介護報酬引き下げに現場は悲鳴、改定に見る国の思惑
介護報酬、全体として2.27%引き下げへ
先日、閣議決定された2015年度予算案の焦点の一つであった介護報酬の改定。平成27年度の介護報酬は、全体として2.27%引き下げられることになりました。
内訳を見ると、事業者に支払われる各介護サービスの単価が平均で4.48%引き下げられる一方、中・重度の要介護者や、認知症高齢者へのサービス対応に関する加算にプラス0.56%。また、介護職員の処遇の改善に対する報酬加算については1.65%のプラスとされていますが、トータルでは引き下げ改定となっています。
処遇改善加算拡大は人事制度まで踏み込んだ取り組みを求める表れ
職員の資質向上のための取り組みを行う事業者に対する処遇改善加算の仕組みは、現行の介護報酬においても存在しています。各介護事業所においては、すでに資質向上の取り組みがなされているところですが、国は事業者に対し、まだまだ改善の余地があるという見方をしているようです。
研修機会の提供や資格取得の支援といった措置に留まらず、例えば、職員のキャリアアップに関する社内規定の整備、キャリアや職務内容に応じた賃金体系の整備など、人事制度まで踏み込んだ取り組みが挙げられます。今回の処遇改善加算の拡大は、国がさらに一段階上の取り組みを求めていることの表れでしょう。
国の施策と連動した、中長期的な視点を持った経営をも求めている
また、報酬引き上げの対象となっている中・重度の要介護者、認知症高齢者への対応。これは、「地域包括ケアシステム」の構築を目指す「地域医療・介護推進法(2014年6月成立)」という国が推進する施策と歩調を合わせたものと言えるでしょう。
団塊の世代が75歳以上に達する2025年を控え、医療と介護の連携により、在宅での生活を支援するための介護サービスの強化を意図しているものです。国は、事業者に対して国の施策と連動した、中長期的な視点を持った経営をも求めているようです。
介護事業や介護労働に対して、社会全体の適正な認識と評価が必要
このように一部プラスとなる部分があるにしても、基本報酬が全体として引き下げとなる今回の改定。資金力の乏しい中小の事業所には非常に厳しい措置であることは間違いありませんが、介護事業が介護保険制度に沿って行われるものである以上、事業者自身の経営努力による対応が必要なことは言うまでもないでしょう。
ただ、これからの介護保険制度と介護事業の問題は、国政や事業者だけに課された問題ではありません。報酬引き下げは、ある意味、事業所が提供する介護サービスの社会的価値を下げたという捉え方もできます。国の決定とはいえ、そこには社会全体における介護労働に対する評価の低さが、多少なりとも映し出されていると思われます。最も対策が急務である介護職の人材不足の問題にしても、この社会的評価の低さと無関係ではないでしょう。
介護労働は誰にでもできるような仕事ではなく、もっと高い評価を受けるべき仕事であること。この先、十分な介護サービスの提供を維持できる社会を構築するためには、介護事業や介護労働に対して、社会全体の適正な認識と評価が求められているのではないでしょうか。
(佐々木 淳行/社会保険労務士)
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