「やりすぎ」なのが日本の強み!? 公開フォーラムで語られたクールジャパン政策の現場
安倍晋三政権のクールジャパン戦略によるクリエイティブ産業の振興政策に注目が集まる中、デジタルハリウッド大学が『東京の文化とメディア、クリエイティブ産業の未来像』と題した公開シンポジウムを2014年5月24日に開催。経済産業省や海外向けメディア、Googleの担当者を迎え、政官と民間との役割分担から日本を海外に発信していくあり方、さらにはクールジャパンの本質に至るまで、多岐に渡る議論が展開されました。
経済産業省商務情報政策局クリエイティブ産業課係長・吉田剛成氏は、2014年3月にスタートしたサイト『100TOKYO』を立ち上げた意図や経緯についてを中心にプレゼン。
「ファッションや食、ライフスタイルといった日本の文化を付加価値をつけて展開して、国内だけでなく海外に向けてビジネスをやっていきましょう、というのがクールジャパン」と位置づけます。
月に約10万PVという『100TOKYO』については、「海外からの問い合わせが届くようになっている」といい、日本に関心のあるブロガーなどに向け、「ちょっと頑張れば手に届くものをキュレーションしている。掲載しているものが売れたり、商業施設に人が来るのがゴール」と語ります。
100TOKYO
http://100tokyo.jp/ [リンク]
『TimeOut Tokyo』のコンテンツディレクター東谷彰子氏は、ロンドンをはじめ各国で海外旅行客などに利用されているタウンメディアの現状を紹介。読者層が全世界的に年収高めだといい、「旅をするということよりも、各都市にお出かけする感覚」を手軽に実現できることを目指していると話します。また、「海外では、もっと日本で働いた方がいいと言われる。なぜならば交通費が全額会社から支給されるから、と」といったエピソードを交え、普段日本人が当たり前だと感じていることでも海外から見れば特別なところも少なくないと強調します。
東京旅行ガイド – Time Out Tokyo (タイムアウト東京)
http://www.timeout.jp/ja/tokyo [リンク]
Googleからはプロダクトマーケティングマネージャーの山本裕介氏が登壇。『Google+』でのクールジャパン特集などを取り組む理由について、「クールジャパンのイニシアチブをインターネットを使って民主化できるといいなと思っている。『これが東京のイケているところ』だと一部の声の大きな人が決めてしまって、一般の方が置いてけぼりになるのは悲しい」と、参加型であることがクールジャパンのポイントであると強調します。「例えば鯉のぼりの由来を(日本人も)ちゃんと答えられない。聞かれないと考えようとしない」とも話し、ユーザーが投稿して知識を共有できるプラットフォームを提供する役割をウェブサービスが果たす必要性を示唆しました。
COOL JAPAN on Google+
http://www.google.co.jp/campaigns/cooljapan/ [リンク]
デジタルハリウッド大学研究員で『FIT INNOVATION LAB JAPAN』主宰のヒラタモトヨシ氏は、自身が手がけるファッションショーの動画配信の事例を絡めて、ネットのインフラ強化の必要性を訴えます。「日本のイベントの会場だと、私が自宅で使っている回線の1/10の速さしかなく、それを多くのメディアが取り合っている状況。これは4年前から変わっていないし、コンテンツを前に出そうとすると優先順位が低い」と問題提起。さらに、登壇しているのが海外の企業やメディアであり、日本資本ではないということへの危機感をにじませ、「未来に向かってチャレンジしていくことをサポートするのが本当の意味でのクールジャパン」と話します。
『FIT INNOVATION LAB JAPAN』(『Facebook』ページ)
https://www.facebook.com/fitilab [リンク]
ディスカッションでは、日本や東京の魅力について改めて考える場面も。
吉田氏は「日本の魅力はひとつではなくたくさんあるというカオスさが価値なのではないか。日本の建築家が評価が高いのは、街としての新陳代謝が早いのも理由」と語ります。一方で「いろいろありすぎて何か分からないというのはPRの弱さ」とも認め、クールジャパン政策で発信を高めていく必要があることを示唆。
東谷氏も「言葉にすると伝わりにくい。日本に興味のある潜在的なファンに情報を届けるのが課題」と同意。「東京に滞在したテルアビブからきた(『TimeOut』の)記者が、興奮しながら”ここは妖精の街なのか”と言っていました。”自分が想像していたのとまったく違った方向に進化している”と。それが日本の強みだと思います」と、来訪した人には伝わる魅力をどのように伝えるのかがカギになるとしています。
対照的に「日本の魅力は過剰なこと」と即答したのは山本氏。「例えばロボットレストランなどはやり過ぎ感があるし、逆にファーストフードなどは過剰に整理されすぎています。そういったことは日本の中にいると気づかないですが、それを面白がっている人がいると認識しています」といい、「それがなぜそうなっているのか、説明できるようになると変わってくるのでは」と課題を指摘しつつ、「クールジャパンがチャンスであることは否定できない事実。住んでいる国や地域を題材として発信すれば、世界と戦わないでいい。日本・東京に住んでいるだけでアドバンテージになる」と、情報発信をサポートするGoogleの役割を強調しました。
「日本の魅力は、歴史をリセットされた”ゆるふわ文化”。そこからポップカルチャーが生まれている」というヒラタ氏は、フェアユースなどの政策面での対応がクールジャパンには必要であると主張。それに対して吉田氏も同意した上で、「日本のインターネットのイメージはネガティブ。イメージを変えるのが大きくあるし、国の役割もある。経産省も貢献していければいいなと思っています」と発言しています。
モデレーターを務めたデジタルハリウッド大学研究員の高橋伸太郎氏は、「東京の魅力は、混沌から生まれるイノベーション。クールジャパン政策は国内での認知度の課題がある。どのような取り組みがあるのか、共有することをもっと進めていきたい」と総括。東京オリンピックに向けてどのように海外にアピールしていくのか、さまざまな議論の上に試行錯誤が繰り返されることになりそうです。
公開フォーラム「東京の文化とメディア、クリエイティブ産業の未来像」(『Facebook』ページ)
https://www.facebook.com/events/1466943286875223/ [リンク]
乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。
ウェブサイト: https://note.com/parsleymood
TwitterID: ryofujii_gn
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。