特定秘密保護法案は悪法か?最大の問題点

マスコミ各社や人権団体が反発する特定秘密保護法案

特定秘密保護法案は悪法か?最大の問題点

11月26日、特定秘密保護法案が衆議院で可決されました。現在は参議院で審議を始めたところですが、臨時国会において可決成立する見通しです。これに対して、マスコミ各社や人権団体は「国民の知る権利に対する侵害」などとして、一斉に反発しています。この法案のどこに問題があるのかを考えてみます。

同法案は、防衛、外交、特定有害活動(スパイなど)防止、テロ活動防止の4分野で安全保障上、秘密にすることが必要なものについて、行政機関による「特定秘密の指定」と、特定秘密の取り扱いの業務を行う者に対する「適性評価の実施」、「特定秘密の提供」が可能な場合の規定、「特定秘密の漏えい等に対する罰則」などを定めています。

「スパイ天国」と言われた日本における法案の必要性

これまで、我が国は「スパイ天国」と言われたこともあるほど、諸外国と比べて情報管理が甘いとみられてきました。昨今の中国や朝鮮半島を巡る緊迫した情勢に鑑みると、同盟国であるアメリカとのより緊密な情報共有ができる環境整備は望ましいところで、アメリカが我が国に対する情報提供を躊躇することのないよう法整備を図るということに一定の意義を見出すことはできます。

この法案に対して日弁連は、「行政機関が秘密指定できる情報の範囲を広くかつ曖昧に設定し、かつ、運用の実態は第三者がチェックできない一方で、このような情報にアクセスしようとする国民や国会議員、報道関係者などのアクセスを重罰規定によって牽制するもので、まさに行政機関による情報支配ともいうべき事態である」と批判しています。

しかし、現状は、国家公務員法の守秘義務規定だけで秘密が守れるような状況ではありません。昨今のIT技術の進化によって、公務員の手を介さずとも秘密情報にアクセスして漏えいすることも想定できます。したがって、罰則の対象を国家公務員に限定しないというのも合理性がないとはいえません。また、情報漏えいを防ぐためには、その情報に触れることができる人数を制限し、限定した人数の信頼できる者しか情報に触れられないようにするのが最も効果的です。その意味で、特定秘密の取扱いの業務を行う者に対する「適性評価の実施」というのも評価できるところではあります。

特定秘密への客観的な検証方法がないことが最大の問題点

しかしながら、やはり最大の問題は、特定秘密と指定された情報が、本当に特定秘密に指定されるべきものなのかという点の客観的な検証方法がないことです。アメリカでは、国立公文書館の情報保全監察局が適切な機密指定かどうかを監視し、大統領の承認で任命される局長には監察権や機密の解除請求権が与えられているようですが、本法案にこうした仕組みはありません。

法案で秘密指定の対象とされる4分野については、それぞれ具体的な項目が示されており、本来であれば、それらが秘密指定の足かせになるはずですが、項目自体に「その他~」といった抽象的な表現が多く、幅広い情報を「特定秘密」に指定できる余地を残しています。「国の安全保障に著しい支障を与える恐れ」という制約も、「国の安全保障」というだけでは解釈の幅が広く恣意的な指定を防ぐには不十分です。

行政機関に不利益な情報を国民の目から遠ざけることも

加えて、どの情報を特定秘密とするかを、大臣などの「行政機関の長」に委任しているので、政府のさじ加減で処罰の対象になる情報が決まることになります。つまり、行政機関に不利益な情報を特定秘密に指定して国民の目から遠ざけることが可能になるということです。民主国家の刑罰法規には「罪刑法定主義」の原則があります。ある行為を犯罪として処罰するためには、立法府が制定する法令において、犯罪とされる行為と、それに対して科される刑罰を予め明確に規定しておかなければなりません。しかし、この法案では、処罰の対象となる特定秘密は、立法府ではなく「行政府の長」が決めるということなので、罪刑法定主義の上からも「問題なし」とは言えません。

このように、秘密保護法制の必要性は認められますが、この法案の内容にはかなりの問題があります。さらに国民全体が納得できる制度にするために議論を尽くすべきというのが、大方の識者の考えではないでしょうか。

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