今週の永田町(2015.1.28~2.3)

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【補正予算案、3日に成立へ】

先週1月30日、生活者支援や地方活性化などを柱とする緊急経済対策を裏付ける「補正予算案」(総額3.11兆円)について、安倍総理はじめ全閣僚出席のもと衆議院予算委員会で締めくくり質疑を行ったうえで採決を行った。補正予算案は、与党の賛成多数により可決した。その後、衆議院本会議に緊急上程され、与党や次世代の党などの賛成多数により可決、参議院へ送付された。「補正予算を組まざるを得ないこと自体、アベノミクスが機能していない証拠だ」などと批判してきた民主党や共産党などは反対した。2月2日から、参議院予算委員会で補正予算案の審議がスタートしている。

*衆参両院の本会議や委員会での審議模様は、以下のページからご覧になれます。

  衆議院インターネット審議中継参議院インターネット審議中継

29日から始まった衆議院予算委員会の質疑では、安倍総理が「デフレを脱却して、国民生活を豊かにするには、三本の矢しかない」と、アベノミクス実現に向けた意欲を繰り返し強調した。

アベノミクス推進に伴う格差問題を対決軸として打ち出したい民主党は、「適切な分配がなければ、持続的な成長ができない」「所得格差が拡大すると経済成長が低下する。税の再分配機能を強めていくべきだ」(長妻代表代行)などと主張した。これに対し、安倍総理は「成長せずに分配だけを考えていけば、じり貧になる」「経済成長の果実を広く国民に行き渡らせる」などと反論し、格差是正に固執する民主党をけん制した。

また、民主党の「トリクルダウン(富めるものが富めば、富が滴り落ちる)的発想はやめるべきだ」(大塚・参議院議員)との指摘に、安倍総理は、家計への直接支援にも取り組む姿勢や、経済界に賃上げを働きかけていることなどを強調して「トリクルダウンを期待している政策を行っているわけではない」「全体をしっかりと底上げしていくのが私たちの政策だ」などと反論した。

 

 昨年11月の衆議院解散により臨時国会で廃案となった労働者派遣法改正案を政府が通常国会に再提出することについて、民主党は「若者が派遣に流れ、派遣労働者が増えるだけの改悪だ」「派遣の固定化につながる」(山井・衆議院議員)などと批判した。

同法案は、派遣労働者の柔軟な働き方を認めることを目的に、企業の派遣受け入れ期間の最長3年という上限規制を撤廃(一部の専門業務を除く)する一方、派遣労働者一人ひとりの派遣期間の上限は原則3年に制限して、派遣会社に3年経過した後に派遣先での直接雇用の依頼や、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置を義務づける内容となっている。

 昨年の臨時国会で、公明党が、廃案に追い込みたい野党側の主張を取り込んで同法案の成立に道筋をつけるねらいから、派遣就業が臨時的・一時的なものとの原則を考慮するよう厚生労働大臣に求めると明記した修正案骨子を、厚生労働委員会理事会で提示した。しかし、民主党などが「法案に問題点があることを認めた」「修正するなら政府が法案を出し直すべき」などと抵抗したため、与党は、同法案の成立を断念することとなった。

 このことから、自民党と公明党は、30日の与党政策責任者会議で、直接雇用を促す姿勢を示す観点から「派遣就業が臨時的・一時的なもの」であることを明記することや、非正規労働者の均等待遇のあり方を検討するための調査実施について改正案附則に盛り込むことなどの修正を施すよう、政府に求めることで合意した。ただ、民主党は「本質的な修正だとは思わない」(岡田代表)としており、引き続き廃案をめざす方針だ。

 

このほか、維新の党が国会議員の定数削減や公務員人件費などの削減など「身を切る改革」の実行を、安倍総理に求めた。安倍総理は、国会議員の定数削減を含む衆議院選挙制度改革について、町村衆議院議長の下に設置されている第三者機関「衆院選挙制度に関する調査会」で取りまとめられる予定の答申を「自民党総裁として賛成する」と表明した。そして、「各党、各会派が(第三者機関に)任せた以上、出てきた案に賛成することが大切だ」「他党もそういう方向を示してもらいたい」と同調を呼び掛けた。

 

3日に安倍総理はじめ全閣僚出席のもと質疑を行ったうえで採決することで、与野党は合意している。同日中に参院本会議へ緊急上程し可決・成立する予定だ。衆議院の質疑時間をめぐって与野党が協議した際、与党が提示した2日程度を野党が受け入れる代わりに、補正予算成立後には集中審議を実施することとなった。

