【パリの最新インテリア】雲みたいな照明、刺繍クッション…「無難な部屋」の真逆! “ひとつ足すだけ”で自分らしくなるヒント パリ在住デザイナーが現地レポート
世界中のインテリアやデザインのプロが、次に来る色、素材、暮らし方を探しに集まる秋のパリ。なかでも「MAISON&OBJET Paris(メゾン・エ・オブジェ・パリ)」は、家具や照明、雑貨、空間づくりの新作が一堂に会する世界有数の見本市です。同時期に市内で開かれる「Paris Design Week(パリ・デザイン・ウィーク)」では、街全体がデザインの舞台に。少し遠い話に聞こえるかもしれませんが、そこには日本の住まいを心地よく、自分らしくするヒントが詰まっています。パリ在住の空間デザイナーが、現地で見つけた秋の潮流を暮らしの目線でお届けします。
今年のキーワードは「立ち止まらず、動く」
9月のパリでは、世界中のインテリア関係者が集まる「MAISON&OBJET Paris(メゾン・エ・オブジェ・パリ)」と、街全体を歩きながらデザインに触れられる「Paris Design Week(パリ・デザイン・ウィーク)」が開かれます。前者は家具や照明、雑貨などの新作が集まる巨大な見本市。後者は、ギャラリーやアトリエ、美術館などを巡りながら、デザインの考え方や空気を体験できる街歩き型のイベントです。
2026年9月に開催された秋の「MAISON&OBJET Paris」のテーマは「Pulse in Motion(パルス・イン・モーション)」。直訳すると少しわかりにくいのですが、ここでは「心が動くものを、誰かと一緒につくっていこう」というメッセージとして受け取ると、ぐっと読みやすくなります。
会場で目立っていたのは、完璧に整った美しさよりも、手の跡、素材のゆらぎ、色の強さ、そして人の気配。つまり「正解っぽい部屋」ではなく、「その人らしさがにじむ空間」への関心です。
たとえば、少し歪んだ器、木目が強く出たテーブル、旅先で買った小さなオブジェ。そうした“きれいにそろいすぎていないもの”が、空間に温度を与える。今回のトレンドは、そんな方向に向かっているように感じました。
展示会場では手描きのお皿や刺繍のクッション、手編みのシェードや有機的な形状のオブシェなどが多く見られました(撮影/坂田夏水)
専門家でなくても面白い、3つの注目ブース
ここからは、会場で特に印象に残った3つのブースを紹介します。難しいコンセプト名はいったん横に置いて、「家で真似できるヒントは何か」という視点で見ていきます。
ブース1:素材が生きる「In Materia(イン・マテリア)」
In Materia : Matières vivantes by Elizabeth Leriche
ひとつ目のブース「In Materia(イン・マテリア)」は、素材そのものの魅力を見せる展示でした。金属を叩いた跡、木の節や木目、陶器のひびや歪み。整いすぎていないからこそ、そこに人の手や時間が感じられます。
最近の住まいでは、すっきりした量産品で整える心地よさもあります。一方で、手仕事の器や古い木の家具がひとつ入るだけで、部屋に表情が生まれることもあります。このブースが伝えていたのは、「不完全さは欠点ではなく、空間を豊かにする個性になる」ということでした。
取り入れるなら、大きく変える必要はありません。まずは、手触りのある花器、素朴な木のトレー、作家ものの小皿など、小さなものをひとつ置くだけでも十分。部屋の印象が少しやわらかくなります。
土のアートパネル、紙製の雲のような照明と手削りの石のテーブル、竹細工のランプシェード、木と草と石の素材そのままの色でコーディネートされた空間など、材質の持つ美しさを引き出すデザインが注目されていました(撮影/坂田夏水)
ブース2:新しい買い物体験を提案「What’s New? In Retail」
(撮影/坂田夏水)
ふたつ目は、小売店向けのトレンドブース「What’s New? In Retail」。ここで面白かったのは、単に「何を売るか」ではなく、「どんな体験として見せるか」に重きが置かれていたことです。ブースの中にはドライハーブが敷き詰められ、香りや風、色の変化まで含めて、買い物というより、小さな散歩をするような空間になっていました。
これは住まいにも応用できます。棚にものを並べるとき、色や素材をそろえるだけでなく、「ここに置くとどんな気分になるか」「手に取ったときにどんな記憶がよみがえるか」まで考えると、見せ方が変わります。
(撮影/坂田夏水)
「What’s New? In Retail」の展示では、ポーリーヌ・グレイザルが商品を単なるジャンルではなく、気分や世界観で分類する8つのスタイルを提案していました。印象的だったのは、そのスタイル名です。
北欧、ジャパンディ、ナチュラルといった見慣れた分類ではなく、「収集品」「高揚感」「意匠」「過激さ」「空想的」など、気分や世界観で空間を分けているように見えました。
CABANON(カバノン/小屋・隠れ家)
COLLECTIBLE(コレクティブル/収集品)
ECSTASY(エクスタシー/無我夢中)
DESIGN(デザイン/意匠)
RADICAL(ラディカル/過激さ)
ROMANTIQUE(ロマンチック/空想的)
FEMININ SACRÉ(フェミナン・サクレ/神聖な女性)
NÉO 50’s(ネオ・フィフティーズ/新1950年代)
こうした分類を見ると、「インテリアは正しいテイストを選ぶもの」ではなく、「自分の好きな気分を組み合わせてよいもの」だと感じます。お店づくりだけでなく、家の棚やお気に入りの一角をつくるときにも参考になりそうです。
ブース3:既成概念を超える「Feel the Shift」
