アナーコー・パンクの伝説、CRASSのドキュメンタリー映画が公開に

アナーコー・パンクの伝説、CRASSのドキュメンタリー映画が公開に

(c) 2007, Submarinechannel foundation / VPRO

UKのアナーコー・パンク、CRASSのドキュメンタリー映画『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』が5月3日(土)より、新宿〈K’s cinema〉などでレイトショー公開される。

2012年にはジョージ・バーカーによる評伝(必読!)が訳出され、昨年、宇川直宏主宰の〈FREE DOMMUNE〉にて、その中心人物、ペニー・リンボーがまさかの来日を果たすなど、解散から約30年の時を経て、この国では、ふたたびその活動に脚光が当たっている。

CRASSは、ロンドン・パンク・ムーヴメントが大きなうねりとなる1977年、ヒッピー世代のペニー・リンボーとパンク世代のスティーヴ・イグノラントとの出会いによってはじまった。ペニーが仲間たちとともに作ったダイヤルハウスという、詩人やアーティスト、ミュージシャンたちボヘミアンたちが集まる半ばコミューン。そこに出入りしていたスティーヴがクラッシュに感化され、ペニーに持ちかけたのだ。

彼らの活動はすべてDIY精神で貫かれており、CRASS RECORDSを立ち上げ、レコードのリリースはもちろんのこと、時給自足の生活を行い、まさにそのすべてを自らたちの手で行った。しかし、そのメッセージは強烈だ。DIYで、“ピース”と一言で言ってしまえば、日本ではそれこそ世捨て人の典型のようなイメージすらあるが、彼らは、その強烈な皮肉とユーモアを込めたメッセージとともに、反戦、反核、反キリスト教、反物質主義、反動物虐待、反性差別、反環境破壊などをその歌詞で、そのジャケットのコラージュ・アートで、その活動全体で訴えたのだ。

そのアティチュードや活動形態、さらには通称クラス・フォントと呼ばれるステンシル調の文字、コラージュ・アートなどは大きなインパクトを持って、その後のUKをはじめとしたカウンター・カルチャーに大きな影響力を残していると言えるだろう。また彼らのレーベルからは若きビョークもデビューしている。

本作の柱はストイックに3つだ。スティーヴとペニーの2人のインタヴュー(アートなどを手がけたジー・ヴァウチャーや、女性ヴォーカリストもイヴ・リバティーンちょこっと出てくる)、そして彼らのサウンドとともに飛び出してくる、日本語を母語とする自分のような人間にはうれしい訳出歌詞、そして過去から現在の彼らの姿だ。この3つを柱にCRASSという存在を浮かびあがらせていく。謎めいたダイヤルハウスでの生活も描かれている。

映画中の、中産階級からドロップアウトした、いかにもアート・ヒッピー的な初老のペニーと、いかにもイギリスの労働者階級のおじさんとなっている、パブでインタヴューを受けるスティーヴ。双方の現代の姿の対比も、またその存在のおもしろさを示しているかのようでもある。映画中で出てくる、そのロゴ・マークを無断使用したTシャツを着てパパラッチされたデヴィッド・ベッカムへの対応などは、実現しなかったようだが、まさに彼らしいエピソードも語られている。

音楽とアート、そして政治的アティチュードの交点に生まれた巨大なCRASSという黒い点。その存在感を理解する映画だ。

公開予定などは下記、公式サイトで。
(河村)

日本語訳付きトレイラー

映画『CRASS:ゼア・イズ・ノー・オーソリティ・バット・ユアセルフ』日本公式ページ
http://www.curiouscope.jp/CRASS/

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