パターナリズム全盛時代・・・台風報道(中部大学教授 武田邦彦)

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パターナリズム全盛時代・・・台風報道(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
※この記事は2014年10月14日に書かれたものです。

パターナリズム全盛時代・・・台風報道(中部大学教授 武田邦彦)

台風19号はいろいろな点で面白い社会現象が現れていた。その一つがJR西日本の言動だ。ちょうど、台風が大阪に来る数時間前。私は新幹線を降りて新大阪から大阪へ移動していた。その日は16時(午後4時)からJR西日本の在来線が全て止まるということで駅では盛んに放送していた。

「大型で強い台風19号が・・・」と放送していたが、「大型」とか「強い」というのはあるレベルによって決まり、それは気象庁が決めている。私が名古屋を出るときに、すでに「強い」台風ではなく、気象庁は「強い」とは言っていない。それをJR西日本は「強い」と繰り返していた。

気象庁が発表していないのだから、素直に台風情報を読めば「強い」とは言わないはずだ。自分で創作しないと「強い」という文字はない。

そうこうしていると、テレビで「JR西日本が全路線を止めたのは、関西の人が外出すると危険だからですかね」と言っていた。JR西日本の営業している場所のうち、台風の影響は少ないところもある。鉄道には鉄道の運行の基準があるから、現実に運行できない路線を運休にするのは良いけれど、運行できる条件で運行しないのは、日本人の「移動の権利」を阻害する行為だ。

JRはほぼ独占的に鉄道を支配しているが、それはJRが国民の移動について国民の権利を守ることが前提となっている。どんな私企業でも社会的責任があるからだ。

ところで、その朝、私はニュース解説にでていたが、民放だったのでアナウンサーは柔らかく「外出を控えてください」と言っていた。ところが昼ごろになると、NHKではかなり強い調子で「外出を控えてください」と繰り返した。

いったい、NHKは何様なのだろうか? 日本国民から受信料をもらっているのに、国民を指導する気持ちでいる。おそらくは「国民は俺たちよりバカだから」と思っている。日本国はその憲法によって親権で制限を受けていない大人(禁治産者や子供を除くという意味)は、提供された情報が正しければ、たとえ危険であろうと山に登ったり、風が強かったりしても、自分の判断で行動できる自由を有する。学校に通っている子供ではない。

このように自分が偉いと考えて、他人の言動を制限する考えをパターナリズムという。家族はみんな俺の奴隷だと勘違いしているオヤジのことである。

かつて、選挙でこのようなことがあった。報道が盛んに「選挙に行きましょう」と呼びかける。そんな必要はない。国民は選挙があること、どこに行けば良いかがわかれば、投票に行くかどうかは国民が判断することだ。

マスコミの信頼が現在ほど落ちていることはないのに、まだNHKは自分たちが国民よりはるかに理解力があり、国民に台風の情報を知らせるだけではなく、「外出を控えろ」と指導しなければならないと勘違いしている。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年10月23日時点のものです。

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