3Dデータ「わいせつ物」判断の是非

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性器の描写が、直ちに「わいせつ」というわけではない

3Dデータ「わいせつ物」判断の是非

自身の女性器を3Dプリンターで復元できるデータをインターネット上で送付した女性が、「わいせつ電磁的記録頒布罪」(刑法第175条第1項)の疑いで逮捕された事件が波紋を広げています。

「わいせつ電磁的記録頒布罪」にいう「わいせつ」というのは、「①いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するもの」と、判例上定義されています。一言で言ってしまうと、一般的な常識を持つ普通の人が見た時に「いやらしい」と感じるものです。主として、視聴者の好色的な趣味に訴えるものであれば、概ねこれに該当するでしょう。

逆に言うと、性器の描写があったからといって、それをもって直ちに「わいせつ」というわけではありません。芸術的又は科学的な価値のある作品まで「わいせつ」として処罰の対象とすることは、やや行き過ぎと考えられます。

そもそも、逮捕された女性も、自身の女性器をかたどった「作品」の個展などを開いてきたということです。「作品」を見ていないため、「わいせつ」に当たるかの判断はできませんが、仮に極めて精巧に作られ、医学標本に近いようなものであれば、「わいせつ」とまでは言えない可能性もあるのではないでしょうか。

検察が起訴した場合、裁判所の判断が注目される

女性が送信した3Dプリンター用のデータは、それ自体、直接「わいせつ性」を認識できるものではありませんが、「わいせつ電磁的記録」といえるのでしょうか。判例では、わいせつな場面を撮影した映画フィルムは、未現像状態では内容を直接視認することはできないものの、内容を顕在化させる現像処理が容易であるため、「わいせつ物」に当たるとされ、わいせつな内容を録画したビデオテープも、再生により容易に視覚的に認識可能となる以上、「わいせつ物」に当たるとされます。

こうした判例と同様の論理からすると、本件では、3Dプリンターに入力することが、果たして、わいせつな内容を視覚的に認識するための容易な操作と言ってよいかがポイントになります。この点、現状では3Dプリンターはいわゆるパソコンのハードディスクやビデオテープほどには普及しているとは言えず、再生が容易に可能とはいえないかもしれません。

しかし、他方で3Dプリンターは近年、医療・家電の分野で普及しつつあり、家庭用のものも売り出されていることを考慮すると、微妙な気もします。逮捕された女性はその後、裁判官の勾留決定に対して申し立てた準抗告が認められ、釈放されたようです。それでも、検察はこの女性を起訴するのか、仮に起訴した場合には、裁判所はどう判断するかが注目されます。

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