「起業は若い人のもの」は、もう数字と合っていません。新設法人の代表は40代・50代で過半数

起業する人の平均年齢が、48.9歳になりました。帝国データバンクが2026年5月18日に公表した調査によると、2025年に新しくできた法人の代表者の平均年齢は48.9歳。前年の47.7歳から1.2歳上がり、2000年以降で最も高くなっています(帝国データバンク「2025年『新設法人』動向調査」)。年代別に見ると、最も多いのは40代が29.1%、50代が26.6%でした。この2つを合わせると55.7%で、過半数になります。20代以下は5.0%にとどまりました。
2025年に生まれた法人は全国で15万6,525社。前年より1.8%増えて、過去最多を更新しました。その中で目を引くのが、60歳以上の割合です。20.5%と、前年の17.3%から上がり、初めて20%台に乗りました。ここは読み間違えやすい数字なので、確かめておきます。「60歳以上の5人に1人が会社をつくった」という意味ではありません。「新しくできた会社の代表者を5人並べると、そのうち1人は60歳以上だった」という意味です(年齢が判明した分の集計)。50代の割合も7年続けて上がっています。「起業は若い人がするもの」という前提は、少なくとも法人設立の数字の上では、もう成り立ちません。
帝国データバンクは、60歳以上の起業が増えた背景をいくつか挙げています。インターネットを使い慣れた世代であること、副業を認める企業が広がったこと、官民の起業支援が充実してきたことです。現場の目で見ると、理由はほかにもあります。40代から60代の人は、取引先の名前と顔を知っていて、相場観があり、見積もりを出されたときに高いか安いかを判断できます。20代が数年かけて身につけるものを、すでに手にしたところから始められます。開業して最初にぶつかる「誰に売るのか」という壁が、この年代では低くなります。
ここまでは追い風の話です。逆風もあります。年齢を重ねてからの開業につきまとう弱点は、元を取るまでにかけられる時間の短さです。30歳で始めた事業なら、赤字の2年をその後の20年で取り返せます。60歳で同じ計画を立てると、回収し終わる前に、事業を続けられる年数のほうが先に尽きます。ですから、組み立ての順番が現役世代とは変わります。事業の中身より先に、初期投資の上限を決めます。その額を「なくなっても生活が揺らがない範囲」に収めてから、中身を考えます。順番を逆にすると、事業の構想に合わせて予算のほうが膨らみます。先に上限を決めておくほうが、あとで身動きが取りやすくなります。
資金面では、年齢が有利に働く制度もあります。日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連)」がそれにあたります。対象は、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方のうち、女性・35歳未満・55歳以上のいずれかに当てはまる方です。この条件を満たすと、通常より低い特別利率で借りられます(日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金(女性、若者/シニア起業家支援関連) )。40代の男性は対象から外れますが、55歳を過ぎてからの開業では選択肢になります。なお、公表されている融資限度額は「借りられる額」ではなく「制度の上限」です。実際の額は、事業の中身と返済の見通しで決まります。
この年代で見落とされやすいのが、事業の形と年金の関係です。老齢厚生年金には、報酬を受け取りながら受給すると年金の一部または全部が止まる「在職老齢年金」という仕組みがあります。止まりはじめるのは、年金の月額と、給与や賞与を月あたりに直した額との合計が、月65万円を超えたときです(日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」)。ここで効いてくるのが、法人にするか個人事業のままかという選択です。法人をつくって自分に役員報酬を出せば、厚生年金の被保険者になり、この計算の対象に入ります。厚生年金の被保険者でなくなる70歳以降も、厚生年金に加入している会社に勤めていれば、同じ計算が続きます。一方、個人事業主として開業した場合、事業主本人は厚生年金の被保険者になれません。一定の業種で従業員を5人以上雇い、事業所として厚生年金に加入することになっても、加入するのは従業員で、事業主自身は対象外です。ですから、事業でどれだけ稼いでも老齢厚生年金は減りません。ただし、勤め先に籍を置いたまま副業として始めるなら、その給与のほうは従来どおり計算に入ります。法人か個人事業かは、税金や信用の面から語られることが多いのですが、60代にとっては年金の受け取り方に直結する選択でもあります。
来月、9月21日は敬老の日です。20.5%という割合は、60歳を過ぎたら起業すべきだ、という話ではありません。再雇用で働き続けるのも、仕事から離れるのも、人によって答えは違います。ただ、定年が近づいたときに選べる道は「再雇用か、引退か」の2つしかないと感じているなら、その前提は、いまの数字からは外れています。定年は、「働き方が終わる日」ではなく、「雇われ方が終わる日」へと変わりつつあります。
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