高年齢者雇用安定助成金の問題点
当初の予算に対する実績が大幅に不足。高年齢雇用安定助成金とは
厚生労働省の助成金制度の中に「高年齢者雇用安定助成金」というものがあります。この助成金では、定年を控えた高年齢者を職業紹介会社を通じて雇用する企業に1人あたり70万円の給付金を支給する「高年齢者労働移動支援コース」と、高年齢者が働きやすいように雇用環境を整備する制度を設けたり、高年齢者の負担を減らすために新たに設備を購入した場合等に要する資金の最大3分の2を助成(上限500万円)する「高年齢者活用促進コース」の2つのコースが設けられています。
今回、厚生労働省の報告では「高年齢者雇用安定助成金」が当初の予算に対する実績が大幅に不足していることがわかり、制度の問題点と見直しに迫られています。報告内容によると「高年齢者労働移動支援コース」が、2025人分の利用想定に対し、平成26年3月までの実績はわずか1人であり、「高年齢者活用促進コース」についても、945件の想定に対して実績は48件で、見込みの約5%程度に過ぎませんでした。
高年齢者雇用安定助成金は、なぜ使われなかったのか?
高齢化社会に向かうことが確実な状況下において、なぜ、高齢者を活用する目的の助成金制度がほとんどと言っていいほど使われなかったのでしょうか。
理由の一つとしては、広報PRが不足していたという点が挙げられます。若年者雇用や教育訓練系の助成金は、用途が明確であるため広報も頻繁に行われていましたが、「高年齢者雇用安定助成金」は具体的な受給事例や企業のメリット・デメリット等が一般的に周知されておらず、広報が不充分でした。
そして、もう一つの理由は企業や労働者のニーズにマッチしなかったという点が挙げられます。助成金制度は、企業と経済の活性化のために毎年見直しが行われていますが、新しい助成金をどんどん計画して国家予算から一定の配分を割り当ててもらわないと次年度の予算が削られてしまうため、「使われない助成金」や、制度として「使いにくい助成金」が採用される実情にあります。
「高年齢者雇用安定助成金」は類似の助成金制度を参考に作られましたが、昨年まで利用率の高かった65歳までの雇用延長措置を制度化した企業に支給される「定年引上げ等奨励金(現在は廃止)」により、多くの企業が65歳までの雇用対策を図ってきました。企業は、新しく高齢者を雇用するより、社内の仕事を熟知した定年者を嘱託社員として再雇用する方が教育や採用のコストを押さえることができます。また労働者にとっても、慣れた環境で雇用が延長される方が安心感が得られるというメリットがあります。
「使われない助成金」を改善するには、政府は見せかけだけの制度ではなく、企業と労働者の本来のニーズに合わせた助成金制度づくりを検証することが大切ではないでしょうか。
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