パリの暮らしとインテリア[23] 映画美術スタッフが50平米アパルトマンを本気のセルフリノベ!「コンパクトで心地よい家」が素敵すぎる

コンパクトに心地よく ホスピタリティを意識したパリの人気エリアの50平米

南フランスのマルセイユ出身、映画の美術スタッフを務めるティエリーさんは、パリ11区に暮らして約40年になります。自分の好きなエリアを優先した結果、住まいそのものはコンパクトに、持ち物を厳選したライフスタイルが確立されました。職業のメリットを活かした工夫たっぷりの50平米を、いざ拝見!(文・Keiko Sumino-Leblanc )

自力でフルリノベーションしたこだわりの住まい

「トータル50平米、カレ法(※)だと大体30平米。小さな住まいですよ」と、気さくに出迎えてくれたティエリーさん。
(※)フランスの法律で、天井の高さが180cmに満たない部分の面積はカウントしない床面積の測定方法のこと。Loi Carrez(ロワ・カレ)。

映画や舞台の小道具を担当する彼の職業柄が、玄関に一歩足を踏み入れただけで感じられる住空間。どうすれば自分が心地よく感じられるか、そしてどうすればこの空間の持ち味を最大限に引き出せるか、考え抜かれていることがひしひしと伝わってくるのです。

「この物件を購入したのは2011年でした。その前からずっと賃貸で11区に住んでいましたが、高い家賃を払い続けることが嫌になり購入を考え始めて。インターネットで情報を集めて、大体8カ月くらいでこの物件に出会ったと記憶しています」

各階に住まいは1戸ずつ、というちょっと珍しいつくりの5階建ての最上階。同じフロアに住人がいないのは、ある意味気が楽でしょう。しかも、隣の建物はアトリエ、下の階の住人は基本南仏暮らしで留守が多いという、近所迷惑の可能性から程遠い静かな環境です。窓は中庭に面しているし、パリ屈指の人気エリア・バスティーユにあってこのプライベート感は貴重! そしてもちろん、外に出ればレストランやカフェ、ショップに事欠かず、アリーグル市場(注:詳しくは過去の記事を)の活気を肌で感じられます。

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バスティーユ、シャロンヌ方面の風景(撮影/Manabu Matsunaga)

バスティーユ、シャロンヌ方面の風景(撮影/Manabu Matsunaga)

コーヒー豆の調達はいつもここ。アリーグル市場内の「Early Bird Coffee」(撮影/Manabu Matsunaga)

コーヒー豆の調達はいつもここ。アリーグル市場内の「Early Bird Coffee」(撮影/Manabu Matsunaga)

いい品ぞろえのワインショップ 「Crus et Decouvertes」(撮影/Manabu Matsunaga)

いい品ぞろえのワインショップ 「Crus et Découvertes」(撮影/Manabu Matsunaga)

「11区の賑やかな楽しさと、静かな住環境の両方を得られるのが、この物件のポテンシャルだと思い購入を決めました。バスティーユエリアは社交的で外出好きな私に好都合ですし、食関係のいい店がそろっているところが好きです。レストランは選択肢が豊富、食材やワインを購入するにも品ぞろえのいい店が多いのですよ。私は幼いころから美味しいものを食べるのが好きで、料理も大好きなのです。バスティーユのこの環境に、すっかり惚れ込んでいます」

好きなエリアに暮らすことにこだわったティエリーさん。お住まいの面積こそコンパクトですが、その中身へのこだわりはご覧の通りです。ちなみに購入時の状態は、現在とは全く違ったとのこと。

「老朽化していたうえにリビングの真ん中に柱が3本あって、住みやすくつくり変えることが必要でした。そこで、入居前に自力でフルリノベーションしたのです」
メザニン(ロフト部分)を支えていた柱3本を撤去し、梁にメザニンを固定する仕組みに変え、幅が広く邪魔だったハシゴをコンパクトなデザインのものに変更。メザニン+ハシゴという構造そのものは同じでも、動線を邪魔するものがなくなったおかげで、空間が広く、使いやすく改善されています。

「玄関を入って、キッチンを通り抜けてリビングに至る、という間取りも、以前のままです。キッチンの裏側にあるバスルームを別の場所に移すことも考えましたが、工事費用が嵩むことがわかり諦めました。でも結果的に、ちょっとした玄関スペースが確保され、ドアを開けても住まいが丸見えにならない今の間取りに満足しています」

