私に殺られる……注目の新感覚ホラー映画『アルカナ』山口義高監督インタビュー

人間の分身が本体の心臓を奪い、乗っ取ってしまうという怪事件に立ち向かう人々の運命を描く映画『アルカナ』。コミックを原作に、三池崇史監督の助監督を務め、“三池イズム“を受け継いだ、山口義高監督がメガホンを取った話題作が現在好評上映中です。

主演を務めるのは、ドラマ・映画『鈴木先生』で注目を集めた土屋太鳳(つちやたお)。舞台を中心に活躍する中河内雅貴などフレッシュな俳優陣の好演もあり、ホラーファンのみならず多くの人が楽しめる物語となっている。

今回は、山口監督にインタビューを慣行。本作にかける想いや、三池組の現場で感じたことなど色々とお話を伺いました。

――今回の『アルカナ』という作品で、特に難しいと考えた部分はどこですか?

山口監督:一番苦労したのはラブコメという点ですね。確かに面白いし、深夜のドラマとかでやるのはピッタリだなと思ったんですが、映画でやるのは難しいな、と。ドッペルゲンガーというテーマはこれまでもホラー映画でやられているし、そこでどう違いを見せればいいのかと。

「分身が存在している」という部分が、この小手川先生の作品でオリジナリティがある所だと思うんですけど、それが“あり得る世界”ってどんな世界かな? という所が脚本家と頭を悩ませた部分ですね。インド映画の『ロボット』みたいに分身がババババっと登場する案も考えたんですけど、プロデューサーに怒られました(笑)。

――それはそれで見てみたかったです(笑)。完成した作品では、本当に「分身」という存在が実在するかの様な独特な世界観でしたね。

山口監督:結局、警察署内に心霊現象を扱う部署があるという設定を原作からふくらまして「分身を見た事がある人がこの世にいる」という話にしたんですね。そうすれば、土屋さんが演じた「マキ」という少女が実際に抱えている悩みが描けると思ったし。人は誰にも言えない秘密を持っているという、普遍的なテーマを入れられるかなと。

なので、色々な殺人事件が起きているとか怖い事件が起きている、というシーンはちょっと強引にでも前半に詰め込んで見せて、マキと中河内さん演じる村上の2人の物語に持っていきたかったんですね。

――確かにスピーディでテンポも良いラストでした。

山口監督:尺だけは自信があります。89分っていいなーって。“自信尺”です(笑)。物語はもちろん、音楽や映像を体感するというのも映画の一つなので、尺は意識しましたね。外国の方が字幕無しで観た場合でも、映画を感覚で理解出来るだろうという映像にはこだわりました。

――ホラー作品には美女が欠かせません! 土屋さんのホラーヒロインもミステリアスで素晴らしかったです。

山口監督:「鈴木先生」を観た時に「目がいいな」と思ったんですよ。目が魅力的だなと思ったので、原作ではショートヘアのキャラクターだったんですが、ロングヘアで常に片目が隠れているという絵作りにしました。

後は、彼女の持っている良さとか本能で演じている部分は邪魔しない様に、分からない部分は指導しますけど、そんなに細かくは言って無いですね。土屋さんは普段は天然で面白い子なんですけどね。映画の中では神秘的な雰囲気が出ていて、それが人間じゃないという事の信憑性にもなるし。

――監督のことについてもお伺いしたいのですが、子供の頃や学生時代から映画業界に携わりたいと思っていたのでしょうか?

山口監督:中学・高校の時はロックが好きで、映画にはそこまで興味があったわけでは無いのですが、マーティン・スコセッシやコッポラがバリバリ映画を撮っていた時期で、ロックに関係する映画もたくさん作っていたので、この人達の他の作品を観てみようと思って、どんどん観ていって。それで大学入って映画を観始めたんです。だから、大学入るまでは黒澤明とかも知らなかったんです。

――なるほど、そして三池監督の助監督となるわけですが。

山口監督:『オーディション』が公開されていた頃に、三池さんの現場を一度見ていたいなと思って。血がめちゃくちゃ流れているセットとか特殊メイクとか、怖いもの見たさで。本人の顔も怖いし(笑)。でも実際はものすごく明るくて想像していた現場とは違いましたね。映画という大きなおもちゃを手にした少年の様にピュアな方で、楽しんで作っていて。その時になんとなく、自分の居場所があるなって感じたんですね。そこから何作か作品をご一緒させていただいていて。

――もともとホラー作品がすごく好き、というわけでは無いというわけですね。作品作りに影響を受けた物や人物はいますか?

山口監督:ホラー映画が特に好き、というわけでは無かったですね。作品のテイストでいうと、アルモドバル監督が作る様なドラマが好きです。ただ、文学や音楽でも狂気を感じる物が好きで、知らず知らずのうちにホラーに近いものを選んでいたのはあるかもしれませんね。絵で言えばフランシス・ベーコンの狂気とか。この『アルカナ』でも霊をデジタルで作ってもらうにいたってベーコンの絵を参考してもらったり。

――『アルカナ』も“ど・ホラー”というよりも、人間ドラマを楽しめる作品でしたものね。

山口監督:そうですね、もともと痛みとか人間の内面を描くのが好きです。『アルカナ』はここで泣いてください!とか笑ってくださいという分かりやすい映画ではないかもしれないけど、観る人によって何か発見がある作品だと思っているので、何かを見つめ直すきっかけにして欲しいです。

――どうもありがとうございました。

『アルカナ』ストーリー

謎の連続殺人事件を追う刑事・村上は、事件現場で記憶を失った少女マキと出会う。死者の苦しむ声が聞こえるというマキは、その声に導かれてきたという。やがて、事件はマキから分裂して生まれた、もうひとりのマキが引き起こしているということがわかる。村上やマキは、分裂したもうひとりのマキを追うが……。

http://arcana-movie.com

出演:土屋太鳳 中河内 雅貴
Kaito 植原卓也 谷口一 谷口賢志 野口雅弘 蜷川みほ 山口祥行  谷村美月/岸谷五朗
主題歌:RAM WIRE 「むつのはな」(Sony Music Associated Records Inc.)
原作:小手川 ゆあ『アルカナ』(角川書店)
監督:山口義高
配給:日活
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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