教室の中で、貧困が見えない時代。

教室の中で、貧困が見えない時代。

今回はイシゲスズコさんのブログ『スズコ、考える。』からご寄稿いただきました。

教室の中で、貧困が見えない時代。

きっかけは、私が役員をしている学童保育の指導員さんとの世間話の中でした。

その指導員さんは小学校の先生をリタイアして指導員をされているおばあちゃん先生で、最近のこどもたちの傾向について話している中で「最近の子はちょっとしたものをあげても喜ばないのよね」とこぼしておられました。

うちの学童保育では誕生会やクリスマス会など月1回くらいのペースでお楽しみ会を催してくれていて、そのときにこどもたちに鉛筆などの文房具や小さなおかしが景品としてもらえるゲームがあったりします。そのときに、最近のこどもたちはその景品としてもらったモノを大事にせずにそのへんに放ったらかして遊んで、下手したら忘れて帰ってしまう。昔の子は大事に大事に持って帰っていたのに、と。

なんでなんでしょうね、と先生がおっしゃるので、そこからいろいろと考えました。

私が思いついたことのひとつは、小さな弟妹がいる子が少ないことです。我が家には4人の小さい子がいるので、暗黙のルールとして「自分のものを公共のスペースに放置しない」というのがあります。これを守らず私物を床や食卓に放置すると弟妹により破壊される、という悲しい結果が起こったりするので兄ちゃんたちにとっては死活問題。当然、壊された場合も「置いといたお前が悪い」です。

そんな我が家で育った長男はひとりっこのお友達の家で驚愕したそうです。

やりかけの宿題を食卓にそのまま広げて席を立つ、飲みかけのジュースのコップを置いたまま遊ぶ、カードゲームを床に広げたまま違う遊びをする。

どれも、彼にとってはうちでは絶対に出来ないことで「いいなぁ」と正直に思ったそうで。

当然、そういう家のお子さんはうちに来たら私物をあちこちに放置しますので「~~くんが触って壊すからカバンにしまって~」とおばちゃんが声をかけることになります。

学童の教室でも、同じことが起こっているのかなと。それがまず一つ。

そしてもう一つは、当たり前にモノが得られる時代なのかな、と。

私の両親の小さい頃(昭和30年代、トトロのさつきちゃんたちが暮らしていたのと同じくらいの年代と思われる)には「無いものは無い」だったそうで。

そして私の小さい頃(昭和から平成にかわるころ)には「景気がよかったからある程度の子がなんとなっていた」のかなと。

そしていまは「無いものが無い」時代なのかなと。

わかりやすいのがランドセルかなと思います。

母の時代はランドセルを買える家は少なく、お下がりやざつのう(カンタが持ってたと思う)は当たり前。

私の時代は、ランドセルはかなりの率で新品を購入してもらってましたが、お下がりを使ってる子も何人かいたのを覚えています。

そしていま。10万円を超える高級品も販売される中、私が数分検索したところで見つけた新品のランドセル最安値は3980円でした。もうなにがなんだかな値段です。貧困層でも、買おうと思えば新品のランドセルを持たせ、新品のスーツを来て入学式に出ることができなくもない、そんな状況。

百均に行けば「え?これが100円で売ってるの?」っていう商品が並びます。

文房具屋さんで名入れをしてもらった鉛筆はメーカーものだと1ダース1000円弱くらいかな、百均に行けば1ダース100円で買えちゃいます。もっと安いのも多分探せばあるはず。

親としては、こどもがみんなと同じものを持たないという劣等感を持つことは避けたいと思うことは自然な感情だと思う。実際、私もけっして裕福ではない生活だけどこどもたちの周りのお友達が持っているもの、やっている遊び、着ているもの、こどもたちが引け目を感じなくて済むようにしてやりたいとつい思います。

同じようなものを持たせてやりたくて、なるべく安いものを探して持たせることも。

そうか、これが、「無いものは無い」ではなくなっていった背景なんだな、と。

買おうと思えば買える。似たようなものを持たせようと思えばなんとかなる。

いじめられる対象にはなってほしくない、引け目を感じてほしくない、その親としては自然にわく感情が、デフレを追い風にそういう方向へこどもたちの環境を導いていったのかなと。

授業参観に行ったときに靴箱に並ぶスニーカー。数千円のものから通販で買える数百円のものまで。一見してその違いは見えません。メーカーをよく見たらわかるかな、くらい。

洋服も、ブランドものの数千円のTシャツを着ている子もいれば西松屋メイドの子も。それも、知ってる人にはよく見ればわかるけどパッと見で貧富の差はわかりません。

お兄ちゃんのお下がりのボロボロのズックを大事に大事に履いてる子なんかもういない。何度も洗ったヨレヨレのシャツを着てる子も、穴のあいた靴下を大事に伏せて何度も履いてくる子も。

そういう環境が、こどもたちにとってモノが当たり前に周囲にあり気楽に得られるという状況を作ってしまったのかな、それが、些細な景品を喜ばない子たちが育ってしまった要因なのかな、と指導員さんとお話しました。

このこどもたちの傾向が、ただ「最近のこは…」と悪く見て矯正すべきことなのかは

今の段階ではわからないです。全国的な傾向なのか、地域性があるのかもわからないし。

ただ、こどもたちと接する上でこういう傾向があるのだということは念頭においておこう、と思ったのでした。

執筆: この記事はイシゲスズコさんのブログ『スズコ、考える。』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2010年10月09日時点のものです。

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