身近にある権利状態不明著作物(5) 公開調査と確定後の情報提供

国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス

この連載ではこれまで4回にわたり、公表から相当年数が経過して消息不明もしくは故人であるが没年がわからないため権利状態が不確定な作品の原著作者に関する情報を探す方法を解説して来ました。今回は最後のまとめとして、どうしても情報が得られなかった場合の公開調査および原著作者の消息もしくは没年が判明した際の情報提供について解説します。

身近にある権利状態不明著作物 – ガジェット通信

(1)  校歌や市町村歌の「権利状態不明」
https://getnews.jp/archives/507560 [リンク]

(2) まずはネットで基礎情報を集める
https://getnews.jp/archives/508255 [リンク]

(3) 文献で手がかりを探す
https://getnews.jp/archives/508883 [リンク]

(4) 人物を特定するポイント
https://getnews.jp/archives/509868 [リンク]

公開調査

ネットでは情報が見つからず、図書館で文献を当たってみたがどうしてもその人物に関する情報の発見に至らなかった──そのような場合は、最終手段として公開調査を行うことになります。

まず最初に、公開調査を行う前提として以下の3条件が満たされている必要があります。

(1) その作品を使用する目的および他の作品では代わりにならない理由が明確であること
(2) その作品の著作権が原著作者(団体の場合を除く)から第三者に譲渡されていない、もしくは譲渡されているがされた側も所在不明であること
(3) 公開調査を行う前に原著作者の消息を確認するための情報収集を行ったがどうしても確定に至らなかったこと

(2)について補足すると、第1回でも説明したように校歌や市町村歌は応募規約で完成後に著作権を募集主体である学校や自治体へ譲渡することになっている場合が多いので、演奏や歌詞の転載に関しては原著作者が消息不明でも実務に支障をきたすことはほとんどありません。
しかし、原著作者が亡くなっている場合は没年が確定しなければ著作権の保護期間も「未確定」となるので、将来の利用者を含めた当事者の利用に資するためにも原著作者の没年に関する情報がオープンであることには重要な意味があります。なお、著作権法第67条における裁定制度は「著作者」でなく「著作“権”者」を対象にしているので原著作者が権利を第三者に譲渡している場合は制度の利用対象になりません。

昔は新聞や雑誌、放送番組で「たずね人」のような形の広告を掲載する方法が主流でしたが、現在の公開調査は主にインターネット上でウェブサイトを通じて行われます。有名かつ最大規模のものは第1回でも紹介した国立国会図書館の『著作者情報公開調査』ですが、公益財団法人著作権情報センター(CRIC)のページにも著作権法第67条における裁定制度の利用前提となる公開調査のお知らせページがあり、企業や団体からの様々な呼びかけが掲載されています。

『著作者情報公開調査』 
https://openinq.dl.ndl.go.jp/‎ [リンク]

CRIC – 権利者を捜しています
http://www.cric.or.jp/c_search/index.cgi‎ [リンク]

没年の情報を発見した際の情報提供

著作者と著作権者が同一人物である場合はご本人またはご遺族から作品の使用について許可を得ることになりますが、著作権が学校や自治体に譲渡されている場合でも今後の利用を円滑にするために原著作者の消息について知り得た情報を提供することをお薦めします。

また、没年に関する情報を周知する方法として国立国会図書館の典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities)への情報提供があります。Web NDL Authoritiesでは人物単位で作者・著者の情報を一元的に管理していますが、中には1970年代後半のデータ作成時点で更新が止まっているものも多く見られます。典拠データには人物単位でIDが割り振られており、世界各国の国立図書館が参加するバーチャル国際典拠ファイル(VIAF)や『Wikipedia』の人物記事への外部リンクも設定されています。

Web NDL Authorities – 国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス
http://id.ndl.go.jp/auth/ndla [リンク]

Web NDL Authoritiesの典拠データに没年が空欄など未更新の部分がある場合は、トップページの右下から行ける「お問い合わせ」のページにあるメール送信フォームでカテゴリ「典拠データの内容に関するお問い合わせ」を選び、人物名とその人物のID(8ケタの数字)および没年の典拠(新聞の訃報や書籍の記述、また関係者に問い合わせて情報が得られた場合はその連絡先)を明記して情報提供しましょう。Web NDL Authoritiesのデータ更新はVIAFに反映され、全世界から著作者の没年に関する情報が参照可能になります。

なぜ、原著作者の没年を確定させる必要があるのか

原著作者の没年が確定していなければ、たとえ著作権が第三者に譲渡されていてもその作品の著作権がいつ消滅してパブリックドメインとなるのか未確定の状態が(法律が改正されなければ)いつまでも続くことになります。あるいは、本当ならばすでにパブリックドメインのはずなのに著作権が存続していると誤認されている作品も存在しているかも知れません。

そうした表には見えにくい著作物の利用拡大を阻害する要因をドラスティックに取り除く方法が確立されていない現状では、遠回りであっても地道に未確定の領域を少しずつ明るくして行く努力が先人の作品を利用する際に求められているのです。

画像:Web NDL Authoritiesのトップページ

※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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