月刊『創』が柳美里さんに原稿料を払えない理由

月刊『創』が柳美里さんに原稿料を払えない理由

 創出版が発行する月刊『創(つくる)』が、芥川賞作家・柳美里さんに原稿料を支払っていないことが話題になっています。

 今月15日、柳さんが自身のブログで公開した情報によれば、『創』に連載していたエッセイ「今日のできごと」の原稿料が長期にわたって不払いとなっているとのこと。

 この”告発”に答える形で、篠田編集長も17日にブログ上で
「そこに書かれた柳さんの主張は正当です。『創』はこの何年か、赤字が累積して厳しい状況が続き、制作費がまかなえなくなっています。(中略)そこまで無理をして続けるという判断が正しいかどうかは悩むところですが、出版不況の中でもともと利益にならない総合誌あるいはノンフィクション系の雑誌が次々と休刊させられていく状況に常々疑問を呈してきたので、利益が出なければやめるという判断にはすぐにはならなかったわけです」
 と述べています。

 しかし、その後も柳さんは篠田編集長から誠意ある対応は得られなかったようで、23日のブログで「今日 13:32に、『創』篠田博之編集長に送ったメール」というタイトルで篠田編集長あてのメール全文を公開。
「稿料未払いの原稿は、 155,098字、400字詰原稿用紙387.7枚です。1枚4000円と計算すると、1,550,800円になります。それに、対談2本分(1本3万円)6万円を加えた、計1,610,800円を返済してください。(中略) 本来であれば一括返済して欲しいのですが、毎月30万円で6カ月以内に完済するという条件で覚書を作成していただきたい」
 などと、原稿料を概算し、支払い方法も提示して訴えています(23日現在)。

 柳さん以外にも、執筆陣に香山リカさん、森達也さん、佐藤優さん、といった著名人の名前も並ぶ『創』は、大手メディアが報道しないようなニュースを深掘りしていることで定評がある月刊誌。今年の5・6月合併号では、「黒子のバスケ」事件の初公判における、被告の冒頭意見陳述を全文掲載したことが注目を集めました。

 また、これまでにも、日本社会を震撼させた、いわゆる凶悪事件の犯人の獄中手記や手紙を掲載。連続幼女殺害事件の宮崎勤元死刑囚をはじめ、彼らとの交流をもとにまとめた『ドキュメント死刑囚』(ちくま新書刊)では、篠田編集長が彼らと手紙や面会を重ねて、ジャーナリストとして”闇と真実”の解明に真摯に取り組んでいた様子が描かれています。

 本書『生涯編集者 月刊「創」奮闘記』によれば、総会屋系雑誌『構造』が前身と言われる『創』は1971年に創刊し、1982年から篠田氏が編集長に就任。メディア批評誌として高い評価を得たものの、常に赤字が続いていました。唯一の基幹商品として経営を支えていたのが、1983年から始まった就職情報本『マスコミ就職読本』の発行と、その関連ビジネスです。

 もっとも近年はネットの普及で、『マスコミ就職読本』の売れ行きも芳しくなくなり、経営状態は悪化の一途をたどっていました。本書の最終章でも、「10年ほど前から私の役員報酬をゼロにした。(中略)亡くなった親が残した貯金まで『創』につぎ込んでいる状況だ」と記述しています。

 ただ、いくら経営状態が悪化したとはいえ、原稿料不払いは、別の問題。まず、柳さんの訴えに誠意をもって対応した上で、読者にも事の経緯を正確に説明してもらいたいものです。

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