「ぼくのかんがえた どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」への反論まとめ
今回はみやきちさんのブログ『みやきち日記』からご寄稿いただきました。
「ぼくのかんがえた どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」への反論まとめ
・百合*1 オタクさん(の、あくまでも一部)が得意げに開陳する「ぼくのかんがえた、どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」への反論まとめを作っておくことにしました
*1:百合(ゆり)とは、女性(または思春期の少女)同士の恋愛、または女性同士の恋愛に近い友愛を題材とした日本の漫画、ライトノベル、アニメなどの作品のジャンルやその概念のこと。
参考:フリー百科事典『Wikipedia』「百合(ジャンル)」
http://ja.wikipedia.org/wiki/百合 (ジャンル)
うちのようなガッチガチにLGBT *2 ニュース *3 を紹介しまくっているレズビアンサイトの掲示板に、「ぼくのかんがえた、どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」を開陳したがる百合オタクさんが定期的に現れるのは、いったいなぜなんでしょうか。現実の同性愛者の置かれた状況などひとつも知らず、知る気もないのに、百合ものをちょこっと読んだだけでわかったつもりになり、「おれ様が指導してやる」とでも思い込んでしまうんでしょうか。いちいち相手をさせられるこちらの迷惑も考えず、いい気なことです。
*2:LGBTとは、男性同性愛者(ゲイ)、女性同性愛者(レスビアン)、両性愛者(バイセクシュアル)、トランスジェンダーの人々をまとめて呼称する頭字語。
フリー百科事典『Wikipedia』「LGBT」
http://ja.wikipedia.org/wiki/LGBT
*3:「LGBTニュース」『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/archive?word=%2A%5BLGBT%A5%CB%A5%E5%A1%BC%A5%B9%5D
念のため断っておきますが、うちを訪れる百合好きさんの99パーセントは、そんな人じゃないんですよ。皆さん親切に百合作品の情報や感想を書き込んでくださったり、楽しい話題を振ってくださったり、困ったときには助けてくださったりして、とても楽しく交流させていただいています。百合から入ってLGBTの問題に関心を持って下さる方もいらして、サイトやっててよかったなあとよく思います。
問題は、残りの1パーセントなんです。どれだけサイト構成や注意書きを工夫しても、根拠を添えて反論を書いても、稚拙きわまりない「ぼくのかんがえた、どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」を披露しにくる百合オタクさんというのは決してゼロにはなりません。
特に以下のような周回遅れの“理由”につきあわされるのはもううんざりです。いちいち個別に反論してあげるのも疲れるので、リンクを張って「ここ読んでね」と言うだけで済むよう、あらかじめまとめのエントリを作っておくことにしました。これらの“理由”をもとに「だから同性愛者は異性愛者より不利な扱いを強いられて当然なのだ」と悦に入っちゃってる方は、みそ汁で面ぁ洗っておととい来やがれってことです。
※ながいぶんしょうがにがてなひとは、ふとじのところだけよめば、ようがたりるよ! べんり!
・周回遅れ1:「同性愛は子どもを作れない」
反論:異性愛者は子どもがいなくても庇護(ひご)されています。それに、同性愛者も子どもを持てます。
異性カップルは子どもがいなくても配偶者になれ、法的に庇護(ひご)されるのに、同性カップルにだけ子作りを義務化するのはダブルスタンダードです。また、そもそも同性愛者は子どもを持てないという発想自体が間違いです。実際には異性と子をなす人もいれば、人工授精や代理母で子どもをもうける人も、養子を迎える人もいます。アメリカの2000年のセンサス(大規模調査)では、女性同士のカップルの3組に1組、男性同士のカップルの5組に1組が子どもと暮らしていると報告しているし、英国のヒト受精・胚機構(はいきこう)によると、同国では12年間で約6000人のレズビアンが体外受精/非配偶者間人工授精を受けているそうです。
子どもの有無をにしきの御旗にしてのゲイバッシングはおやめください。
もう少し具体的な話
以下、掲示板にみやきちが書いた文章に加筆して掲載します。
*****
異性カップルはたとえ不妊症でも、無精子症でも、EDでも、子宮がんで子宮を摘出しても、重病で昏睡(こんすい)状態になり、子作りなど到底不可能な状態でも、単に子どもを作らない主義であっても、“配偶者”として認められます。
