今のアニメは「メガヒットとダークホースの二極化時代」 ――アニメデータインサイトラボ大貫氏が語る、アニメの話題化メカニズムとヒットの方程式

アニメの本数が爆発的に増え、SNSが作品の命運を左右する時代。いま、ヒットの条件は「良い作品」だけではない。“語られる構造”をどう仕込むかが勝敗を分ける。
今回は、データ分析を通じてアニメの話題化やトレンドを追うブシロードムーブ、ゲームビズの代表であり、同社内にてアニメのトレンドデータを分析を行う分析組織「アニメデータインサイトラボ」所長もつとめる大貫佑介氏に、アニメ市場の変化からヒットの構造、そして今後の展望までを聞いた。

【大貫佑介氏プロフィール】
コンテンツ・IPビジネスプロデューサー。 株式会社ブシロードメディアコンテンツユニット副ユニット長、株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長、株式会社ゲームビズ代表取締役社長、新日本プロレスリング株式会社の社外取締役も務める。アニメ・ゲーム・広告イベント・タレントのマーケティング・プロデュースを得意とし、IPの創出からプロモーションまでを一体で行う。

近年のアニメ作品は増加、話題は「二極化」へ

――まず、ここ数年のアニメ市場をどう見ていますか?
大貫:とにかく作品数が増えています。1クールで60〜80作品ほど放送される感覚で、視聴者がすべてを追うのはほぼ不可能。その結果、“話題になる作品”と“ならない作品”の差が極端に広がっているんです。昔は3〜5本のヒットが並走する時代もありました。でも今は“メガヒット1本”がトレンドを独占し、残りの数十本が静かに消費されていくという構造。SNS上でも、上位1作品が投稿シェアの7割を占めるようなケースも珍しくありません。

――なぜそのような二極化が起きているのでしょうか?
大貫:原因のひとつは、SNSのアルゴリズム構造です。話題が集中したものほど可視化され、また話題化されることで好循環を引き起こします。埋もれた作品は「話題のタネにはならないので」静かに消費されていく。さらに、視聴者の時間配分がシビアになり、「これは観る」「これは後でまとめて観る」という選別が起きている。結果として、視聴者が集中する“トレンドの一本化”が起こるんです。最近は「最初から話題型」と「後半のダークホース型」が顕著になっている気がしますね。

――最近では、放送後半から話題になる作品も増えましたね。
大貫:一気見する習慣が定着したことで、“後半型ヒット”が増えました。たとえば『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、放送7週目あたりから投稿数が急上昇。最初は静かな評価でしたが、後半のストーリー展開で爆発的に伸びました。

――なぜ後半で伸びるのでしょう?
大貫:今の視聴者は、“報われる未来”が見えないと作品から離脱します。だからこそ「この先に必ず盛り上がる」という設計を仕込んでおくことが大事。視聴者が“ゴール意識”を持てるかどうかが分かれ目です。SNSでは「来週は神回」「ついに○話が来る」という“事前熱”が拡散されます。つまり、物語の熱が上がる“手前の時間”をどうデザインできるかが勝負なんです。

「一気見」と「リアタイ」の共存が生む“後半型ヒット” “銀河特急”が示したバズの仕組み

――『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』はSNSで広く語られました。ヒットの要因をどう見ていますか?
大貫:最初に火をつけたのは熱量の高い女性ファン層です。そのファンたちの二次創作や考察、視聴レポートが拡散し、SNS、WEB上で「消費されやすい」ということが観測できます。そこに「SNS上で相乗りをして発信することが好きな層」(あえてインフルエンサーとは言わず、不特定多数の「相乗り発信層」と定義しています)が数字になりそうだぞ。と参入してきて上昇トレンドが生まれます。

あえてインフルエンサーと言わない理由はインフルエンサーもまた「消費されやすい」を観測して「相乗りした人々」。つまり「相乗り発信層」の一部だからです。しいて言うならインフルエンサーは「相乗り発信層」中で目立つので、拡散の起点に見えているという説が正しいと私は考えています。もちろん、特定のインフルエンサーが起点になっているものもあるのですが、インフルエンサーに依頼すればヒットするのか?ということもマーケティング・広告のプロデューサー視点からいうとそれだけでもないと捉えており、「相乗り発信層」が発信する「流れ」みたいなものを作る一環に「インフルエンサーマーケティング」があるなと思ってます。

