身近にある権利状態不明著作物(2) まずはネットで基礎情報を集める

『はまなび』の横浜市歌紹介ページ

前回は「世の中にある音楽のほとんどは日本音楽著作権協会(JASRAC)のような管理団体の手でしっかり管理されていて、権利状態が不明なものは少ない」という世間のイメージは必ずしも実情を正しく反映しておらず、校歌や市町村歌など身近な音楽で制定から50年以上が経過した作品では作詞・作曲者が現在も生きているのか、あるいは既に亡くなっているらしいが何年に亡くなり、これから何年まで著作権が存続するかわからない事例が多数存在するという問題提起を行いました。

そこで、今回からは「実践編」として権利状態が不明な作品の創作者の没年情報の探し方を解説します。

身近にある権利状態不明著作物(1)  校歌や市町村歌の「権利状態不明」 – ガジェット通信
https://getnews.jp/archives/507560 [リンク]

まずは氏名で検索、次にJASRACのデータベースを当たる

まず最初にすべき基本作業は、サーチエンジンで権利状態がわからない人物の氏名を検索することです。その人物が有名人ならば最上位に『Wikipedia』や自治体が作成する出身地域の偉人を紹介するページがヒットするので、そこ(出来れば複数の情報源)に没年が書かれていれば解決します。記載されている没年が50年以上前ならばその人物が生前に創作した作品は著作権が消滅しており、パブリックドメインとして扱われます。

例えば、1907年(明治40年)に制定された横浜市歌の作詞者は「森林太郎」とされていますが、この名前は明治期に活躍した文豪の森鴎外(1862-1922)の本名であることが明らかになっています。
また、作曲者の南能衛(1881-1952)も作詞者ほど有名ではないにせよ検索すれば1952年(昭和27年)没で既に没後50年以上が経過しているという情報が大量にヒットするので、横浜市歌は作詞・作曲の両方とも著作権が消滅していることがわかります。

ためしにJASRACのデータベースで「横浜市歌」を検索すると、作詞者は「森林太郎 (森鴎外・PD)」、作曲者は「南能衛」と表示され、著作権が消滅したことを表わす灰色の「PD」表示が列挙されます。なお、このデータベースでは森鴎外のように創作者の別名が注記の形で書かれていることは少なく、例えば「作詞用のペンネーム」を別に持っている人物(「秋元康=高井良斉」など)の場合はそれぞれの名義で検索する必要があります。
横浜市歌と同じ方法で1921年(大正10年)に制定された大阪市歌を検索してみると、やはり作詞者の堀沢周安(1869-1941)、作曲者の中田章(1886-1931)とも没後50年以上が経過しており著作権が完全に消滅していることがわかります。

次に1910年(明治43年)制定の名古屋市歌を検索してみると、作曲者の岡野貞一(1878-1941)は「PD」になっており没後50年で間違いなさそうですが、作詞者の「上田万年」は「無信託」の「#」マークになっています。検索エンジンで「名古屋市歌」を調べてみると、横浜市や大阪市と異なり市のサイトには紹介ページがなく(市長記者会見などがヒットする)主に外部のサイトがヒットします。
さらに「上田万年」を調べてみるとこの人物が明治・大正期の国語学者で生没年が「1867-1937」であることがわかるので実際は既に著作権が消滅しており、JASRACのデータベースにはまだその情報が反映されていないことが明らかになります。また、検索エンジンではJASRACのデータベースにある「上田万年」以外に「上田萬年」という表記もヒットしますが、他の人物でも「浜」と「濱」や「沢」と「澤」など旧字体がある場合などは検索条件を変えてみるとヒットする場合があります。

このように、JASRACのデータベースはその規模の大きさもあって無信託の権利者情報に関しては完全に最新の情報を反映しているとは言えない部分があり、もしここで「#」が並んでいてもあきらめずに別の情報源を当たれば著作権の保護期間確定に必要な情報が得られることがあります。

それでも見つからない場合はその人物の他の仕事を手掛かりにする

上記の例では非常に古い時代に作られた歌であるにも関わらず作詞・作曲者の没年が確定していますが、そうでない歌の場合は次のステップへ進む準備を兼ねて同じ作詞・作曲者が創作した別の作品に関する情報を収集してみましょう。

市町村歌の場合は特に、一般公募で歌詞を採用された入選者がその実績を買われて居住地域の学校の校歌を作詞するなどの活動を行っている場合があります。それらの歌が作られた時期がわかればその人物がどの時期まで活動していたかを知る手がかりとなるので、直近の活動状況や没年の確定に必要な情報の絞り込みに役立ちます。

ネットで得られる情報だけでは没年の断定が困難な場合、オフラインで文献を調査することになりますが次回は主にその方法を解説します。

※記事中のJASRACデータベース検索結果は2014年2月4日現在のものです。

画像:横浜市生涯学習ページ「はまなび」| 横浜市歌について
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/gakusyu/sika/ [リンク]

※この記事はガジェ通ウェブライターの「84oca」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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