「なんとなく大丈夫」がいちばん危ない 年収600万円台会社員の家計防衛術

「なんとなく大丈夫」がいちばん危ない 年収600万円台会社員の家計防衛術
45歳、年収620万円、子ども2人、住宅ローン残債1,800万円。この条件の会社員Dさんに「10年後の家計のシミュレーション、やったことありますか?」と聞いたところ、「なんとなく大丈夫だと思っている」と答えました。しかし計算してみると、55歳で役職定年により年収が480万円に下がり、教育費のピークと重なって、59歳の時点で貯蓄がほぼゼロになるシナリオが見えてきたのです。

私たちの脳は「今のままで大丈夫」と思いたがるようにできています。これを「現状維持バイアス」と言いますが、このバイアスこそが、家計において最大のリスク要因になっているのです。厄介なのは、本人がリスクを取っている自覚がまったくないことです。

ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの研究によれば、人間は「得すること」より「損すること」を約2〜2.5倍強く感じます。「損失回避バイアス」と呼ばれるこの心理が、私たちを動けなくさせます。たとえば、副業を始めれば収入が増える可能性がある。しかし「うまくいかなかったら時間の無駄になる」という損失への恐怖が、行動にブレーキをかけるのです。

ところが、ここに盲点があります。「何もしない」という選択も、実はリスクを取っていることになります。役職定年、物価上昇、教育費の増大、親の介護。これらは高い確率で起きるにもかかわらず、「まだ先のこと」として脳が処理してしまう。カーネマンが言う「計画錯誤」です。人は将来のことを楽観的に見積もり、必要な備えを先送りにする傾向がある。特に「今は忙しいから」「来年になったら考える」というのが典型的な先送りの言い訳です。

具体的な数字で見てみましょう。日本政策金融公庫の調査や文部科学省のデータを合わせると、子ども1人を私立大学に通わせる場合、学費と仕送りで年間150万円以上かかるケースは珍しくありません。一方、55歳前後で年収が2〜3割下がる企業は大手でも珍しくありません。もしDさんが「何もしない」まま10年過ごした場合、最も支出が増える時期に最も収入が減るという挟み撃ちに遭います。

では、どうすればこのバイアスを乗り越えられるのか。答えは明快です。「小さく始める」こと。人間の脳は大きな変化を嫌いますが、小さな変化には抵抗しにくい。これを「ナッジ」と呼びます。自分自身にナッジをかけるのです。

たとえば、毎月の家計に「将来の自分への投資枠」として1万円だけ設ける。その1万円で副業のための学びを始める。オンラインの講座を1つ受けてみる。週末の2時間だけ、自分の技能を活かせる仕事を試してみる。このレベルの「小さな一歩」であれば、損失回避バイアスが発動しにくいのです。失敗しても失うのは1万円と数時間。得られる知見と自信は、それ以上の価値があります。大事なのは、完璧な計画ではなく、最初の一歩を踏み出すことです。

Dさんはその後、まず家計のシミュレーションを作成し、「何もしなかった場合の10年後」を数字で見ました。そこから月1万円の自己投資を始め、半年後にはオンラインで経理相談の副業を開始しています。脳のバイアスに対抗する最良の方法は、「見たくない現実」を数字で直視することです。

「なんとなく大丈夫」は、実はいちばん危うい状態かもしれません。あなたの10年後は、今日の30分の計算で大きく変わるかもしれません。

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