【後編】オーケンに全部聞いた! 4年ぶりでもブレない筋少ワールド『THE SHOW MUST GO ON』アルバム発売記念インタビュー
2014年10月8日、『筋肉少女帯』が4年4か月ぶりに、待望のオリジナルアルバム『THE SHOW MUST GO ON』をリリース。
ニューアルバムの事をはじめ、様々な質問を大槻ケンヂさんにぶつけてみた。今回インタビューの後編として、その様子をお伝えしたい。
深夜にやっているよくわからない映画のような説明不能さ
―アルバム構成に関していうと、(エンドタイトル風の)『気もそぞろ』がトリではなく、(ちょっとカオスな)『ニルヴァナ』が最後です。
そうなんですね。『気もそぞろ』で終わるとまぁコンセプチュアルにはなるんですけれども、うーん……なんだろうな。僕の聞いてきた70年代とかの洋楽って、アルバム最後の1曲って、まあ、なんだろうな、シングルにするでもないし、ライブでド定番になるでもない感じの曲であっさり終わるって言うのが僕の中で多かったような気がして、そういうところを意図的にねらったところはあるかもしれないですね。
―それが今回は、『ニルヴァナ』だったんですか。
うん。
―あっさりというよりは、結構、“持たせ”てシメる感じで。
『ニルヴァナ』とね、『恋の蜜蜂飛行』は、演奏は別として歌詞的に言うと、うん、作詞者……僕ですけれども、作詞者自体もその、実は全容を把握していないんですよ。うん。まあ言うたらこの2曲、何を言ってるのかわからないでしょ?よくわからない詞だ。いかようにも解釈できるというか。
―『蜜蜂飛行』は特に。連れてかれちゃった、消えちゃった。
うん……。それはね、僕の中で今回面白いなって。まあ、まとまらなかった歌詞がね、と言えばそれまでの事なんだけれども、その整合性の取れてなさがむしろ、……深夜にとか、昼間にたまたま観た、よくわからないシュールな映画みたいな、奇妙さ、を出していて、もしかしたらそういうテイストが好きな人には好きかもしれないな、とは思いたいな、って感じですかね。はい。
―『気もそぞろ』がトリじゃない、「だから筋少なんだろうな」、ってのは勝手に思ってました。
キレイにまとめることもできるけど、ここであえて、連綿と続いている……ああ、また、不条理になって終わる、ってやつですよね。
―はい。
うんうん。それはあると思います。
―4年4か月ぶりでもやっぱり安心っていう。……変な言い方ですいません。
うん。なるほど。だから多分、『恋の蜜蜂飛行』は、恋愛における相手とあれだけ愛し合った中なのに、一瞬にして恋愛が終わって、相手が消しゴムで消したように消えていく。その様子は恋愛というのは、突然来て突然去っていく蜜蜂、蜂の軍団のようだ、そんなような、ちょっと文芸映画的な不条理感なんだと思うんですよね。フランスとかイタリアの、単館上映系の変な映画、変な恋愛映画なんだと思う。
―心に残るけど、説明の出来ない。
出来ない!やつですね。で、さらにテレ東で放送される時に尺を合わせるために40分くらいカットされて!なおさら全然わかんない、っていう!(笑)
―ありますねえ(笑)。
そういう詞なんだと思う。
『ニルヴァナ』の方も、これも元バンギャの奥さんが居て、旦那は……パパは本当は科学者になりたかったんだけれども、致し方なく、親の寺を継いで坊主になっていくうちに、ちょっとマッドサイエンティスト化したんでしょうね。ヴァン・デ・グラフ・ジェネレーターっていうあの、静電気を発生する装置なんですけれども、ジョン・ハチソンって人がそういうのを使って空中浮遊が出来るとか、重力を変えられるとか、まあ、疑似科学に入ってったことがあるんですよね。
この詞の坊さんも、そっちの方に傾いて行って、さらにまあ、“アトムの風”だもの、原発とかも彼の中では結構、キちゃってるわけなんですよね。
―これも妄想かもしれない。
そうなんですね。
そしてよくわからないまま、最終的に涅槃(ねはん)で待ってろ、という不穏なムードになるっていうことは、ま、これもまた不条理系サイコホラーみたいなやつですね。
……あの、あれ!あの人!ハチ公物語(HACHI 約束の犬)とか!プリティウーマンの人!役者の
