ストーカーから命を守るために。警察対応を踏まえた自己防衛策
ストーカー殺人のたびに槍玉にあげられる警察
10月8日、東京都三鷹市で再び悲劇が起きました。ストーカーによる殺人事件です。逮捕された男は、被害女性の元交際相手。男は、被害女性の自宅に忍び込んで、クローゼットで待ち伏せし、帰宅した被害女性をナイフで刺して殺害したと報道されています。ストーカーによる凄惨な事件が報じられる度に、「警察の対応に問題はなかったのか?」ということがクローズアップされ、警察が槍玉にあげられています。
ただ、たとえ警察の対応に改善すべき点があるとしても、まず、警察が具体的にどのような対応をしているのかを把握した上で、とるべき行動をしっかりと考察しておく必要があると思います。
実は改善されている警察のストーカー対応
現在、警察にストーカー被害の相談に行くと、「相談に来られたあなたへ」「ストーカー対策の流れ・DV(配偶者からの暴力)対策の流れ」と題する二つの説明文書に基づいて、被害者がどのような選択肢をとることができるのか、警察が説明してくれます。
そして、その説明を聞いた上で、警察に対して求める対応について、「ストーカー・DV等への対応について」と題する被害者の意思確認用の書面に、被害者自ら記入するようになっています。
被害者がとりうる選択肢としては、主に次の4つです。
①刑事手続きをとってほしい。 ②行政手続きをとってほしい。 ③注意、口頭警告等してもらいたい。 ④現時点では決心できない。※●(週・月)後を目処に確認してほしい。
上記の選択肢のほか、被害防止に資する物品(防犯カメラ、防犯ブザー等)の貸し出しや、ストーカーに住民基本台帳を閲覧されないようにするための支援など、各種援助を申し出ることも可能です。
警察がこのような相談の対応をとることとなったのは昨年8月から。当初は、5つの都府県警(警視庁、大阪府警、愛知県警、兵庫県警、福岡県警)のみでの試行でした。約半年間の試行を経て、警察庁は今年2月、この対応を全国に拡大することを通達し、現在に至ります。
ケーススタディ形式で考える段階別ストーカー対策
では、このような警察の対応を前提として、ストーカー被害に遭った場合は、どのような手順で、どのように行動すればよいのでしょうか?
もちろん、現実に起こる問題は全てケースバイケースであり、絶対の正解があるわけではありません。ただ、それでは参考にならないので、一般的な事例を挙げてケーススタディ形式で考察してみたいと思います。
【ケース】 1か月ほど前、1年間交際していた彼氏に「別れたい」と言ったところ、一旦納得してくれたのですが、少し経ってから、「やり直そう」「あの時の気持ちを思い出して」などと頻繁にメールや電話をしてくるようになりました。怖くなって、着信拒否することにしましたが、メールは今でも毎日届きます。このまま放っておいて大丈夫でしょうか。
【第1段階】 ストーカーは、「自分がストーカーをしている」という認識がないことがほとんどです。恋愛関係の延長として当たり前のものと捉えている場合もありますし、愛情表現として正しいものと捉えている場合もあります。いずれにしても、「相手が本当に心の底から嫌がっている」という事実に気付いていない(気付こうとしない)場合が多いです。このケースでも、今の段階ではおそらくそうでしょう。
そのため、第一に行うべきこととしては、「連絡されるのも本当に嫌なので、もう連絡しないでほしい」ということを冷静かつ明確に伝えておくこと。伝える手段としては、メールなどのデータで残る形で伝えることをお勧めします。その上で、ストーカーの次の行動を見極めます。
この段階で警察に相談しておき、支援を申し出ておくのがよいでしょう(警察からストーカーへのアプローチはもう少し後です)。ちゃんと伝えられるか不安がある場合には、弁護士に同行してもらうのがよいと思います。
【第2段階】 被害者が「本当に心の底から嫌がっている」ということを冷静かつ明確に伝えても、なおストーカーが接触をしてくる場合、ストーカーが理性を失いつつある状態にあり、非常に危険な状態であることをしっかりと認識する必要があります。ストーカーが元恋人であることから多少なりとも情が残っているとは思いますが、この段階では、その情をきっぱりと断ち切らなければなりません。
「返信をしろ」とか「責任をとれ」などと口調が荒くなってきたり、連絡の頻度が多くなってきたり、徐々にエスカレートする傾向が見えたら、警察に動いてもらうこと(口頭警告、書面警告など)を具体的に検討する必要性が生じてきます。
【第3段階】 警察に動いてもらうとしても、警察がストーカーにアプローチすることでストーカーが逆上するリスクがありますので、そのリスクを念頭に、慎重に準備をしておかなければなりません。
警察がストーカーにアプローチするタイミングで、ストーカーに知られていない場所(「DVシェルター」などを利用できるのであれば利用する)へ避難しておくことをお勧めします。可能であれば、さらに1か月ほど身を隠すことが望ましいでしょう。
実際、警察から警告を受けたストーカーは、約8~9割、ストーキング行為を止めるか、控えるようになるといわれています。自分のケースが該当するのか、それとも、殺人事件に発展し得るような危険なケースに該当するのか、警察がアプローチした段階で再び見極めなくてはなりません。
平成25年3月14日に警察庁が発表した統計によると、平成24年に警察から書面警告が出された件数は2,284件。その警告を受けても、なおストーキング行為を続けたとして公安委員会から禁止命令が出された件数は69件。さらに禁止命令に違反して検挙された件数はわずか11件になっています。
もっとも、警告→禁止命令→禁止命令違反という流れをとらずに、ストーカー規制法違反で検挙されている件数は340件に上りますし、それとは別に、殺人未遂事件や殺人事件に発展する例が実際にありますので、決して楽観視はできないことを肝に銘じておきましょう。
【第4段階】 自分のケースが、殺人事件に発展し得るような本当に危険なケースに該当すると考えられる場合には、たとえ現在の生活を犠牲にしてしまうとしても、半永久的に身を隠すことを本格的に考えなければならないでしょう。
今後、さらなる法律改正や警察対応の改善が検討されるべき
被害者側にそのような負担を強いるのはとても理不尽なことのようにも思えます。 しかし、思い詰めたストーカーの脅威から逃れることが、それほどまでに困難であるという差し迫った現実も直視する必要があります。
今後、法律改正(ストーカー規制法の厳罰化や書面警告を出した後のプロセスの改善など)や、警察対応の改善(被害者の行動領域のパトロール強化や警告後のストーカーへの監視など)も当然さらに検討されるべきでしょう。
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