自転車ひき逃げで免停、なぜ?

「免許」は「適格者にのみ与えられた特権」

自転車ひき逃げで免停、なぜ?

兵庫県警は、このほど、自転車で走行中に歩行者と衝突して、そのまま立ち去った男性を道路交通法違反(ひき逃げ)容疑などで書類送検したほか、自動車の運転免許についても180日間の停止処分を下しました。マスコミ報道では、「自転車での事故を理由に運転免許停止の処分を受けることは珍しい」などと取り沙汰されていますが、実は、それほど驚くようなことではないのです。

そもそも「運転免許」がどういう性質のものか、という視点からスタートすれば、答えはおのずと出てきます。まずは「免許」という言葉ですが、これは一般的に禁止されている行為を行政機関などが特定の人に限って許すことを意味します。たとえば、医療行為は一般的には禁止されていますが、医師免許を持つ者だけが医療行為を許されます。要するに「免許」は「適格者にのみ与えられた特権」と言うことができます。

自動車運転者として「不適格」と判断されると行政処分があり得る

ですから、道路交通法では「自動車の運転は一般に禁止されている」ことが大前提になります。その「禁止された行為」について、「運転免許」を与えられた者だけが許可される仕組みなのです。その意味では、いったん運転免許が与えられたとしても、それはけっして「一生もの」というわけではありません。煩雑だと思われがちな一定期間ごとの「免許の更新」も、運転に必要な視力・聴力その他の能力・適性を再確認するための手続だと言えば、それは免許制度のもとでの「宿命」だとわかります。

そして、運転免許を与えられた後に、自動車運転者として「不適格」と判断された場合には、免許の取消や効力停止などの行政処分があり得ることも十分に理解可能でしょう。例えば、交通違反を繰り返したり、交通事故を起こしたような場合を想定していただければ、それによって免許の取消や効力停止などの行政処分を受けても仕方がないと納得できるのではないでしょうか。

この点、我が国の運転免許制度では、取消や停止などの行政処分を受ける基準を明確にするため、細かい点数制度が用意されています。駐車違反1点、信号無視2点などといった点数を累積して、過去に前歴がなくても6点になると免許停止処分を、15点では免許取消処分を受けるという、よく知られている制度です。

自転車による違反行為も「点数制度によらない行政処分」が可能

しかし、これとは別に「点数制度によらない行政処分」もあるのです。それは、道路交通法103条1項8号が、免許を受けた者について「自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがある」と認めた場合には、免許を取り消したり、免許の効力を停止させることができる旨を定めていることを根拠としています。

この条項によれば、たとえ自転車による違反行為であっても、酒酔い運転や救護措置違反などの重大なものに対しては、「点数制度によらない行政処分」が可能になります。危険ドラッグ(脱法ドラッグ)を使用したとして逮捕され、罰金の略式命令を受けた男性に対し、ごく最近、徳島県公安委員会が「日常的に危険ドラッグを使用しており車の運転に著しい危険がある」と認めて、男性の運転免許を150日間停止する処分を下したことも、同様に「点数制度によらない行政処分」なのです。

さて、警察庁の統計によると、昨年末における全国の運転免許人口は約8200万人に及んでいます。総人口が約1億2700万人ですから、65%つまり国民の3人に2人が運転免許を持っている計算です。運転免許の保有割合がこれだけ高くなってしまうと、本来の「免許」の意義を忘れがちになりますが、あくまで「適格者にだけ与えられた特権」であることをもう一度確認していただきたいと思います。

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