―ええと……
リチャード・ギア!リチャード・ギアが何をトチ狂ったか、ものすごい妄想、妄想系の映画『プロフェシー』(2002年)って映画に出たことがあるんですよ。
なんだかわからない、モスマンの……モスマンっていうね、それが出てきたときに「よからぬことが起こる」と言われているUMA(※未確認動物)が居るんですよ。それについて、ジョン・A・キールって作家が小説を書きまして、それが映画化されて、なぜかリチャード・ギアが主演なんですよ。本当に変な映画で、……なんか奥さんがこう死んじゃうわけですよ。そこからリチャード・ギアがおかしくなってって、変な蛾人間みたいなのが、何かそれが「予知をさせる」みたいなことを言って、最後、橋が落ちて、「なかった」って終わるみたいな……なんだかわからない映画があるんですね。
―スゴいっすね……(絶句)
だから、多分、ああいうようなものを(『ニルヴァナ』の作詞者は)やりたかったんじゃないのかな。作詞者が書いた後で「やりたかったんじゃないかな」ってのはイイですね。この感じ(笑)
最初に設計図を書いてないっていう。
―「出て」きちゃった。
出てきたんですかねえー。わかんない。もしかしたら作詞の新境地なのか、ただ、整合性がとれてないだけなのか、そこら辺がわからないところがまた、面白いと思いますね。
筋肉少女帯は、日本のロック史の“ズレ”
楽曲、サウンド的には筋肉少女帯は、まあ言うたらバカテクの人たちの集まりなので、どんどんどんどんそのテクニックとアンサンブルの向上という一つの目標があって、どんどんどんどん構築していってると思うんですよね。それがこの『THE SHOW MUST GO ON』においては、すごい高みに上がってると思うんです。それが、その中で、作詞者が、なんかまだ、自分の行く方向が迷ってる感じが、面白いんじゃないですかねえ。それは重要なことだと思います。
―この迷いが、それはひょっとしたら、新しい芽のほころびというか。またそこから何かが。
(たとえば)巨匠が来て、すごいスタッフが集まって「映画作ります」って言うときに、主演であるらしい役者が、「オレ、ちょっと、違う映画出たほうがよかったんかもしれないなあ」みたいに思ってることの面白さですよね。うん。それはネガティブじゃなくて、そういうズレ“こそ”、僕は面白いと思うんですけれどもね。
―何かのズレを感じますよね。
僕は、筋少の中でそういうズラし役だと思いますよね。まあ、てか、筋肉少女帯ってバンド自体が、日本のロック史の中においてちょっとこう、ズラすということをね、やってきたように思います。ええ。揺さぶるという。
―でも、こう、変わってない、ということがいい意味でまた今回アルバムを通して聴けたというか観れたというか。一ファンとしてはすごく嬉しく思いました。
いろんな方に聴いてほしいですよね。
ユリ・ゲラーは言った
―では、ガジェ通の読者……30代、40代をはじめとした、僕みたいに筋少を聞いて育った人たちに向けて、メッセージをお願いできますか。
あのね、ユリ・ゲラーと会ったんですよ。テレビで。
―おぉー!!!(興奮)
ユリ・ゲラーさんがね、スプーン曲げはさておいて、人にメッセージを送るのにね、えと、「ドラッグはやるな」「タバコは吸うな」「夢を持て」って。……スプーン曲げの人にそう言われる不思議っていうのがね。
(一同笑)
うん。すごく僕は衝撃で。
―まさか、ユリ・ゲラーに、そんなこと言われる日が来るとは。
ねえ!! じゃあ、そしたらすぐ(スプーンが)曲がるのかよ、って話ですよね(笑)。別に曲げたくもないし、みたいな話ですよね。曲がったらいいけれども。
でも正論なんですよね。だから俺も「タバコは吸うな」と言いたいね! タバコは吸うな! ドラッグもやるな!
―そうですね。
危険ドラッグもやるな!うん。30代、40代なりの、夢を持て! だから、(僕も)ユリ・ゲラーと一緒ですよっ!
―奇しくも、メッセージが一緒になってしまいましたね。
そうしたら、もしかしたら、スプーンが曲がるかも……しれないですよね。
スプーン曲げ讃歌ですよ!