ソファーとローテーブルのあるリビング。奥はシングルベッドのある寝室。上階のメザニンにはデスクとダブルベッドがある(撮影/Manabu Matsunaga)

ソファーとローテーブルのあるリビング。奥はシングルベッドのある寝室。上階のメザニンにはデスクとダブルベッドがある(撮影/Manabu Matsunaga)

収納はスッキリと。逆に、壁に絵画を飾ることは妥協せず(撮影/Manabu Matsunaga)

収納はスッキリと。逆に、壁に絵画を飾ることは妥協せず(撮影/Manabu Matsunaga)

ティエリーさんの寝室(撮影/Manabu Matsunaga)

ティエリーさんの寝室(撮影/Manabu Matsunaga)

LPレコードコレクションと、CDコレクションのコーナー。デザイナーに依頼した特注の棚は、機能的かつスタイリッシュ(撮影/Manabu Matsunaga)

LPレコードコレクションと、CDコレクションのコーナー。デザイナーに依頼した特注の棚は、機能的かつスタイリッシュ(撮影/Manabu Matsunaga)

インテリアの完成度は細部次第! と思わせられる美的なディテール(撮影/Manabu Matsunaga)

インテリアの完成度は細部次第! と思わせられる美的なディテール(撮影/Manabu Matsunaga)

ダイニングテーブルは、ティエリーさんのデスクワークスペースでもある(撮影/Manabu Matsunaga)

ダイニングテーブルは、ティエリーさんのデスクワークスペースでもある(撮影/Manabu Matsunaga)

ディナーに招待する友人は最大3名まで。あくまでもバランス重視&快適さ重視(撮影/Manabu Matsunaga)

ディナーに招待する友人は最大3名まで。あくまでもバランス重視&快適さ重視(撮影/Manabu Matsunaga)

窓辺のグリーンは心地よさの大切な要素。とはいえ、大きくなりすぎた鉢植えはマンションの中庭に下ろしてしまう。グリーンも、室内にどういった効果を表すのかシミュレーションし、バランスを重視(撮影/Manabu Matsunaga)

窓辺のグリーンは心地よさの大切な要素。とはいえ、大きくなりすぎた鉢植えはマンションの中庭に下ろしてしまう。グリーンも、室内にどういった効果を表すのかシミュレーションし、バランスを重視(撮影/Manabu Matsunaga)

玄関のドアからキッチンへ(撮影/Manabu Matsunaga)

玄関のドアからキッチンへ(撮影/Manabu Matsunaga)

必要なものはすべてそろえつつ、予備は持たないのがスッキリ暮らすコツ(撮影/Manabu Matsunaga)

必要なものはすべてそろえつつ、予備は持たないのがスッキリ暮らすコツ(撮影/Manabu Matsunaga)

ワイン好きなのでグラスはマスト。でも2脚のみ厳選(撮影/Manabu Matsunaga)

ワイン好きなのでグラスはマスト。でも2脚のみ厳選(撮影/Manabu Matsunaga)

朝は緑茶派のティエリーさん(撮影/Manabu Matsunaga)

朝は緑茶派のティエリーさん(撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトさまでもおしゃれに見えてしまうバスルーム(撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトさまでもおしゃれに見えてしまうバスルーム(撮影/Manabu Matsunaga)

換気のための小窓は、友人のアイデアで回転式に(撮影/Manabu Matsunaga)

換気のための小窓は、友人のアイデアで回転式に(撮影/Manabu Matsunaga)

こちらは玄関側(撮影/Manabu Matsunaga)

こちらは玄関側(撮影/Manabu Matsunaga)

これだけ大掛かりなリノベーションを、自力で完成させたとは驚きます。というか、信じられません!
「職業柄、舞台セットの職人に友人がいますので、彼らにだいぶ手伝ってもらいました。仕切りや棚は、デザイナーに依頼し、この住まいに合わせてつくってもらったものです。はい、オーダーメイドの1点ものです。キッチンやバスルームもフルリノベーションしましたが、友人の手助けと自作のおかげで、費用は恐れるような金額になりませんでしたよ」

