土下座強要で逮捕!罪に問われるクレームの境界線は?
「要求の正当性」と「手段の相当性」で考えるクレームの境界線
「クレーム」の語源は、英語の「claim」です。元々は「当然のこととして要求する」や「自信を持って主張する」の意味であり、権利性や正当性を帯びる言葉です。本来は、顧客として被った損害などを主張して、正当な補償を求めることが「クレーム」であって、ネガティブな意味合いはありません。
ところが、わが国では、「度が過ぎたクレーム」をつける顧客を「クレーマー」と呼んで警戒しています。たとえ「お客様は神様」であっても、「無理難題」を吹っ掛ける顧客は「神様の座」から転落してしまうのです。ヘタをすると罪に問われる可能性すらある。クレームの境界線がどこにあるかは、「要求の正当性」と「手段の相当性」の二つの面から考える必要があります。
土下座を求めることは「不当な要求」
まず、顧客としての要求が正当かどうかが問題となります。不良品を良品と交換するよう求めるのは原則として正当な要求でしょう。店や店員に責任を問える問題(たとえば商品管理や顧客対応のミスなど)があった場合には、謝罪を求めることも許されます。
しかし、新しい良品と交換させたり、新たにサービスを受け直したりした上、さらに代金全額の返還を求めたり、あるいは高額のペナルティの支払いを求めたりすることは「行き過ぎ」でしょう。また、「土下座」して謝罪するよう求めることは、謝罪としての「常識的な枠」を逸脱します。要するに、これらは「不当な要求」にあたるのです。
脅迫や暴行で「不当な要求」を通そうとすると強要罪などの対象に
ただし、「不当な要求」を行っただけで、罪に問われるわけではありません。そこで問題となるのが「手段の相当性」です。「要求に応じなければネットに書き込む」「痛い目にあわせる」「会社にいられなくする」「街宣車で乗りつける」など、店員を怖がらせるような脅迫をしたり、あるいは実際に店員に暴行を加えたりして、「不当な要求」を通そうとした場合に、罪に問われることになります。
北海道警札幌東署の事件では、顧客が店員らを脅迫して土下座をさせたことや、自宅まで謝罪に来るよう念書を書かせたことから、強要罪の容疑で逮捕されました。
また、店に対する関係では、威力業務妨害罪の成立も考えられます。さらに、この容疑者は「土下座写真」を撮ってツイッターへ投稿し、その際に「デブ」などと店員を中傷するコメントまで掲載していますから、名誉毀損罪の成立もあり得ます。クレームは、あくまで正当な要求を相当な手段によって行わないといけません。
ドラマ「半沢直樹」で脚光を浴びた「土下座」ですが、立場の優位性を悪用して安易に他人に要求したりすると、「倍返し」どころの騒ぎではない大きな「しっぺ返し」を受ける羽目になることをお忘れなく。
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