NHKの強制加入、法的に問題ないの?
契約書にサインをしていなくてもNHKは受信料を請求できる
受信機を設置しているにもかかわらず、放送受信契約を拒否している世帯に対し、NHKが受信料を請求する裁判において、「契約書にサインをしていなくても受信料を請求できる」とした判決が注目を集めています。
第一審の横浜地裁相模原支部(平成25年6月27日)判決では、NHKからの受信契約締結の申し込みを拒絶し契約をしない受信機設備設置者について、「放送受信契約締結に応諾する意思表示を命ずる判決を得ることによって契約が成立し、放送受信契約に基づいて定められた受信料の支払義務を負う」という判断がなされました。
放送法64条1項に定める受信機器設置者の受信契約締結義務について「法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる」という民法414条2項但書を根拠に、「契約を承諾するという意思表示をするという裁判所の判決を経ることで受信契約の成立を認め、放送法64条3項で定める契約に応じた受信料を支払わなければならない」としているのです。
一方、控訴審にあたる東京高等裁判所(平成25年10月30日)判決では、一審判決を取り消し、「NHKが契約の締結を申し込んでから相当程度の期間(長くても2週間)が経過すれば、裁判所の判決を待たずに契約は成立する」という判断が下されました。高裁の判断の詳細は現時点では不明ですが、放送法の規定を根拠に契約の成立を判断しているように思われます。
放送法の規定の合憲性を認める判例も
では、このようにNHKが契約締結を拒否する者に対する受信料の請求を認める判断に問題はないでしょうか。放送法では、NHKは放送法に基づいて設立された特殊法人であり、公共放送機関として「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(中略)を行う(中略)ことを目的とする」(同法15条)とし、公共放送機関を運営するために、同法64条1項は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者(受信者)は、協会とその放送の受信についての契約(受信契約)をしなければならない」と定めています。
このような放送法の規定があること自体が憲法違反ではないか、という点については、東京地判(平成21年7月28日等)において争われました。同裁判例では、放送法32条(現64条)については、原告の放送を受信することのできる受信機を設置した者に対して原告との放送受信契約の締結および放送受信料の支払を強制するものにすぎず、民放のテレビ番組の視聴を妨げたり原告のテレビ番組の視聴を強制するものではないことから、「いかなる番組を視聴し又は視聴しないかに関する意思決定権」(自己決定権)や「民放のテレビ番組を視聴することにより情報を収得する自由」(知る自由)を侵害するものとはいえないとして、憲法13条、21条1項、自由権規約19条1項に違反するものではないと判示しています。同様に、控訴審である東京高判(平成22年6月29日)も放送法の規定の合憲性を認めています。
受信機の設置によりNHKの契約成立を認める上記裁判例については、民間放送と別に、公共放送機関を置き、その存在の重要性を認めている放送法の規定が根拠となっています。いまだ、最高裁の判断が出ておらず、この点の判断は流動的といえます。しかし、上記裁判例の考え方が維持されるのであれば、その是非は公共放送の在り方を巡っての国民的な議論や、放送法に関する国会の議論によって解決すべき問題であるといえるかもしれません。
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