メザニンはゲストのための空間

玄関→キッチン+バスルーム→リビング→寝室、というつくりの1階部分をひと通り拝見したところで、いよいよメザニンへ。

「メザニン(ロフト部分)は、人に貸すことをイメージしてしつらえました。実はこのアパート(アパルトマン)の購入を決めた時点ですでに、時々ツーリストに貸すことを考えていたのです。バスティーユにある便利でチャーミングな物件なので、きっといろんな国の人たちが泊まりたいはずだ、と。ローンの金額から考えても、副収入は必然でした。こういう理由もあってメザニンは、ゲストを想定してしつらえています」

ハシゴを上がって正面のスペースは、ダブルベッドとデスクの部屋。思いの外広く、ゆったりくつろぐことができます。本棚のある渡り廊下を隔てた向かいのスペースは、1人がけソファで感じのいい演出がされていますが、実際の用途は物置き。アイロン台などの生活用品が収納されています。

渡り廊下を隔てて左側がゲスト用寝室(撮影/Manabu Matsunaga)

渡り廊下を隔てて左側がゲスト用寝室(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室のデスクスペース(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室のデスクスペース(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室はダブルベッドで広々(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室はダブルベッドで広々(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室のリラックスコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)

ゲスト用寝室のリラックスコーナー(撮影/Manabu Matsunaga)

このメザニンも1階部分と同じように、大小のタペストリーを多用した心地よさの演出がされ、本やCDなどのコレクションを収納するスタイリッシュな棚があり、壁面にはバランスよくアートが配されています。これらの「バランス」はインテリアづくりに不可欠。何をどうすればおしゃれになる、快適になる、という単純な方程式ではなく、その空間を見てバランスを判断することが、いかに大切かがわかります。機会があれば、ティエリーさんのお宅に滞在してみると、いいインテリアの勉強になりそうです。

「美味しいワインやこのエリアの暮らしの楽しさなど、自分が好きだと思っているものごとを、いろんな人と共有することに喜びを感じています。2011年にここを購入した時点では、自分がもてなし好きだとは知りませんでした。これからもいろんな国の人たちと、バスティーユ暮らしの楽しさを共有してゆきたいです。日本の皆さんもぜひ!」

好奇心旺盛なティエリーさんは、現在60歳。これからもずっと、このお住まいに暮らし続けるご予定でしょうか?
「何年先になるかはわかりませんが、生まれ故郷のマルセイユに一軒家を購入して引っ越すような気がします。今の住まいを旅行者に貸している期間、私はマルセイユの実家で暮らしているのですが、そうしているうちにだんだんと私物が実家に増えはじめました。自分の中で、マルセイユの比重が大きくなりつつあるのです。若い頃は飛び出すことしか考えていなかった故郷に帰ることになるなんて、人生は不思議なものですね」

渡り廊下には本棚を設置。渡り廊下の右奥は物置き(撮影/Manabu Matsunaga)

渡り廊下には本棚を設置。渡り廊下の右奥は物置き(撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトながら、空間を最大限生かしている(撮影/Manabu Matsunaga)

コンパクトながら、空間を最大限生かしている(撮影/Manabu Matsunaga)

コロナ禍以降、マルセイユはパリっ子たちの人口移動が止まらない人気の街です。あまりの加熱ぶりに地元の人たちから苦情があがるほどですが、ティエリーさんは地元っ子。幼いころに親しんだ、海と太陽のある毎日を求めるのは当然でしょう。

そんな未来の引越しのためにも、今現在の暮らしをコンパクトにするのは得策! と、考えると、なんだかぐるりと一周している気がしてきます。つまり、今はコンパクトに、ものを厳選して暮らしているティエリーさんのライフスタイルは、ご自身の過去から未来へと滑らかに続いている。

その気づきから、例えば筆者自身の住まいを眺めてみると、「大通りに面してうるさい」とか、「ワンルームで狭い」などといった日々の不満は相変わらずありつつも、「向かいに建物がなく明るい」とか、「パリ市内は便利」などといった理由で購入を決めた当時が思い出されます。そう俯瞰できたらば、日曜大工店へ行って窓の防音対策用品を購入し、自力で変えてゆけばいい。これだけで、今の生活がだいぶ変わるかもしれません。全体を見て、その時のベストを把握し、実行するのみです。

ティエリーさんのお住まいは、そんな「バランス」の重要さを教えてくれました。住空間も、人生も、今の状態のまま変わらないわけではありません。バランスをみて、自分らしくつくり続けてゆけばいいのです。

●関連サイト
ティエリーさんのアパート(レンタル)

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