それなのに同性カップルだけ“子どもができない”ことを理由に法的なパートナーと認めないのはダブルスタンダードであり、とうてい容認できるものではありません。
また、異性同士のカップルなら、連れ子も養子も“家族”として認められます。死ねば遺産も残せるし、血がつながっていなくてもカップルの双方が法的な“親”として認められます。それなのに同性カップルに対してだけ「同性同士で作った実子を持たなければならない」という血統主義を持ち出すのは、やはりダブルスタンダードであり、卑怯(ひきょう)です。
そもそも、人工授精で子どもを持つレズビアンもいれば、代理母に依頼して子どもを作るゲイもいる世の中です。異性と結婚していたときに設けた子どもを、現在同性パートナーと育てている人も少なくありません。もちろん、養子を迎えるゲイやレズビアンもいます。
アメリカ合衆国の2000年のセンサス*4 では、女性の同性カップル世帯の33パーセント、男性の同性カップル世帯の22パーセントが、18歳以下の子どもが少なくともひとり家にいると報告しています。
またBBCニュース*5 によると、英国のヒト受精・胚機構(Human Fertilisation and Embryology Authority、HFEA)の報告では、同国で1996年から2008年の間に体外受精(IVF)を受けたレズビアンは728名、非配偶者間人工授精 (DI)を受けたレズビアンは5211人いるそうです。
このような事実を無視し、想像だけで「同性愛者には子どもがいない」ときめつける方々には、もううんざりです。
*****
*4:「United States Census2000」『U.S.Census Bureau』
http://www.census.gov/main/www/cen2000.html
*5:「Lesbians given equal birth rights」2009/08/31『BBC NEWS』
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8225158.stm
以下、2つの過去記事もご参照ください。
「“結婚するつもりがある/既に婚姻関係にあると考えている同性愛カップルの家庭は、異性カップルの既婚家庭と大差なし”UCLA調査で」 2009/11/05 『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20091105/p1
「“子どもをつくる能力は結婚が合法かどうかを判断する条件ではない”ハーバード大教授、米同性婚裁判で指摘」 2010/01/13 『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20100113/p3
・周回遅れ2:「動物には同性愛はない」「同性愛は生物学的に不自然」
反論:生物学者はそんなことを言っていません。それに、「自然なものはよい、不自然なものは悪い」というのは不合理です。
生物学者のBruce Bagemihlは、多数の動物に同性愛的行動がみられることを報告しています。同じく生物学者のNathan BaileyとMarlene Zukは、動物の同性愛を一種の適応と説明しています。
また、仮に同性愛が“不自然”だったとしても、それをもってして差別を正当化できると考えるのは間違い。英国の哲学者ムーアは、自然において存在するものから“よさ”(the good)などの倫理的な用語を定義しようとする試みは誤りであるとし、これを“自然主義的誤謬(ごびゅう)”と呼んでいます。
似非(えせ)生物学や誤謬(ごびゅう)を持ち出してのゲイバッシングはおやめください。
もう少し具体的な話
下記の過去記事をご参照ください。
「同性愛が不自然だと言っているのは、生物学ではない。あなたでしょう?」 2010/04/21 『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20100421/p1
次に、“自然主義的誤謬(ごびゅう)”について、哲学・倫理学用語集の、自然主義的誤謬(ごびゅう)より引用します。
http://plaza.umin.ac.jp/~kodama/ethics/wordbook/naturalistic.html
*****
ムーアが言い出して、 学界に大きな衝撃を与えた言葉。 要するに、“快さ”や“望まれるもの”など、 自然において存在するものによって“よさ”を定義しようとする試みは、 すべて失敗するから誤りである、とする説。 彼自身は、“よさ”は定義できない、と主張し、 ただただ直観的に理解できるだけだ、と論じた。(04/20/99)
