【空き家再生して住む】祖父母の家を20代が住みながらDIY、絶景古民家を148万円で購入…etc. 予算をおさえて理想の家を育てるという選択肢 書籍『空き家で暮らす』インタビュー

【空き家再生して住む】祖父母の家を20代が住みながらDIY、絶景古民家を148万円で購入…etc. 予算をおさえて理想の家を育てるという選択肢 書籍『空き家で暮らす』インタビュー

昨今、新築価格や建材費が高騰し「家を買うか、借り続けるか」という従来の二択に、多くの人が行き詰まりを感じています。一方、全国的な「空き家問題」もまた深刻な課題。こうした2つの悩みの解決の糸口になり得る新たな選択肢として「あえて空き家を購入し、直して住む」というスタイルがひそかに注目されています。『空き家で暮らす』(技術評論社)の著者であり、これまで数々の住まいやインテリアを取材してきたライター・編集者の石川理恵(いしかわ・りえ)さんと加藤郷子(かとう・きょうこ)さんのお二人から、空き家を活用して素敵に暮らしている人たちのリアルな姿について伺いました。

「空き家をどうすればいいのか」という課題にぶつかった

空き家を取り巻く問題は深刻です。2023年時点で、全国の空き家数は約900万戸と過去最多になりました(総務省「令和5年住宅・土地統計調査」より)。2018年から約51万戸の増加、空き家率も13.8%と、こちらも過去最高の数値です。2038年には総家屋の3軒に1軒が空き家になると予想されており、もはや誰にとっても他人事ではなく、早急な対策が迫られています。

皆さんの身近にも、空き家の問題がありませんか。特に、親が亡くなり実家を受け継ぐ人がいないケースや、売却・活用の方法が見つからないまま放置されてしまっているケースがたくさん見られます。石川さんと加藤さんも、「同じような悩みを抱えている」と話します。「空き家を活用している人たちのことを本にしたい」と思い至った背景には、同じように空き家に悩む人々への強い共感がありました。

「身内で空き家問題があったんです。最初はリフォームをして人に貸せばいいかな、と簡単に考えていたんですけど、調べ進めていくうちにそんなに単純なことではないと知りました」と石川さんは話します。

古森久美子さんのお宅

『空き家で暮らす』の中で紹介されている古森久美子さんのお宅。50代になったタイミングで東京から埼玉に移住し、空き家を購入して暮らしている(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

石川さんが空き家を人に貸すべく試行錯誤し始めたときにぶつかった壁のひとつは、耐震対策でした。築年数が古い家は、現在の法律に沿った耐震対策が必要です。しかし、そのためには耐震診断を実施する必要がある上に、耐震工事の時間と費用もかかります。

「“思ったより簡単に進まないんだな、空き家を貸すって”、と実感しました。こうした経験をした時に、全国の空き家問題は個別の事情をたくさん抱えているだろうなと想像がついたんです」(石川さん)

石川さんの言葉に、加藤さんもうなずきます。

「私の実家も、ゆくゆくは空き家になる可能性が高いんです。来たるべきときのためにどういう活用をするのが望ましいのかと常々考えています。よい方法があったら、同じように悩む誰かとシェアし合いたいと考えています」(加藤さん)

「私たちはこれまでインテリアや住宅を中心にたくさんの人々の暮らしを取材してきました。だからこそ空き家を活用しながら残すのは大変なことだというのはある程度は想像がついていました。それが自分ごとになったときに、より大変さを実感したのです」と石川さんも加藤さんの言葉にうなずきながら続けます。

古森久美子さんのお宅

『空き家で暮らす』の中で紹介されている古森さんのお宅。築50年以上の家は、たたずまいはそのままに、床の張り替えや壁の塗り直しをして一新(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

自分ごととして空き家に関する課題を抱える二人が希望を見出したのは、空き家を手に入れて、リノベーションを施し、暮らしを楽しんでいる人たちでした。

「大変さを乗り越えて暮らす人たちの知恵や取り組みには、新しい発見と面白さもあると感じています。家にまつわる悩みや問題が増えている今だからこそ、新しい選択肢があることを知りたい、可能性を見たいと思い、取材することにしました」(石川さん)

住み継ぐ喜びと家を育てる楽しみ

石川さんと加藤さんの著書の中では、空き家を探して住んだ人、二拠点生活からはじめた人などさまざまなケースを取材しています。筆者が特に印象的だったのが、祖父母宅を継いだ2つの家族の物語です。

実家を出て新しく家族を持つ場合、主に「家を別で借りる・買う」という方法で家の戸数が増えていきます。しかし、誰かが亡くなり世帯が減ると、家は不要になるため、空き家となってしまいます。同じような悩みを抱えている人が多いなかで、2家族の話は、参考になる事例になりそうだと感じました。

