“集団的自衛権”について学べる恋愛小説
安倍晋三首相のもと、与党間で「集団的自衛権」行使容認についての議論が行われている。日本国憲法改正にもつながる大きな議論であるため、報道メディアや法律の専門家からの注目度も高い。
しかし、私たち国民はこの「集団的自衛権」行使についてどこまで知っているのか。そして、もし判断を仰がれたときどのように考えればいいのだろうか。
『小説で読む憲法改正』(法学書院/刊)は、弁護士の木山泰嗣さんが“憲法改正”をテーマに書いた小説だ。
高校生の「僕」は、好きになったクラスの女子「三上さん」から影響を受けて憲法についての本を読み始める。そして、「憲法改正」について友達や親、先生と議論を交わしていくという、読んで学べる憲法ノベルである。
もちろん「集団的自衛権」について触れられている。法律の専門家から言えば基本的なことなのだろうが、「そもそも」の話から丁寧に説明されているので、ぜひとも紹介したい。
「集団的自衛権」とは何か。それは、「国際連合憲章」(国連憲章)で認められている主権国家の権利の一つである。
「国連憲章」とは国連の基本文書で、国連加盟国の権利や義務を規定している。
第51条に、「この憲章のいかなる規定も・・・個別的又は集団自衛の固有の権利を害するものではない・・・」という文章があり、自分の国だけでなく、密接な関係にある国が他国に攻撃を受けた場合にも、自分の国が責められたとみなして、自衛の権利を行使できるということを明示している。
つまり、国際法上は「集団的自衛権」は日本にも認められているということだ。
次は国内での議論になる。ごぞんじの通り、日本は「軍隊を持たない」国である。それは、日本国の最高法規である日本国憲法によって放棄しているからだ。
そのため、例えばアメリカが北朝鮮から攻撃を受けた場合、日本は何もされていなくても、北朝鮮を攻撃してもいいという解釈が国連憲章上では可能だが、政府解釈としては、日本に対する攻撃ではなく、自国の憲法でそれを禁じているから集団的自衛権の行使はできないということになっている。
ここで疑問に思うはずだ。日本国憲法では、国際法規の遵守が規定されている(第98条第2項)が、「集団的自衛権」行使のケースの場合、日本国憲法と国際法規、どちらが優位であるのか。
これは「政府解釈としては〜」のところで説明した通り、基本的には日本国憲法が優位になっている(もちろん例外もあるが)。
では、なぜ今、「集団的自衛権」の行使容認が議論されているのだろうか?
この小説内では“民自党”という架空の政党と、“原総理”という架空の総理大臣が集団的自衛権行使を容認しようと議論を進めていることになっている。
「僕」に憲法改正の基礎的な知識を教えてくれる社会科の柳田先生は、原総理は集団的自衛権の認める必要性があると考えているが、憲法第9条の条文によってそれが極めて難しいと指摘する。そして、憲法を改正することで自衛隊ではない攻撃的な戦力、つまり国防軍を持つことを目指しているのではないかと考える。
私たちは「憲法の条文」に書かれている言葉の意味をそのままに汲み取ろうとすることが多いが、そうではなく、「憲法の条文をいかに解釈をするか」によってかなり見方が変わってくるということが、物語を通して理解できるはずだ。
だから、さまざまな専門家が、全く異なる意見を言うのも頷ける。メディアでの報道に接する上で、その視点は持っておいて損はないはずだ。
また、『小説で読む憲法改正』には憲法改正というテーマとともに、もう一つ、「僕」と三上さんの恋愛というエンターテインメント的なテーマも包含されているので、そちらも楽しんでほしい。
(新刊JP編集部)
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