デフレ脱却連盟の日銀への批判は筋違い

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ニューノーマルの理

今回は柊 栄一郎さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

デフレ脱却連盟の日銀への批判は筋違い
民主のデフレ脱却議連の議員が『たけしのTVタックル』という番組で「FRB *1 もECB *2 も(現在)紙幣を刷って通貨安を誘導している。なので日銀ももっと刷れ」ということを言っていた。当然ながら、これは間違いになる。

*1:FRB(連邦準備<制度>理事会)とは何ですか? – 『日本銀行』参照
http://www.boj.or.jp/oshiete/intl/07201003.htm
*2:ECB(欧州中央銀行)とは何ですか? – 『日本銀行』参照
http://www.boj.or.jp/oshiete/intl/07201001.htm

この発言によって、この連盟が根本的な勉強不足に陥っていることが判明した。

先日のFOMC声明 *3 を見ても分かるように、FRBは緩和拡大には至らなかった。買い取る証券を変えただけであり、結果として(その時点で)1ドル85円から下に振れることはなかった。 ECBにしても、ギリシャが危機を迎えてから国債を買い取っているが、流動性過剰に配慮して不胎化(相殺)措置に努めている。

*3:米FOMC声明全文 – 『ロイター』
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-16719720100810

ということで、先日にはこの報道。
******
20日までに決済された国債購入で創出された流動性605億ユーロ(約6兆5200億円)を吸収するために24日にターム物預金の入札を実施すると発表
******
ECB:先週の国債購入、過去6週間で最大に-プログラム15週目 – 『Bloomberg.co.jp』より
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920000&sid=ay3XkareutTo

このことは何度もブログで指摘レポートしてきた。プログラムは15週目ということだが、“相殺行為”は継続している。欧米ともにインフレ・バブルリスクにつながらないよう手綱を引きながら実行しているわけだ。 *4

*4:マクロ・プルーデンス – 『ニューノーマルの理』
http://ameblo.jp/eiichiro44/entry-10540637372.html

欧米“政府”としては、通貨安に誘導したいのかもしれないが、中央銀行(以下、中銀と略)は役割を果たそうと独立性のプライドをもってやっているように見える。他サイトでもたまに目にする「政府と中銀が一体となって通貨安を誘導している」という論調は、その論者の勝手な思い込みだろう。

米国はバーナンキのもと、確かに通貨供給量を増やしてきたが、通貨安を意図したわけでなく機能不全に陥っているセクター(市場)を支えるのが主目的だった。要するに信用緩和ということになるのだが、ECBのトリシェ総裁も、そのことについて5月の講演できっぱりと明言 *5 している。

*5:ECB、政府債購入で供給した流動性を完全吸収へ=トリシェ総裁 – 『ロイター』
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnJT866125220100520

信用緩和(Credit Easing) *6 と量的緩和(Quantitative Easing) *7 は、その意図するところが違う。「結果としてバランスシートが拡大すれば同じことじゃないか」と言われそうなものだが、先日のFRB声明はそのことを覆した。通貨供給量を増加させずに、特定の市場を支援するという“純粋な信用緩和”の意思を表明したことになる。FRB、ECBともに、(政策金利が低いことを考えても)流動性対策にはますます過敏になっている。通貨安を意図する流動性拡大、などという認識は“中銀には”存在しない。

*6:信用緩和 – 『iFinance』
http://www.ifinance.ne.jp/glossary/global/glo073.html
*7:量的緩和 – 『FX比較』
http://www.all-navi.jp/fx/glossary/word_%CE%CC%C5%AA%B4%CB%CF%C2

なので民主のデフレ脱却議連が言っているような「FRB、ECBが通貨安を誘導している」といった論調は完全な事実誤認になる。(ここ最近の)欧米の中銀は通貨を増加させていないのだ。それを考えても、(ファンダメンタルズ的に)日銀は通貨を増やす必要がないわけだ。

さらには、「なぜ為替介入しないのだ」と日銀が批判されることについても答えは簡単だ。その裁量は財務省にあり、介入の規模も頻度も財務省にその権限が委ねられている。世間では何故か日銀にその権限があるようになっているが、メディアもこのことを報道しないのはまったくもって不思議だ。為替介入に至っては日銀が悪いのではなく、財務省が悪いのだ。

政府としては、輸出拡大を明言しているオバマ政権に配慮もしているかもしれないし、ひょっとして圧力がかかっているのかもしれない。さらには、アメリカは“人為的為替操作”を行う中国に対して大がかりなバッシングを浴びせてきた。当然、日本もそれに同調している。その日本が、為替操作を実行するとなると、今後、経済成長で頼りにしなくてはならない中国に対して顔が立たないわけだ。

なので政府としては、外交的にどうしても日銀の政策に頼らなくてはならなくなっている。簡単にいうと、政府は自分の手を汚さずに、日銀のせいにしておけば楽なのだ。財務省が通貨介入しないのも、さらには“政府紙幣”を発行しないのもそういう理由になる。

為替介入が財務省の権限である事を考えると、日銀にできることは量的緩和だけだが、量的緩和の本来の目的は通貨誘導ではなく、民需を支える通貨の供給だ。不況の下、民需がない中でその本来の目的を達成することはできないだろうし、目的外の通貨安誘導のために量的緩和を行いたくない、というのが日銀の本音だろう。

要するに、
(1)為替介入は財務省の権限であり、(2)量的緩和も通貨安誘導のためにあらず、物価の安定のためにある。さらには、デフレ脱却議連のいうように、(3)FRB、ECBともに通貨の量を実際には増やしていない。よって日銀はファンダメンタルズ的にも通貨量を供給する必要性はない。

アメリカと中国との外交的理由から、政府はメディアを利用して日銀へ責任転嫁している。“何も悪くない日銀”は困り果てているのだ。

執筆: この記事は柊 栄一郎さんのブログ『ニューノーマルの理』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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