(撮影/坂田夏水)
3つ目は、今回の「MAISON&OBJET Paris」と「Paris Design Week」のアンバサダーを務めたデザインスタジオ「MASQUESPACIO(マスケスパシオ)」です。スペイン・バレンシアを拠点に、鮮やかな色づかいや大胆な素材づかいで知られるスタジオで、会場でもその世界観が強く打ち出されていました。
鮮やかな色、丸みのある形、大胆な素材づかい。写真を見ただけでも、「いつもの部屋」とはまったく違う場所に連れて行かれるような強さがあります(撮影/坂田夏水)
彼らが大切にしていたのは、流行を追うことよりも、その人にとって本当に心地よい色や素材を選ぶこと。木の不完全さ、大理石の個性、強い色づかい。どれも「無難に整える」だけでは生まれない、記憶に残る空間をつくるための要素です。
もちろん、彼らのような大胆な空間をそのまま真似するのは難しいかもしれません。でも、クッションを1色だけ強い色にしてみる、いつも選ばない形の照明を置いてみる、アートを1枚飾ってみる。そんな小さな一歩でも、部屋は少し“自分らしく”なります。
苔色のペイントやカーテンなど、彩り豊かなインテリアで仕立てた空間。そして、ボルドーの壁面やファブリックに合わせた大きなランプシェードは、今年の秋のトレンドです(撮影/坂田夏水)
ここまで見ると、2026年秋のパリで語られていたのは、単なる流行色や新作家具の話ではありませんでした。人の手が感じられるもの、物語のあるもの、自分の気分を少し前向きにしてくれるもの。そんな要素を、暮らしにどう取り入れるかが大きなテーマだったように思います。
続いて、もう一つの舞台である「Paris Design Week」へ。こちらは巨大な会場に行くというより、パリの街を歩きながらデザインに出合うイベントです。
もう一つの舞台、「Paris Design Week」へ
「Paris Design Week」より
「MAISON&OBJET Paris」が「プロが新作や取引先を探す場所」だとすれば、Paris Design Weekは「街を歩きながら感性を広げる場所」。ギャラリーやショップ、美術館、アトリエなどが会場になり、展示を見たあとにカフェに寄ったり、散歩しながら次の会場へ向かったりできるのも魅力です。
パリの中心部の4つのゾーン+ファクトリーなので合わせて5つのゾーンで開催しています。
美術館や歴史的建造物、アーティストのアトリエや工場、有名なギャラリー、さらにはデザイナーの個人邸で開催されていることも! かなり多岐にわたりパリ市内至る所で開催されているので、全てを見て回るのはかなり時間がかかります。「Paris Design Week」では興味のあるアーティストやブランドを絞って見に行くのがおすすめです。
「Paris Design Week」より
私は今年、マレ地区の展示を見ながら、若手アーティストの作品が集まる「FACTORY(ファクトリー)」の会場を巡りました。
「FACTORY」は、若手アーティストやインスタレーション作品などを紹介する展示エリア。大きなギャラリーを使い、小さなブースごとに作品が並んでいます。会場では作家本人に話を聞けることもあり、作品の背景まで知ることができます。
Paris Design Week Maison & Objet
「MAISON&OBJET Paris」との大きな違いは、展示物の全てが商品ではないというところ。
「これ素敵だけどおいくら?」と聞くと「これは売り物じゃないんだ、ただ皆の反応を見たいだけ」。そんなアーティストもいます。「Paris Design Week」に出展したということが実績になりますし、有名なアーティストが名前を隠して新作の反応を見るために出すということもあるみたい。
大人はもちろん、子どもたちも「これは僕の絵に似ている」とか、「私も今度の彫刻の授業でつくってみようかな」といったふうに、それぞれに楽しめます。「Paris Design Week」を見て回っている途中で素敵なカフェでおやつを食べたり、ショッピングをしたり、パリの素敵な街並みをぶらぶらおしゃべりも楽しみながらお散歩できるのもよいところです。
大型展示会の未来はどこへ?
(画像提供/坂田夏水)
最近は、「『MAISON&OBJET』はパリの郊外だし、RER(パリ中心部と郊外を結ぶ高速郊外鉄道)に乗りたくないわ」というパリのマダム達もいたりして、「Paris Design Week」に移行する出展者も多くなってきているとか。
そんな感じだから、「MAISON&OBJET Paris」は年々縮小してしまうのでしょうね……。日本のインテリアの展示会でも同じ現象が起きているようです。
大型展示会の未来はどうなるのでしょう? 何日間かのためにブースをつくっては壊していくやり方は、これからの時代に合わない気もします。私は効率が悪くても街中を巡る方が好きですよ。
パリのデザインイベントというと、少し遠い世界に感じるかもしれません。でも、今回見えてきたのは「暮らしを少し楽しくするためのヒント」でした。完璧に整えるより、自分が好きだと思えるものをひとつ足す。そんな小さな変化から、住まいはもっと面白くなるのだと思います。
気になる展示やアイデアがあれば、まずは写真を見返して「自分の部屋ならどこに取り入れられるか」を考えてみるのもおすすめです。
●関連サイト
MAISON&OBJET
Paris Design Week
※2026年9月の「MAISON&OBJET」で実施したオンラインライブは、坂田夏水さんのInstagramで視聴できます。
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