世田谷ナンバー導入は違法?争点は
世田谷ナンバーが導入を受け、区民が損害賠償を求めて提訴
本年11月17日から自動車登録の世田谷ナンバーが導入されることを受けて、これに反対する区民132人が、世田谷区長と区に対し損害賠償を求めて提訴したとの報道がありました。
その理由は「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益」と「住居地を特定されることでプライバシーや平穏な生活を侵害されること」といった実質論と、住民の意思が適正に反映されていないという手続論のようです。ここでは実質論に絞って考えてみます。
品川ナンバーを使える利益は既得権のように扱われるべきものか?
そもそも、自動車登録制度は、道路運送車両法に基づき、自動車の盗難等の防止、所有権得喪の対抗力の付与などの行政上および民事上の目的に資するために設けられた制度ですから、登録制度の設計そのものについては、国に広範な裁量を認める余地が多分にあります。
そこで、まず第一に、もともと品川ナンバーの対象となっていた人の一部が、世田谷ナンバーが導入されて新規登録等の際に世田谷ナンバーを余儀なくされることで「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益」が生じるという点については、「品川ナンバーをつける利益」というものが、そもそも法的保護の対象となる権利ないし利益となり得るのかが問題となります。品川ナンバーを使える利益というのは、そのようなナンバーが存在していたことと、これを付与される地域にたまたま住居地があったという事実に基づく反射的なものに過ぎず、あたかも既得権のように扱われるべき筋合いのものなのか、疑問なしとしません。また、現在、品川ナンバーを使用している自動車の所有者が、これをそのまま使用し続ける場合には、世田谷ナンバーへの変更を余儀なくされるわけではないため、直ちに不利益を被るわけでもないでしょう。
居住地が特定される危険についても判然としない部分がある
第二に、世田谷ナンバーになると「居住地が特定され、プライバシー等を侵害される」という点ですが、これについては、お金持ちが多く住むイメージがあることから、車上荒らしに遭う危険があるといった問題も含まれているようです。ただ、品川ナンバーであっても、その対象となるエリアに居住しているという意味では特定されてしまいます。また、車両荒しに遭う危険も、世田谷というナンバーだから狙われるのか、それとも高級車だから狙われるのか、さらには、その危険というものも、抽象的な懸念に過ぎないのか、もしくは具体的な裏付けのある危険とまで言い得るのかなど、判然としない部分もあるところです。
いずれにしても、世田谷ナンバー導入が違法か否かは、提訴した住民側の主張する不利益が、司法の力を借りてまで除去しなければならない具体的なものなのかや、住民側に、ご当地ナンバーを導入した目的である「地域振興や観光振興等」を上回る利益があるといえるのかといったことが検証されなければならないでしょう。
なお、世田谷ナンバー導入は、最終的には国土交通省が決定したものですから、世田谷区長や区に対して損害賠償を求めたとしても、導入の決定そのものを直ちに覆すことには繋がりません。また、一旦導入されてしまった世田谷ナンバーを改めて品川ナンバーに戻すということは、その間に、今度は世田谷ナンバーに慣れ親しむ人たちが出てきてしまうため、容易には進まないのではないでしょうか。
(田沢 剛/弁護士)
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