有給取得率を上げる「奥の手」

有給取得率を上げる「奥の手」

「日本人は働き過ぎ」。有給休暇取得率の低さが原因?

毎年、厚生労働省が実施している就労条件総合調査によれば、平成25年の有給休暇取得率は48.8%、平均取得日数9日だったそうです。有給休暇取得率は、事業所規模や産業分野により若干異なるものの、概ね40~60%前後で推移しており、ここ30年間でも大きな変動はありません。

年末年始休暇や祝日なども事実上の有給休暇ですが、計算上、有給休暇とみなされません。そのだめ、実際はもう少し日本人も休暇を取っているといわれていますが、それを勘案しても、ブラジルやフランスのほぼ100%、アメリカの71%、韓国の70%という数字に比べるとかなり低い結果となっています(旅行会社、エクスペディア発表)。

「日本人は働き過ぎだ」といわれる一因は、この有給休暇取得率の低さかもしれません。

そもそもの労働環境が有給休暇を請求できる状態にない

有給休暇を取得する権利は労働基準法により定められています。勤続年数や出勤率などにより付与日数は異なりますが、正社員だけでなくパートタイマーなどの短時間労働者でも有給休暇は取得できます。従業員が有給休暇を取りたい時季を指定した場合(ただし、事業の正常な運営を妨げるものであってはいけません)、会社は有給休暇を与えなければいけません。

ここで押さえておきたいポイントが一つ。有給休暇を請求する主体が労働者側にあって、会社は、従業員が「有給休暇を取りたい」と言わなければ取らせる必要はないという点です。長引くデフレの中、コストカットや人員削減が進み、ギリギリの状態で仕事を回している事業所が多い中で、果たして従業員が自分の都合優先で有給休暇をきっちりと請求できるでしょうか?なかなか言い出しづらいでしょう。日本で有給休暇の取得率が上がらない要因は、そもそもの労働環境が有給休暇を請求できる状態にないことにあります。

会社が計画表を作って労働者に有給休暇を取ってもらう制度が有効

日本では、従業員が「休みたい」と言わないと有給休暇は取れません。ならばいっそのこと「会社側が計画的に与えてみては」という考え方があります。まだあまり浸透していませんが、有給休暇付与日数の5日を超える分について、あらかじめ会社が計画表を作って労働者に有給休暇を取ってもらうという制度があります(労働基準法第39条第5項 年次有給休暇の計画的付与)。会社が主導権を持って有給休暇を与えることで、従業員もスムーズに休みがとりやすくなる仕組みです。欧米では労使が協議して有給休暇計画表を作ることが多いので、高い有給休暇取得率が維持できているのではないでしょうか。

有給休暇取得率の向上は労使双方にメリットがあります。従業員は、家族団欒・自己啓発などに時間を使えるようになり、心身ともにリフレッシュできます。仕事へのモチベーション向上や新しいアイデアが生まれるきっかけになることもあるでしょう。会社側にとっても、従業員がきっちりと休暇を取るためには、一人ひとりが効率良く働くことや、一人が休んでいる間も仕事が回るように引き継ぎができるような状態にしておくことなどが必要なため、従業員の作業効率アップや仕事の「見える化」が進み、社内が活性化することにつながります。

従業員が有給休暇を取りやすい環境作りを進め、働きやすく生産性の高い事業所を目指してみませんか?

(大竹 光明/社会保険労務士)

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