“ベイマックス”のコンセプトデザインを手掛けた日本人・コヤマシゲト氏へインタビュー 「日本の市場ではベイマックスは生まれなかった」

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12月20日(土)より日本公開となるウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ最新作『ベイマックス』。「年末にして今年ベストの映画キタコレ!」という人も続出するであろう2014年を代表する話題作ですが、なんと本作のタイトルにもなっている心優しきケア・ロボット“ベイマックス”のコンセプトデザインを手掛けたのは、日本人デザイナーのコヤマシゲト氏。

コヤマ氏は、2004年にOVA『トップをねらえ2!』へ参加したのをきっかけに多数のアニメ作品に関わり、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『交響詩篇エウレカセブン』『HEROMAN』『キルラキル』などその代表作は数知れず、現在はデザインワークスとして参加している富野由悠季監督の最新作『ガンダム Gのレコンギスタ』が放映中。キャラクターやメカニックのデザインという分野において、日本を代表する有名デザイナーです。

今回はそんなコヤマ氏に、ベイマックス誕生の裏側やこだわり、さらには“ディズニーの日本愛”についてたっぷりと伺ってきました!

“日本らしさ”を取り入れたデザイン

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――そもそも、どのような経緯で“ベイマックス”のコンセプトデザインを担当することになったのでしょうか?

コヤマシゲト氏(以下、コヤマ):ドン・ホール監督と初めてお会いしたのは、彼が視察のために来日した2011年です。彼をアテンドした担当者がたまたま僕の友人で、一緒に食事をする機会をセッティングしてもらいました。僕は、ドンさんが監督した映画『くまのプーさん』が大好きだったので、感想を伝えたかったんです。

――2011年公開版のおじさんボイスがキュートな“プーさん”ですね。

コヤマ:そこで監督が「日本のフィギュアで面白いデザインのキャラクターを見つけた」と紹介したのが、僕がデザインしたロボットのキャラクターだったんです。それで「それ僕のデザインだ」と言ったら、監督から「じゃあ、次の作品を手伝ってよ」ってその場で話をもらって、喜んでお受けしました。

――具体的に注文された内容や、要望があったポイントなどは?

コヤマ:今回、僕はほかのキャラクターたちには一切関わっておらず、“ベイマックス”をロボットとしてどうデザインするかという部分だけを請け負いました。「日本っぽい感じが欲しい」「どこかに“鈴”のモチーフを入れたい」「シルエットは丸っこい感じがいい」など、監督のザックリとしたイメージを聞いて、デザインのアイデアを出していきました。あくまでも担当は“コンセプト”のデザインなので、僕のアイデアをふまえて、ディズニーのメインスタッフたちでさらに練り上げていったものが、いまの完成版のベイマックスになっています。

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――ベイマックスが身に付ける“赤いアーマー”もカッコイイですよね。

コヤマ:監督の要望があったので、空を飛ぶためのウイングやロケット・パンチなど、コンセプトの段階では日本のロボットアニメの良さを取り入れたアイデアを出しました。日本らしさを盛り込みたかったので、実はウイング部分は扇子をイメージしたり、提灯を意識したデザインを入れたりしましたね。

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――パーツひとつひとつのデザインにきちんとした理由があるんですね。

コヤマ:そうです。あと個人的にヒーローには“ツノ”が必要だという僕の持論があるんです。バットマンは耳が立ってるし、キャプテン・アメリカも羽みたいなのが付いていて、みんな頭から何か飛び出たデザインになっているじゃないですか。日本だって、ガンダムとかエヴァもそうですよね。ヒーロー性としての記号です。だからベイマックスもアーマーには“ツノ”が必要だということを、ディズニーのクリエイターたちに力説した記憶があります(笑)。

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ディズニーだからこそ生まれたキャラクター

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――ディズニーの仕事に参加してみて、驚きや発見などはありましたか?

コヤマ:世界でも屈指のトップスタジオなので、各人のクオリティはめちゃくちゃ高いです(笑)。でもみんなで絵を描きながらデザイン案を出し合って、最終的にひとつのものを作りあげていくというやり方は、僕らと変わらないと思いました。当然ながらみんなアニメーションが大好きで、国が違っても共通の話題で盛り上がれるのはアニメーション・スタジオの特徴だと思います。

――やはり彼らは日本のアニメも研究しているのでしょうか?

コヤマ:驚くほど日本のアニメに詳しいですよ。発売されたばかりのアニメの設定資料集をいち早く入手していたり、同人誌や、コミケでも売っていないような配布物まで手に入れている人もいて、日本のアニメについては相当研究されていますね。日本人がアメコミやカートゥーンと呼ばれる作品から影響を受けるのと同じように、お互いに刺激し合っていると感じました。

――今作は“ディズニーから日本へのラブレター”とも言われていますが、“ディズニーの日本愛”を感じるエピソードですね。

コヤマ:今作は、東京とサンフランシスコを融合した“サンフランソウキョウ”という架空の街が舞台になっているだけでなく、“外国人から見た日本”というのを随所に上手く描いていると思います。リアルな日本と、外国人が想像するインチキな日本像を、どちらも分かった上で、あえて混ぜて新しい架空の都市にしていると思いますね。

――確かに、外国人が自慢されたい日本像ってありますよね。

コヤマ:でもこの作品を観ても日本がバカにされていると感じないですし、リスペクトする日本を研究し尽くした上で、最終的にはうまくアメリカっぽく仕上げているなぁと感心しました。日本人としては一本取られたと思いつつ、素直にうれしいですね。

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――ディズニーが製作していなくても、日本でベイマックスのような優しいケア・ロボットのキャラクターは生まれていたと思いますか?

コヤマ:生まれていないでしょうね。現在の日本の市場やマーチャンダイジングを考えると、ベイマックスのようなデザインにはならないはずです。日本には可愛いキャラクターはたくさんいますが、ロボットを使った作品で可愛いものを作ろうとはならないし、どうしても角張って、すらっとしたフォルムになっちゃうと思いますよね。日本だと企画を通す段階で「もうちょっとカッコイイ感じにならないの?」ってツッコミが入ると思います(笑)。

――ディズニーだからこそできた企画なんですね。

コヤマ:ディズニーの豊かさ、懐の深さを感じますよね。2012年の『シュガー・ラッシュ』でも日本で生まれたゲームのキャラクターがたくさん登場して、「ディズニーがこれをやっちゃうのかよ!」という衝撃を受けました。『ベイマックス』も、日本人が本来やりたかったことを、やられてしまったという驚きでは近いものを感じました。

――最後に、『ベイマックス』のココに注目というポイントがあれば教えてください。

コヤマ:映画には僕が関わったベイマックスのほかにも、魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。予告映像やポスタービジュアルから見て取れるハートウォーミングな部分はもちろんですが、男の子やロボット好きが純粋に楽しいと感じるガジェットの魅力やケレン味がたっぷりと詰まっています。あとは、ディズニーのコアなファンには分かる、クラシック作品へのオマージュなども隠れていたりして、子どもから大人まで、年齢も性別も問わず楽しめる作品だと思います。ぜひ、劇場で楽しんでほしいです。

――本日は、ありがとうございました!

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https://getnews.jp/archives/688891

『ベイマックス』公式サイト:
http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/baymax/[リンク]

BIG HERO 6 – Concept Art by Shigeto Koyama. (c)2014 Disney. All Rights Reserved.

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PR会社出身のゆとり第一世代。 目標は「象を一撃で倒す文章の書き方」を習得することです。

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