バディ界の新星登場!〜阿部智里『黄金の烏』
結局バディものが鉄板。バディものとは、主に男性同士の二人組が活躍する映画をバディ・フィルムと呼ぶことから派生した言葉かと思う。例えば、春に新作が日本放映されたばかりなのにもう続きが見たくてしかたがない「シャーロック」(コナン・ドイルの原作群ももちろん含む)、準主役がたびたび変わりながらシリーズを重ねている「相棒」など。私が思う究極のバディものといえば、「リポビタンD」のCMだ。物心ついて以来ずっとやってる気がしますけど、あれ。俳優の組み合わせを変え、シチュエーションを変え、しかし、二人組であること(と「ファイト−!」「いっぱーつ!」のかけ声)は頑ななまでに変わらない。我々が潜在的にバディものを求めていることの表れではないだろうか?
そんなバディ界にニューフェイスが登場した。『黄金の烏』の舞台は、ふだんは人間と同じ姿で生活を営む八咫烏たちが住む世界・山内。その族長一家(宗家)の皇太子・奈月彦と、北部領内の一地方である垂氷郷の郷長の次男・雪哉が新たなスターだ。本書はシリーズ第三作となる。著者のデビュー作でもある『烏に単は似合わない』こそ美しい四人の姫君や色とりどりの着物やたくさんの装飾品が出てくる華やかなガールズ小説の趣もあったのだが、第二作の『烏は主を選ばない』から奈月彦と雪哉を主人公に据えた物語展開になっている。
今回、これまでにない禍々しさをたたえて物語が幕を開ける。気がふれて人間の姿に戻れないまま暴れ回る八咫烏の存在が相次いで確認されたという。どうやら禁制の薬が出回っているらしい(「八咫烏」「鳥形・人形」といった表現がなければ、大沢在昌や北方謙三の作品かと思ってしまいそうなハードボイルドぶり)。中央での出世などには目もくれず自分の故郷を守ることに心を砕いてきた雪哉だったが、山内全体を揺るがす混乱の渦に否応なく巻き込まれてゆく。事件を調べ始めた奈月彦と雪哉の前には想像もしなかった敵が立ちはだかって…。
著者の阿部智里氏は1991年生まれの大学院生。子役などではすでに2000年以降に生まれた人気者もいるけれど、とうとう1990年代生まれの作家が活躍し始めたかと思うと感慨深い。デビュー作からしてすでに、ファンタジーとミステリーの絢爛たる融合を成し得ているという完成度の高さ。よくぞこれほど複雑で入り組んだ物語を思いつくものだと唸らされる。以前テレビで阿部氏のインタビュー映像を見たことがあるが、これからもどんどん書き続けるという決意の強さとみなぎる自信を覗かせていたのが印象的だった。本書の物語世界においては、宗家の長を「金烏」と呼ぶ(中でも奈月彦は「真の金烏」とみなされている)。著者ご自身が金烏となって、これからの文学界を牽引していっていただきたい。
(松井ゆかり)
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