/special/tanizaki_memorial/event.html

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