そんな2家族の事例を、石川さんと加藤さんのお話も交えつつご紹介します。

まず、現在東京都の下町エリアに住む大越威徳(おおこし・たけのり)さんご家族のお話。大越さんは、 “壊したら取り戻せない”思い出の根付いた家を残したい、という気持ちから、空き家となっていた祖父母宅を売却せずに引き継ぐ決意をしました。

祖父母宅に残されていた写真

大越さんが幼いころ、自宅と行き来して過ごしていた祖父母宅。そこに残されていた写真から、その思い出がよみがえった(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

当然、“思い”だけで事は運びません。しかし、懸念点をクリアできれば、空き家を引き継ぐことにはメリットがたくさんあります。「家族から引き継ぐ場合、なんといっても土地や建物の取得費用を抑えられます」と加藤さん。さらに、資金面以外の魅力についてもこう語ります。「若いうちに家を引き継ぐと、『自分たちで家(空き家)を育てていく』という楽しさがあるんですよね」

若い世代の場合、最初からリノベーションなどの十分な資金を用意するのは難しいケースがほとんどです。そのため、一度にすべての施工を完成させることは現実的ではありません。実際に大越さんも、はじめは引き継いだそのままの状態で生活をスタートし、祖父母の遺品整理をしながら暮らしていたといいます。その後、“この家をきちんと直して家族で住んでいきたい“と建築家を探しました。

大越威徳さんのお宅

かつてキッチンとして利用されていたスペースは、土間としてくつろぐスペースへ。大越さんはここで過ごす時間がお気に入り(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

次は安田太陽(やすだ・たいよう)さんの事例を見ていきましょう。
安田さんが引き継いだ埼玉県川越市にある祖父母宅は、5~6年空き家になっていました。

安田さんは、引き継いだ20代の当初から、住みながらリノベーションし続けるという方法を選んでいます。屋根の雨漏り修復、耐震補強や電気工事などは入居前にプロへお願いし、それ以外の壁や床、キッチンや洗面所などはDIY。まるで工作をするように暮らしを楽しんでいます。

安田太陽さんのお宅

梁(はり)や柱を残し、リノベーションしたキッチンとリビング。天井を取り払ったことで空間に高さが生まれ、圧倒的な開放感と見晴らしの良さを実現している(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

30代になり家庭を持った安田さんは、ライフスタイルの変化に合わせてさらなるDIYを施しました。これこそが「家を育てる」楽しみ方であり、大きなメリットといえるでしょう。

セルフリノベーションしたキッチン

セルフリノベーションしたキッチン。白いタイル張りのキッチンは、ゆとりのある広さ(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

未来を見据えて、あえて不便な立地や空き家を選んだ

そのほかの事例についても、石川さんと加藤さんにお伺いしてみました。

東京都世田谷区内で、旗竿地(はたざおち※)にある再建築不可の空き家を手に入れたのは笹本直裕(ささもと・なおひろ)さん。延べ床面積68平米の築51年の空き家を、土地込みで2500万円で手に入れました。周辺エリアの価格相場の半分以下だったというから、驚きです。

※旗竿地:道路に接する出入口が細い路地になっており、その奥にまとまった敷地がある、旗のような形をした土地のこと。

笹本直裕さんのお宅

将来的に賃貸に出すことも想定しているため、なるべく造作は少なく、シンプルなリノベーションを行った(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

再建築不可物件は、道路に接する通路の幅が2m未満、あるいは接している道路の幅が4m未満など、接道義務を満たしていない土地に建っており、原則建て替えが難しいとされています。安く手に入る一方でこうしたデメリットがあります。当時、笹本さんも周囲から「まさかここを買うの?」と難色を示されたそう。

しかし、自身が建築家でもある笹本さん。これまでにも仕事で再建築不可物件と対峙(たいじ)することがあり、知識があったため対処できると考えていたそうで、フルリノベーションを実施しています。

さらに笹本さんは、購入当時から、将来的には賃貸物件にすることも見据えていました。

加藤さんは、取材時をこう振り返ります。
「一見不便に思える土地や物件も、考え方と知識次第でいくらでも“生かしよう”があるのだと気付かされます。“こんな選択肢やワクワクする暮らし方があるんだ”と、新たな可能性を感じさせてくれる事例でした」

次に紹介する、九州に暮らすセセさんも思い切った選択をした一人です。

セセさんが購入した物件は、最寄りのバス停から徒歩5分とはいえ、立地は急な坂道を登り切った場所にあります。それも階段と坂があるため、車が進入できない細い道の奥。リノベーションをするには、資材を人力で運ぶ必要があり、一見すると絶望的な条件です。
しかし、その過酷な環境の先には、唯一無二の価値が待っていました。坂の上だからこそ室内からの眺望は抜群で、窓からは美しい海が一望できます。なにより、70平米・4DKの家が148万円という破格の安さで手に入ることから、セセさんは海外に暮らしながら、内見せずに購入を決めました。

