ポートランドに学ぶ[1] コンパクトで人と環境にとことん優しい街
ポートランドに学ぶ 住んでみたい街といわれる理由
アメリカで「最も住んでみたい都市」に選ばれるオレゴン州の都市ポートランド。全米から移住者が集まるポートランドの魅力をひもとき、住みたくなる街選びのポイントについて考えていこうという全3回シリーズです。キーワードはコンパクト(職住遊近接)、ローカルファースト(地域振興)
ポートランドは、アメリカ西海岸のオレゴン州最大の都市で、人口は約60万人、メトロと呼ばれるポートランド市周辺の広域の自治体で構成される地域政府圏内の人口は約230万人で、中規模都市に該当する。都市計画や再開発の模範となる街として、国際的にも知られている。そんなポートランドを訪れる、日本賃貸住宅管理協会主催のアメリカ賃貸管理業視察ツアーに参加することができた。
ポートランドには、いろいろな名称が付けられている。例えば、
・最も住んでみたい街
・歩いて暮らせるように設計された街
・自転車通勤に適した街
・全米で注目の美食の街
・人とペットに優しい街
・環境に優しい街
・自然とともに経済成長をする街
・持続可能な(サスティナブル)街
など
キーワードは、「コンパクト」と「ローカルファースト」だ。豊かな自然を残し、環境に配慮して都市機能を集中させたコンパクトシティ
少子高齢化社会に突入した日本では、地方都市の「コンパクトシティ化」に向けて政策が打たれているが、ポートランドは、コンパクトシティの成功事例でもある。ポートランドが住みやすい街づくりに向けて始動したのは1970年代のこと。UGB(アーバン・グロース・バウンダリー=都市部成長境界線)を設定し、周辺の豊かな自然を残しながら都市機能を集中させることで、職住遊の近接を実現させた。
都市部成長境界線を拡張させるには、住民投票が必要というほどの厳しいルールを設けて自然を保存しているため、都心部からさほど遠くない場所でレクリエーションが楽しめる。また、コンパクトな都心部に、住宅とオフィス、商業施設を集中させることで職住近接が可能になっている。
都心部はライトレール(軽電車)、ストリートカー(路面電車)、バスなどの公共交通機関でほとんど移動ができる。自転車ごと公共交通機関に乗り込めること、駐輪のための公共のラックなどが整備されていることもあって、自転車通勤もしやすい。その結果、CO2の排出量も減らせる環境に優しい街にもなっている。
安全に歩いて楽しめるような工夫も多い。ポートランドの都心部では、縦横の道で区切られた1ブロック(1街区)のサイズが約60×60メートルとなっている。アメリカの都市の1ブロックの幅が一般的に100~120メートルといわれているので、その半分の距離を歩けば次のブロックに移ることになる。さらには、「ストアーフロント」と呼ばれる1階の歩道に面した部分は、ビルを新築したり50%以上改修したりする際には、必ず店舗を誘致してショーウインドウなどにするといった施策が採られている。そのため、歩行者から見ると街区ごとに街並みが変わって、楽しく歩けるようになっている。
また、都心部の中心地となる5番街と6番街の広い歩道には、地元のアーティスト養成の狙いも含めて、アート作品が点在している。公園や広場、水飲み場も随所にあり、歩きたくなる街づくりがなされている。公共交通機関が深夜まで運行しており、危険な路地もないため、夜でも安心して歩けるといった点も見逃せない。
【画像1】ブロックが約60mなので街区ごとに建物の表情が変わる(撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
【画像2】左:5・6番街の広い歩道にはアート作品が展示され、水飲み場も設けられている。右:“CLEAN & SAFE”で雇用された清掃員が街を常にきれいにしている(撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
日本の商工会議所に該当するPBA(Portland Business Alliance)も、住んでみたい街づくりに貢献している。“CLEAN & SAFE”を掲げ、独自に清掃員と警備員を雇用しているため、街はゴミもなく安全が保たれている。清掃員は、ホームレスや犯罪歴のある人が雇用されるので、就業機会を与えて社会復帰させるシステムにもなっている。地域の人とモノを優先させることが、地域経済循環を生み出す
ポートランドを歩いて気づくのが、コンビニやナショナルチェーン店が少ないこと。ローカルファースト=地元第一主義が徹底されているからだ。ストアーフロントで誘致される店舗も地元優先。ファーマーズマーケットという近隣農家が生産したものを売る市場があちこちで開かれるので、恒常的に地元の新鮮な野菜や肉などが手に入る。
【画像3】左:ファーマーズマーケットは数ブロック続くほどの大きさ。右:ポートランドで人気のカフェ「StumpTown(スタンプタウン)」
その結果、地産池消によるオリジナリティあふれる料理を提供するレストランなどが数多く店舗を構えることになり、美食の街としても知られるようになった。レストランのシェフが、地元生産物を使った料理教室を開くなどの社会貢献活動も盛んだ。
大型スーパーがファーマーズマーケットの支援をしたり、地元住民を雇用したり、施設建設で地元の建築部材を使ったりといったように、ローカルファーストが徹底されている。つまり、地域経済の循環という形で地域振興を図っていることも興味深い点だ。官民一体で推進する住みたい街づくり
もちろんポートランドが住みたい街として成功するまでには、紆余曲折があった。1970年代以前のポートランドは、他のアメリカの都市と同じく、車社会の到来と急速な都市化が進んでいた。都心部の衰退と郊外化の加速、乱開発、渋滞と大気汚染といった問題が浮上。32歳で市長になったニール・ゴールドシュミットのリーダーシップと市民参加型の行政改革で、高速道路の計画を中止し、その予算を公共交通機関ライトレールに充てるなどの改革が次々と推し進められた結果なのだ。
行政機関のひとつであるPDC(Portland Development Commission=ポートランド市開発局)が、民間のデベロッパーと組んで長期的な都市計画に立った土地の有効利用や空き地の再開発を積極的に行い、ストアーフロント改修のための補助金や低金利融資などを行っている点も大きな特徴。
最近は、環境先進都市としての取り組みにも熱心だ。
サスティナブルデザイン(自然や人への負荷を極力抑え、地球環境をできるだけ維持し続けることを考えたデザイン)が徹底され、環境に優しい建築物であることを示すLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)が承認した建築物が、都心部に多く建てられている。
【画像4】都心部からそれほど遠くない場所で豊かな自然を満喫できる(撮影:住宅ジャーナリスト/山本久美子)
※シリーズ第2回は、パール地区(Pearl District)に注目して、クリエーターが移住したくなる街づくりについて考察します。
○協力/日本賃貸住宅管理協会、ポートランド在住・谷田部勝氏
○参考資料/「グリーンネイバーフッド」吹田良平著 繊研新聞社発行、「ポートランド・ビジネス連合(PBA)の活動」フランクリン・D・キンブロー氏講演レポート
元記事URL http://suumo.jp/journal/2015/01/30/76936/
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