さらりとした奇想から現代テーマのSFまで全十二篇〜キム・イファン『おふとんの外は危険』
キム・イファンは韓国の現代作家。レイ・ブラッドベリ『火星年代記』に感銘を受けて作家を志し、インターネットで作品発表を開始した。長篇小説は2004年から現在まで十を超える数を出版しているが、単著の短篇集は本書がはじめてだという。
表題作「おふとんの外は危険」は、目覚めたとき、冬用ふとんがしゃべりだすところからはじまり、主人公が行く先々で、さまざまなものが話しかけてくる。とぼけた味の奇想小説で、さらりと面白い。
「Siriとの火曜日」は、うってかわって現代的なSF。音声サービスAIのSiriが実体のあるアンドロイドに実装されることになり、主人公のハジュンはそのテストモニターをつとめる。Siriはネットワークにつながっており、ハジュンがSNSにあげた些細なことまで参照、それに膨大な情報を組みあわせて推測し、的確な助言や提案をしてくる。それは痒いところに手が届くというレベルを超えており、薄気味悪いほどだ。逆に、ハジュンとのやりとりから得たリアルな個人情報も、現在進行形でネットに吸いあげられているということになる。真綿で締めるような監視社会にフォーカスした物語だが、ハジュンはSiriの機能を知ったうえで、ある行動に出ており……というミステリ的な仕掛けが凝らされている。
「君の変身」も一級品のSF。身体改造というフィクションでは古典的題材だが、医療技術が発達した現代社会では切実にしてデリケートな問題に、真っ正面から挑んだ作品だ。外科的回復手術、身体機能の過剰な追加、趣味的な器官切除、そのほか倒錯的な目的、臓器交換、美容、ジェンダー……ラディカルなシミュレーションが次々に繰りだされ、どうやっても倫理が追いつかないさまが炙りだされる。
「#超人は今」は、ソウル区内に忽然とあらわれ、ピンチに陥ったひとびとを救い、悪人を懲らしめる超人の物語。超人はスーパーヒーローとして崇敬を集めるが、その正体はまったくわからない。語り手の僕は、超人を目撃した人物の証言を集めながら、その実態を探っていく。もしかすると、超人は正義をおこなっているのではなく、そもそも人間のことがわかっておらず、超人なりの行動原理で動いているのかもしれない。いずれにせよ、超人がおこなっているのは超法規的行為であり、社会はそれにどう対処すべきかという議論も浮上する。ちょっと不条理な雰囲気さえ漂う傑作だ。
そのほか、星新一の初期作品を思わせる皮肉なオチの「運のいい男」、メタフィジカルな展開の「万物の理論」、淡い情緒が尾を引く「透明ネコは最高だった」など、全十二篇。
(牧眞司)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。