*****
もうひとつ、“自然主義的誤謬(ごびゅう)”について。こちらはハーバード大学心理学教室教授のスティーブン・ピンカー氏の著書『人間の本性を考える[中] 心は「空白の石版」か』(NHKブックス)*6 の57ページからの引用です。
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自然主義的誤謬(ごびゅう)には、自然はよいという方向のほかに、不自然なものは悪いという方向もある。宗教右派および文化右派の解説者の多くは、彼らが生物学的に非定型だと感じる行動、たとえばホモセクシュアリティ、自発的に子どもをもたないこと、伝統的に男性のものとされる役割を担っている女性あるいはその逆などを、“不自然”だから非難されるべきだと考えている。(引用者中略)この種の道徳的論法は、生物学について何も知らない人からしかでてこない。道徳的な人びとが絶賛する行動――配偶者に忠実であること、もう片方のほほを差しだすこと、すべての子どもをいとおしむこと、汝(なんじ)の隣人を汝(なんじ)自身のごとく愛すること――は、ほかの生物の世界では“生物学的なあやまり”であって、まったく不自然なのである。
*****
*6:『人間の本性を考える~心は「空白の石版」か(中)』(NHKブックス)スティーブン・ピンカー、山下 篤子
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4140910119/beautilesbosn-22/ref=nosim/
・周回遅れ3:「同性愛は病気」「同性愛は治療すべき」
反論:国際精神医学会、WHO、米国心理学協会など、精神医学や心理学の専門家の意見は違います。
現在、国際精神医学会もWHO(世界保健機構)も、日本の厚生労働省も、同性愛を治療の対象とはみなしていません。また米国心理学会は、性的指向を変えようという試みが効果を上げる証拠はなく、そうした“治療”はかえって害をもたらすと警告しています。
似非(えせ)精神医学・似非(えせ)心理学を持ち出してのゲイバッシングはおやめください。
もう少し具体的な話
まず、国際精神医学会やWHO(世界保健機構)などの見解について。以下、「同性愛者のイメージは作られています」―『同性愛の基礎知識』より引用。
http://www.sukotan.com/douseiai_01.html
*****
現在、国際精神医学会やWHO(世界保健機関)では、同性愛を“異常”“倒錯”“変態”とはみなさず、治療の対象からは外されています。例えば、アメリカ精神医学会は1973年、世界に先駆けて同医学会が発行している精神障害診断基準であるDSM-2の第七版から同性愛についての記述を削除しました。WHOも、“国際疾病分類”(ICD)の93年に発表された改訂第10版で、「同性愛はいかなる意味でも治療の対象とはならない」という宣言を行っています。日本では、94年12月に厚生省がICDを公式基準として採用し、95年1月にやっと日本精神神経医学会が、ICDを尊重するという見解を出しました。
*****
次に、同性愛の“治療”の効果の疑わしさと危険性について。以下、過去記事をご参照ください。
・「米国心理学協会、同性愛者を異性愛者に“治療”するセラピーに反対」2009/08/07『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20090807/1249626639
・周回遅れ4:「同性愛は神が許さない」
反論:同性愛にだけ宗教の字句通りの解釈を適用するのはダブルスタンダードです
少なくともキリスト教の聖書が禁じているのは同性愛だけではありません。実はタコやイカを食べることなど、多くの人が日常的にやっているようなことだって禁止されています。それなのに、同性愛に関してだけ聖書のファンダメンタルな解釈を押しつけるのは筋が通りません。
また、キリスト教以外の宗教を持ち出したところで、同じことです。文明国には信教の自由というものがあります。あなたがあなたのお好きな宗教の戒律を守るのは勝手ですが、それを他人にまで強制的に守らせる自由などありません。
宗教を言い訳にしてのゲイバッシングはおやめください。
もう少し具体的な話
以下、過去記事をご参照ください。
「『同性愛は神が許さない』と言うアナタ自身が守れていない7つの戒律」2007/01/15『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20070115/1168836344
「『ロースクールはゲイを排除するクリスチャンサークルを認めなくてよい』米国最高裁が判決」2010/06/30『みやきち日記』
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20100630/p2
・周回遅れ5:「同性愛者は少数派。少数派は差別されて当たり前」
反論:“寡頭制”や“寡頭支配の鉄則”ってものを知らないんですか?