 補正予算が3日に成立する見通しが立ったことから、与野党は、4日と5日に安倍総理出席のもと経済政策や外交問題をテーマに衆参両院の予算委員会で集中審議を開催することで合意した。6日には、参議院決算委員会が開催される。民主党など野党側は、アベノミクスの弊害や問題点のほか、戦後70年談話と安倍総理の歴史認識、イスラム教スンニ派過激組織「ISIL」による日本人殺害事件での政府対応などについて追及するようだ。

 

 

【農協改革、与党内の議論が本格化】

 安倍総理は、衆議院予算委員会で「消費者ニーズに対応した強い農協をつくり、農家の所得を増やしていくことが目的だ」「農業の可能性を引き出すのは、農家に一番近い地域農協が創意工夫することだ。農業者の視点に立った農業の抜本改革を断行し、農業者の所得倍増をめざしたい」と説明し、農協改革の実現への決意を示した。

政府は、農家の自立や単位農協の自由な経営を確保するため、農協改革を盛り込んだ農協法改正案を統一地方選前に閣議決定のうえ通常国会に提出する予定で、与党内で議論が進められている。検討されている農協改革は、全国約700の農協組織を束ねる全国農業協同組合中央会(JA全中)による地域農協への監査・指導権限を法施行後3年以内に撤廃して任意団体へ転換するとともに、地域農協が「組合員に事業の利用を強制してはならない」という規制も新設するなどを柱としている。専門の農協監査士が監査を行う現行制度から、公認会計士による監査制度への変更が検討されている。また、農協の事業目的を「営利を目的としてはならない」から「農業者の所得の増大、農業者の利益増進」に変更するほか、農産物を販売する全国農業協同組合連合会や経済農業協同組合連合会などを分割や株式会社化などができる規定の新設や、農業者以外の准組合員による農協事業利用の制限することなども盛り込まれる予定だ。

 

 こうした案に、JA全中は、農協法で定められた指導・監査権を存続させながら、「自律的な制度」に自己改革すると主張している。安倍総理は「一般論として言えば、法的な裏付けがないとできない事業を行う組織は、自立的とは言えない」と指摘したうえで、JA全中は「地域農協や農家のサポート役に徹してもらいたい」と、強制的な指導・監査の役割を転換すべきとの認識を示している。

政府は、与党との調整を2月上旬までに終えたい考えだが、与党内では「外部監査で透明性を高めるべき」といった賛成論がある一方、自民党の農林族などを中心に「JA全中から権限をなくせば農家の所得が上がるのか」「自主改革を尊重すべき」などの慎重・反対論も根強くある。また、公明党も「期限ありきではなく丁寧な議論が必要だ」「農協監査の廃止ありきではなく、実態に即した議論を」(井上幹事長)などと牽制している。安倍総理が積極的に進めようとしている戦後70年談話や、集団的自衛権行使の限定容認を含む安全保障法制なども含め、公明党が「安倍政権のブレーキ役」を担っている姿勢を、4月の統一地方選を前に示したいとの思惑もちらついている。

自民党と公明党は、政府案の説明や関係者ヒアリングなどを踏まえて農協改革に関する議論を本格化させているが、政府の農協改革案どおりにまとまるかは未知数で、3月下旬まで政府・与党間の綱引きなどが続くこととなりそうだ。

 

 

【まずは集中審議の議論に注目を】

 衆参両院の予算委員会などで本格的な国会論戦がスタートしており、今週4~6日には、集中審議も開催される。政府は、来週12日に来年度予算案を国会提出し、同日中に安倍総理による施政方針演説など政府4演説を行う予定でいる。衆議院予算委員会での実質審議は、今月第3週から始まる見通しだ。

いまのところ、議論はあまり深まっていない。今週の集中審議や、その後の予算委員会審議などで、野党がどのようなテーマ・政策争点で論戦を仕掛け、安倍総理はじめ閣僚らからどのような言質をとっていくのだろうか。通常国会前半の論戦の行方を占う意味でも、まずは集中審議でどのような議論が展開されるのかに注目しておきたい。

 

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霞が関と永田町でつくられる“政策”“法律”“予算”。 その裏側にどのような問題がひそみ、本当の論点とは何なのか―。 高橋洋一会長、原英史社長はじめとする株式会社政策工房スタッフが、 直面する政策課題のポイント、一般メディアが報じない政策の真相、 国会動向などについての解説レポートを配信中!

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