―(一同爆笑)
筋少の休止~復活を経た30代、40代
そうですねえ。30代は筋少活動休止して、特撮で頑張ってて、いいバンドで、でもねえ、当時はまだ筋少程の人気という感じではなかったというのもあったり、色々なんか、ジレンマがあったかもなあ……。
―ジレンマ。
筋少復活して、特撮もまた復活して、今の方がなんか……楽しくやれてるような……まあ、30代は30代でもちろん楽しかったですけれどもねえ。でも30代って本当、悩むんだよなあ。うん、わかります。
―大槻さんご自身が40代入ったときに“筋少復活”くらいのタイミングですよね。
そうなんですよ。うん、そうなの。40代は……華やかとまでは言わないけど、うーん、40代になったらフェスとかも呼んでもらえるようになったの。
いや、20代は、フェスって言うかイベントってあったけど、30代はまあ、呼んでもらうことってほとんど無かったなあ。
筋少が活動休止した年にフジロックが始まったんじゃなかったかな。
マネージャーさん:98年とか97年とかですね
ね。でも特撮ではそういう機会が無くて、で、40代になって、筋少が復活して次の年にね、『フジロック』と『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と、あと『アニメロサマーフェスティバル』っていうアニメのフジロックみたいのがあるんですよ。それ、僕は3つ同時に呼んでもらって、まあ、大きいところでやればいいってわけじゃないけれども、ちょっと……やっぱ、うれしかったですね。
フジロックとアニサマに同じ年に出たのは、世界で今のところ、僕だけかも、いや、探せば居るのかもしれないですけれども。
マネージャーさん:いや、居ないと思いますよ。
―貴重な体験を……。
そうなんです。
オーケン、医者に“暇な主婦”と言われる
―なるほど、そういった意味でも今回の大槻さんのコトバは、40代にとっては特に染み入ると思います。
でも40代も大変だよ。(40代は)謎の病気になりますからねっ!
僕、40代になってから、ずっとしゃべってると、舌痛症っていって舌の先が歯の裏に当たるような感覚がして痛くなってくるんですよ。
でもそれは、「そういう気がするだけなんだ」って、お医者さんが。
「気のせい」なんですって。でも症状はあるんです。で、主に暇な主婦がなる病気なんだって。
―おかしいですね。
おかしいだろ!
―共通点ありますか?(笑)
わかんないすよ……俺は暇な主婦だったのか……衝撃をうけますよね。
―暇な主婦との共通点がわかったらぜひ教えていただきたいですよね。
本当ですよねえ。でも、バンドマンってね、意外と暇な主婦的生活してるんですよ。
―そうなんですか?
若いころのバリバリの売り出し中とかはちがうけど、ま、いろいろタイプがあるんだけれども、なんか死ぬほどツアーやってるバンド以外は、昼とか空いてたりしますよ。。
だからみんな、副業やったりするけど、そういうのが無い日の一日のサイクルなら、普通に『ミヤネ屋』とか全部観れますよ。
―観れますね!
観れますよ。ミヤネ屋始まると楽しみだもん!「今日のニュースなんだろう」って。
(一同笑)
「30代の方はそんなに焦らなくても大丈夫だよ」
夢を持つのが大変ですからね、30代、40代はね。でもね、男の場合は30代の方がキツいかもわかりません。体力はあるし、野心もあるし、でも、やっぱりこう、世間は認めてくれないし、みたいなのがあると思います。それが40代になると、あの、ちょっと、体力や欲が落ちるわけですよね。そうすると「ああ、そんなにガツガツできないんだな、ていうか、しても仕方ないんだな」ってことに気付くので、割とね、うん、40代の方が楽な気がするなあ。精神的に。僕の場合はそうだったですねえ。30代はちょっとあくせくしてたわ。うん。
だから、30代の方に、大丈夫、そんなに焦らなくても大丈夫だよ、って言ってあげたい。40代には……お互い体を鍛えましょう、ってことですよね。健康に注意しましょう、ってことかなあ。本当に普通ですがそう思います。
―今日は本当にありがとうございました。
歳を重ねても、オーケン節は全く変わっていなかった。いや、核の部分は僕らの好きな筋少、オーケンのままだ。変わらぬ核を携えたまま、新しいものは蓄え要らないものを捨てて、彼も筋少も進化を続けている。
今回『THE SHOW MUST GO ON』の楽曲や、オーケン自身の言葉は、そのことを何よりもハッキリと証明してくれているのだ、と感じた。
この記事を読んだ方は是非、アルバムを通して、『筋肉少女帯』を再確認してみていただきたい。
『THE SHOW MUST GO ON』
オーディエンス・イズ・ゴッド
労働讃歌
ゾロ目
霊媒少女キャリー
ムツオさん
みんなの歌
月に一度の天使(前編)
愛の讃歌
月に一度の天使(後編)
恋の蜂蜜飛行
吉原炎上
気もそぞろ
ニルヴァナ
※全13曲収録
※初回限定盤付属のDVDには『ゾロ目』(MUSIC VIDEO)、LIVE映像7曲(全曲初映像化)が収録
筋肉少女帯 | 徳間ジャパン
http://www.tkma.co.jp/jpop_top/King-Show.html筋肉少女帯 大情報局!
http://eplus.jp/king-show/ [リンク]
(インタビュー・撮影:オサダコウジ)
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