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「無断引用」という表現はやめよう

「無断引用」という表現はやめよう

今回は、Fumiaki Nishiharaさんのブログ『Colorless Green Ideas』から転載させていただきました。

「無断引用」という表現はやめよう

概要
他人の文章を自分の文章のように扱う研究上の不正は、「剽窃」または「盗用」と呼ぶのが正確であり、不正確で誤解を招く「無断引用」という表現を用いるのはやめるべきである。

「無断引用」という表現はよろしくない

小保方晴子氏が他者の文章を自分の論文に盗用したという事件 [1] があった。この事件の報道において「無断引用」という表現が各所で用いられているが、この表現は正確でなく誤解を招きやすいので、使うのはやめるべきだと思う。「無断引用」の代わりに、「剽窃(ひょうせつ)」か「盗用」と言ってほしいところだ [2] 。

引用という行為は、引用の作法を守っているかぎり、法的にも倫理的にも何ら問題のない行為である。そして、引用は基本的に無断で行われる。わざわざ出典の著者の許可をとらないのである。つまり、無断で行われる引用は全く正常な行為であり、研究上の不正ではない。

研究上の不正になるのは、他人の文章を自分の文章のように扱うことである。このことを「剽窃」と言ったり「盗用」と言ったりする。小保方氏の博論で起きているのは、まさに他人の文章を自分の文章のように扱うことである。これは、「無断引用」と呼ぶべきではなく、「剽窃」か「盗用」と呼ぶべき話である。

マスメディアが科学論文の不正を報道する際に「無断引用」と書いてしまうのは正確ではない。無断で引用する行為自体は正当な行為であって、不正でも何でもない。正確には、「剽窃」か「盗用」と書くべきことなのだ。

引用とは

科学研究において、引用は不可欠といって良いぐらいの行為である。引用は法的 [3] にも倫理的にも問題のない行為であり、不正でも何でもない。引用は推奨されるべき行為であって、非難されるべき行為ではないのだ。

研究に引用は必要

一般人は「自分の意見を書くのだから、自分の意見だけ書けば良いではないか。他人の文章を持ってこないと論文を書けないなんて情けない」と思うかもしれない。だが、現在の研究において他人の文章に触れずに論文を書くことはほぼ不可能であると言ってよい。現在は、どんな研究分野においても、先人が積み上げてきた様々な知見がある。こうした知見を踏まえないで行う研究は独りよがりなものにしかならない。独りよがりになるのを防ぐためには他人の研究内容に触れる必要がある。また、自分の意見の独自性 (originality) を明らかにするには、他の人とどう違うか明らかにしなくてはならない。その際にも他人の研究を見る必要があるのだ。研究を良いものとするには、今まで行われてきた研究上の知見を踏まえなくてはならないのだ。

先人の知見を生かす際に重要な手段となるのが、引用である。今までの研究ではどういうことが言われてきたのかということを明らかにするために、引用を行うのである。

引用の作法

引用を引用として成り立たせるためには、引用の作法を守らなくてはならない。引用の作法には、大まかに言って以下の3点があるだろう。

1. 出典を明らかにすること。
2. 引用部分と自分が書いた部分を明確に区分できるようにする [4] こと。
3. 自分が書いた部分が文章の中で主要な役割を果たし、引用部分はあくまでも文章の中で補助的な役割 [5] を果たすようにすること。

これらの作法が守れないで、他者の文章を持ってくると、それがまるで自分の文章のように見えてしまう。つまり、他人の文章を自分の文章のように扱ってしまっているということである。これは、「剽窃」(plagiarism) という不正行為と見なされるのだ。

もちろん人間のやることだから、うっかりして上記の作法を破ってしまうこともあるだろう。上記の3点のうちどれか1つを故意ではなく、うっかり忘れてしまってもおかしくはない。例えば、後から出典の詳細を書こうと思って、出典の欄を空白にしておいたが、詳細を書くのを忘れたまま論文を提出してしまったといった程度のことなら起こってもおかしくはない。

しかし、いくらうっかりしていたとしても、上記の3点をすべて守れないということはまずありえないだろう。こうなると、うっかりというレベルでなく、故意によるものだということが強く疑われることになる。故意である場合、他人の文章を自分の文章のように扱う不正を犯していることになり、剽窃と呼ばれることになる。小保方氏の博論の場合、上記の3点のいずれもできていない。このようなものは「引用」とは到底呼べない。「無断」という表現をつけたとしても、それは変わらない。

引用に許可は不要

引用には基本的に許可は必要ない。つまり、無断で引用してよい。そして、実際にほとんどの場合、無断で行われている。世の中に出ている論文は「無断引用」だらけなのである。

なお、公表されていないものから引用したい場合は話が別である。公表されていないものからは、必ずしも無断で引用できるわけではない。日本の著作権法でも、引用して利用することができるものを「公表された著作物」に限っている。

「無断引用」と報道する例

以上で見てきたように、そもそも引用は無断で行われる何ら問題のない行為である。それにも関わらず、他人の文章を自分の文章のように扱ってしまっていること(剽窃)を「無断引用」と不正確に報道する例は少なくない。

小保方氏の事件に関しては、インターネット上で見ることができるニュース記事だけでも、以下のような例がある。

・ 日刊スポーツのウェブサイトでは2014年3月1日付の記事として「小保方さんら執筆STAP論文無断引用か*1」という見出しの記事がある。記事の本文では、「無断で引用した疑いがある」とも述べている。

*1:「小保方さんら執筆STAP論文無断引用か」 2014年03月01日 『nikkansports.com』
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20140301-1264180.html

・ テレビ朝日のウェブサイトの「STAP論文 画像加工など確認 理研が調査の現状報告*2」という記事(2014年3月14日付け)では、「他人の論文の無断引用などが確認されました」と述べている。

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