世の中には少数の人間が支配する政治形態があり、これを寡頭制といいます。ドイツの社会学者R.ミヘルスは、「いかなる民主的組織であれ大規模化するにつれて必然的に少数支配へと変質する」(ブリタニカ国際大百科事典より)という“寡頭支配の鉄則”を主張しています。
本当に少数者が常に差別されるのなら、寡頭制など成り立ちません。数を根拠にゲイバッシングを正当化するのはおやめください。
もう少し具体的な話
以下、ブリタニカ国際大百科事典(小項目電子辞書版)の“寡頭支配”の項より引用。
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一人の人間が支配する君主制や多数の人間が支配する民主制に対して、少数の人間が支配する政治形態をさす。古典古代の政治思想では貴族制の逸脱形態をさしていた。R.ミヘルスは『政党社会学』(1911)で、いかなる民主的組織であれ大規模化するにつれて必然的に少数支配へと変質することをドイツやイタリアの社会民主党の分析から明らかにした。これを「寡頭支配の鉄則」という。
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同事典の“寡頭支配の鉄則”の項より引用。
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R.ミヘルスは民主主義が実現するとするならば、民主主義を主張する進歩的政党の内部において実現しているはずであると考え、ドイツやイタリアの社会主義政党の実態を調査した。ところが期待に反して、そこに寡頭支配が出現していることを知った。そして彼はその理由を検討して、集団の規模が拡大するに伴い技術的、実際的必要から役割の分化や階層的秩序が生れ、上層部に組織活動に専念し、戦略・戦術上の秘密を独占する指導層が形成されることを知った。彼はこれを避けがたい法則であるとして、寡頭支配の鉄則と名づけたのである。
*****
・周回遅れ6:「同性愛は生理的に気持ち悪い」
反論:「私が気持ち悪いと思うから、差別してよい」というのは非論理的です。
「気持ち悪い」というのはあなたの主観です。よって、「同性愛は生理的に気持ち悪い。だから差別してよい」というのは、「同性愛は、私にとっては生理的に気持ち悪い。だから差別してよい」と言っているのと同じです。
そして、この理屈が成り立つためには、「私が生理的に気持ち悪いと思うものは、すべて差別してよい」という前提が必要です。つまり、「同性愛は生理的に気持ち悪い。だから差別してよい」という説は、実は
・前提1:私が生理的に気持ち悪いと思うものは、すべて差別してよい。
・前提2:同性愛は、私にとっては生理的に気持ち悪い。
・結論:同性愛は差別してよい。
という論理構造を持っているわけです。
前提1が立証されない限り、この説に説得力はありません。主観を根拠とするゲイバッシングはおやめください。
・補足
“私”を“多数派”に置き換えても、この理屈はなりたちませんよ。数の多さを正しさの根拠とするのは、“多数論証”と呼ばれるタイプの詭弁(きべん)です。
以下、「詭弁(きべん)―△△の支持者の方が多いから、△△が正しい(多数論証)」より引用。
http://ronri2.web.fc2.com/kiben12.html
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“多数論証”とは、多くの人々が信じているという理由で、ある主張が正しいと結論付けることです。この詭弁は、広く受け入れられている理論が真実であることを人に納得させようとするときに利用されます。別名“衆人に訴える論証”とも呼ばれています。
多数論証は次の形式をしています。
>前提1:Aの支持者は多数派だ。
>前提2:多数派は常に正しい。
>1と2ゆえ:Aは正しい。……(結論)
これの前提2は誤りです。“多数派”は“正しい”の意味を含んではいません。具体例を見てみましょう。
以下、Wikipedia『衆人に訴える論証』より引用。
*****
・88% の人々が UFO を信じているのだから、UFO は実在する。
・市民が税を払うことは市民の代表である議員が議会で決めた義務なのだから、国家は公平で公正な機関に違いない。
・世界中の大多数が神を信じているのだから、神は実在する。
*****
・おわりに:それでもなお「ぼくのかんがえた、どうせいあいしゃをさべつしていいりゆう」を披露したくてたまらない百合オタクさんたちへ
あなたが今適当に思いつくようなことは、LGBTコミュニティが数十年前に通り過ぎた道だと、いいかげんに気づいていただければ幸いです。それでもどうしてもどうしても、先行研究も読みたくない、ネット上にある情報やデータすらチェックしたくない、とにかく己の想像だけででっちあげた説を披露したいというのであれば、あなた自身のブログや『mixi』や『Twitter』などでご自由にどうぞ。周回遅れの“さべつしていいりゆう”を、いちいち当の同性愛者に直接告げに来ないでくださいよ。間違いを指摘してあげるの、面倒くさいんですよ。
執筆: この記事はみやきちさんのブログ『みやきち日記』からご寄稿いただきました。
文責: ガジェット通信
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