ここまで聞くと、誰もができる挑戦ではないと感じてしまうかもしれません。しかしセセさんは、ただ住むだけのために買ったわけではありませんでした。「シェアハウスとして部屋を貸し出すことで、負担を減らす」という明確なプランを描いていたのです。

実際、現在はシェアメイトと共に暮らしており、得られる家賃収入のおかげで物件の購入費用はすでに賄えているといいます。
「破格の古民家を買い、シェアハウスにして仲間とコストを浮かせるという手法は、一見大胆に見えて、実はとても堅実なリスクヘッジの形でもありますね」と石川さんも感心した様子。

縁側のくつろぎのスペースでセセさん親子

縁側のくつろぎのスペースで、セセさん親子で語らうのも至福の時(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

元の家の風合いを残したキッチン

元の家の風合いを残したキッチン(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

セセさんさんのお宅

セセさんにとってシェアメイトと過ごす時間は楽しいひと時(写真提供/『空き家で暮らす』技術評論社、(C)林ひろし)

新築や中古ですら家を手に入れるのが難しい今だからこそ

こうやってさまざまな暮らしの選択肢を聞くと、「空き家で暮らす」「空き家を活用する」方法は十人十色だと感じます。

今、自分や家族が空き家を抱えている場合はもちろん、これから自分の住まいを探す場合にも、「空き家」は有力な選択肢の一つとして考えられそうです。

「“家は一生の買い物、だから新しくて綺麗なほうがいい”と思ってしまう人は多いかもしれません。でも資材や人件費の高騰で、新築住宅を買うハードルは上がり続けています。空き家を上手に活用して暮らしている人の話を聞くと、“絶対に新築でなくてはならない”という固定観念から解放されるのではないでしょうか」(加藤さん)

そして、「家は一生の買い物」といわれていますが、必ずしも最初から最後まで一つの場所に縛られる必要もありません。

例えば二拠点生活の家として平屋の空き家を手に入れたのが、おおいしれいこさん・久米大作(くめ・だいさく)さん夫妻です。「本宅とは別の環境で過ごしたい、というシンプルな動機から購入したとおっしゃっていました」と加藤さんも取材時を振り返ります。

また坂の上の古民家を購入したセセさんのように、「自分で住むだけでなく誰かに貸す」という選択も素敵ですよね。

空き家で暮らす

『空き家で暮らす』(技術評論社)

石川さんと加藤さんが取材を重ねた中で感じたのは、空き家を上手に活用している人たちは皆「発想が柔軟で軽やか」ということです。

「お話を聞いてきた方々は、“家を買ったらそこで家のことを考えるのは終わり”とは思っていません。状況に合わせて売買したり、人に貸したりしながら、拠点を変えたり増やしたりしてもいい、という柔軟な考えを持っている人が多いように感じました」 (加藤さん)

家を購入したり引き継いだりする方法は、もっと自由で多様な選択肢があるはずです。他者の個性豊かな暮らし方に触れ、新たな選択肢を知ることで、あなた自身の住まいに対する考え方も、ガラリと変わるかもしれません。

住まいの話は、お金の話のように人それぞれの課題や悩みがあり、気軽には口にしづらいもの。でも本当は、みんな周囲がどうしているのか知りたいんですよね。『空き家で暮らす』の中には、更にバリエーションに富んだ事例が紹介されています。既成概念にとらわれないリアルな暮らしを知ることで、自分にとってよりよい暮らし方・生き方を選び取るヒントになれば嬉しいです。

●取材協力
石川理恵さん ライター&編集者・伴走業
暮らしまわりの取材やインタビューを企画、編集、執筆。著書に『時代の変わり目を、やわらかく生きる』(技術評論社)、『ZINE&リトルプレス ビギナーズガイド 自分のために本をつくる』(グラフィック社)などがある。NPO法人での不登校支援を経て、東京・東長崎に「こころの本屋」をオープン。書いたり話したりする会を開いている(Instagram:@cocoro_no_honya

加藤郷子さん 編集者・ライター
編集者・ライター。食と住、暮らしに関するテーマで雑誌、ムック、書籍の制作にたずさわる。編集担当書は『人と暮らしと、台所』(NHK出版)『私たちは本でできている』(オレンジページ)など。著書に『あえて選んだせまい家』(ワニブックス)『北欧テイストのリノベーション』(パイ インターナショナル』などがある。(Instagram:@chocozai)

●参考書籍
『空き家で暮らす』(技術評論社)

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