「復刻版」ブームに隠された企業の裏事情
盛り上がりを見せる「復刻版」。キーワードは「ノスタルジー」
「復刻版」というものを市場で見かける機会が増えています。以前はかなり趣味性の高いものが中心でしたが、最近では大衆消費財的なものにも広がっているようです。
では、なぜ復刻版がこのように盛り上がりを見せているのでしょうか?
一つは購買者側の理由として「ノスタルジーを求める」ということがあります。映画やアニメの世界観の中で昭和30年代から50年代までのストーリーが取り上げられたり、音楽の世界でその頃のカバーが注目されたりするのも、そのノスタルジーを求める志向に火をつけたといえるでしょう。
人は、悪いことは早く忘れたいと思い、良いことはいつまでも覚えていたいと思うものです。そんな傾向がある中で、昔の自分の良かったことを思い出すとき、必ずその場面にあったものたちも一緒に一つのシーンとして思い出します。よって、その中で登場するものの「復刻版」が販売されると、思わず飛びついてしまうのでしょう。
「売れるものをつくる」が「売れたものをつくる」にゆがんで変化
このようなことは誰にでも経験のあることなので理解しやすいと思います。しかし、本当のところは、企業側の理由というのが、このブームの根底にあるように思えてなりません。
長引く不況の中、ものを売る側がたどり着いた方法は「売れるものをつくる」という考え方です。もちろん、これはわかりきったことですが、その考え方がどんどんゆがんでエスカレートし、「売れるものをつくる」という考え方が「売れたものをつくる」というふうに変化していきました。
以前、アパレル業界で主流となったSPAという考え方もその際たるものです。売れたものを分析してそれをさらに投入する。確かに効率の良い考え方ですが、これは一歩間違うと市場に迎合することになりかねません。
「売れた実績」を企業側は尊重。「ノスタルジー」で売る
このような考え方が正しいかどうかは別として、「売れた実績」というものを企業側が尊重していることは間違いありません。そういう考え方に「ノスタルジー」というキーワードはもってこいだったわけです。一昔前にブレイクした商品というものは、それを買って所有していた人に何らかの思い出というものを植え付けています。つまり、昔売れたものは、その人にとってノスタルジーをくすぐる良い記憶をたくさん植え付けていることになります。そこにはもちろん「売れた実績」があるわけです。
さらに、生産背景の進化が大きく貢献しています。需要が多様化する中、小ロット多品種の生産が必然となり、それなりの数量でもオリジナルの製品を製造することが各分野で可能となってきました。そういった生産背景は、数量、期間限定的な商品の製造を可能にし、採算を合わすことが容易になったのです。特に、コンビニでのイベントやさまざまな施設での関連商品などは、その条件なしにはあり得ません。
市場に復刻版がこれほど目立つようになった背景には、このように生産側、発売側、消費側に、それぞれに理由があるのです。
(小泉 達治/デザイナー)
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