「遠隔授業」導入から探る学校教育の在り方
文部科学省が「遠隔授業」を容認する改革案をまとめる
文部科学省の有識者会議は、離島や過疎地の高校での教員不足による教育格差を解消するため、これまで原則として認められていなかった「遠隔授業」を来年度から容認する改革案をまとめました。リアルタイムで生徒が配信側の教員と質疑応答できる「同時双方向型」で、成績評価は配信側の教員が担当し、受信側でも教員が立ち会うことなどを条件に、高校卒業に必要な74単位のうち36単位を上限に取得が認められます。
これだけインターネットが発達し、スマートフォンと意欲さえあれば誰もが好きなことを勉強できる時代において時代遅れの印象は否めませんが、何も改善されないよりは多様な学び方を認めるという点において半歩前進と、前向きに評価できます。
遠隔授業の本格導入には慎重な姿勢を見せる
ただし、文科省は教育には対面による臨場感や触れ合いが重要だとし、事前収録した授業を視聴する「オンデマンド型」については、現在対象としている不登校生徒に加え、病気療養中の生徒や障害などで通学が困難な生徒などの対象が一部拡大されるだけで、特例にとどまる見込みです。
このように、文科省は遠隔授業の本格導入には慎重なようです。では、教科書に書かれている内容を解説するだけの講義を全員が静かに座って聴く「受動型集団画一授業」と、ポイントが理解しやすいようまとめられ、場所や時間を問わず学習可能で、必要なら繰り返し何度も視聴できる「オンデマンド型映像授業」とで、どちらの教育的効果が高いのでしょうか。
全員が同じ授業を受けるというスタイルは時代に合致していない
この分野では民間のほうが先行していて、大手予備校による「衛星授業」は都市部の受験生を中心にかなりの人気を博しています。また、スマホで手軽に利用できる学習アプリも非常に多く存在します。人々の興味関心や趣味が多様化した21世紀において、決まった時間に指定された場所に集まり、全員が同じ授業を受けるというスタイルは時代に合致していません。
理想は、自分の都合の良い時間に生徒が映像授業を視聴して要点を理解し、主体的に練習問題に取り組むことです。また、通信教育のように課題を提出すると同時に疑問点を伝え、その直後にスカイプなどを使った同時双方向型の擬似対面授業で一人ひとりの理解度に合わせた個別指導を受けることです。
学校という物理的な「器」にこだわる必然性はない
政府の役割は、場所や対象の生徒を限定せず、誰もがどこでも自分の学力や目標に見合った授業が受けられるよう視聴可能な通信環境を整えることです。これが実現すれば、学校という物理的な「器」にこだわる必然性はなくなり、離島や過疎地にいることもハンディにはなりません。
そもそも高校は義務教育ではないのですから、全員が指定された教科書を使って決められた時間割に沿って同じ内容の講義を受けるのではなく、個々人が自由に授業を選択したり、好きなようにカリキュラムを組んだりできるべきです。そのうえで、大学へ進みたい生徒は高校認定試験(旧大検)を受ければ良いのではないでしょうか。
(小松 健司/個別指導塾塾長)
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