話を戻すと、アニメデータインサイトラボにおいては熱量の高い女性ファン層(特に今回は一気見派)が後半の「イケメンお当番回」を発見し、コンテンツを消費しながらも、発信。それによりSNS上の発信トラフィックが上昇し、相乗り層がそこに目をつけて参入しさらに拡散。結果的に、コア層 → 拡散層 → 一般層という流れができたんです。この「三層構造」がきれいに動くと、作品は一気に跳ねます。起点が見えにくい形が大事です。ダークホース型のヒットは起点が見えにくいほうが爆発的に伸びやすいです。わかりやすい起点が見えると「ステマ忌避層」や「企業に踊らされたくない層」が参入しないorマイナスの発信をするので広がりにくい。今回は時期的な起点はありましたが広告的なプロモーション的な起点は見えなかった(もしくは見えにくかった)ですからね。

ファンとトレンド、二つのスコアで見るヒットの方程式

――アニメデータインサイトラボでは「ファンスコア」と「トレンドスコア」で分析しているそうですね。
大貫:はい。そもそもアニメは委員会の構造上、広告的なKPIを観測するのが難しく「客観的な戦略が数字を用いて立てにくいのが特徴」です。これだけでもかなり話せるので今回は割愛します。ただ、なにかしら目標になる「値やデータ」は作らないとアニメ側も何も改善も戦略も立てらない。戦略の目標値がないと、声が大きな人が感じる「効果がある(が数字的な根拠にかける)企画」や人の感覚に左右されてしまう。そこで、いったん誰もがわかりやすい分類をして大まかに作品を分析していこうということで作りました。

データがないと感覚的になりすぎる。これが最適解だとまだ思えてはいませんが一定の方針が立てられて、効果測定をしながらアニメの宣伝ができるようにはなったと自負しています。

ファンスコアは投稿量、つまり熱量。トレンドスコアは検索量、つまり一般層の到達度です。この2軸のバランスがヒットを左右します。ファンスコアが高ければ、広く知られていないかも知れませんが熱量の高いファンが多くグッズやライブなど“ファンビジネス”に強い。トレンドスコアが高ければ、関心が高い人が多いわけではありませんが認知が高いので広告・コラボ型ビジネスに強い。両方高いと“総合的ヒット”になります。たとえば『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』はその典型ですね。

――ファンが「語りたくなる」アニメの共通点は何だと思いますか?
大貫:一言で言えば、議論を呼ぶ作品です。会話のきっかけになりやすいものですね。「良かった」ではなく「どう思った?」が飛び交う。賛否や解釈の違いがあるからこそ、コメントが生まれる。そしてコメントが増えると、SNSのアルゴリズムが作品をお勧めしやすくなるので押し上げてくれる。また、“真似したくなる構造”を持っていることも重要です。

TikTokで流行る作品は、再現したくなる台詞や演出がある。相乗り層は再現しやすい仕掛けを好みます。アニメでも“再演したくなる瞬間”を仕込めると、SNS上での持続力が全然違います。

――拡散を生むうえで、制作・宣伝サイドが気をつけるべきポイントは?
大貫:まず、宣伝設計の最初に「目的地」を設定すべきです。視聴者は“どこまで観れば気持ちいいのか”を知りたがっています。だから「この回を見れば心を動かされる」「ここから怒涛の展開」といった“ゴールの提示”を、明確に伝えることが大切なんです。もうひとつ重要なのは、“導火線”と“余白”を仕込むこと。盛り上がるきっかけを意図的に作る一方で、あえて説明しきらない“議論の余白”を残す。
「このシーンの意味は?」「誰が正しいのか?」と視聴者が考える構造を作ることで、SNS上に自然な議論が生まれる。議論がコメントを生み、コメントが拡散を生む。

今の時代、説明しない勇気もクリエイティブの一部です。

ここまでデータ的なものの重要性をお伝えしてきた感じになっていますが、デジタルだけでなくアナログの“偶発的な接触”も侮れません。「ステマ忌避層」や「企業に踊らされたくない層」は企業のターゲティングされている広告や有名人の案件広告に敏感です。WEB広告やインフルエンサーを用いて行う徹底したターゲティング広告の匂いを感じると、コスパよく踊らされないぞと身構える傾向があります。自分だけが狙い撃ちして行動を促されてたまるか・・・みたいな感じでしょうか。

ところが、イベントやテレビCM、交通広告ほかアナログな広告は精緻なターゲティングがされないからこそ、人々の共通の認識や話題になりやすく、自然で偶発的な会話に発展しやすいので踊らされたくない!みたいな反発が少ないです。実際、手間も費用も掛かるのでコスパが悪いから、コスパよく踊らされたくないって思わないのかも知れませんね。ここまでお金を掛けるコンテンツなら安心。みたいな投稿やインタビューはよく見かけます。ある意味アナログの純広告はもはや自然な広告なのかもしれません。

まあアニメの宣伝では、宣伝予算に対して値段が高すぎて、あまり使えないので、そのアナログ純広告は使えず、コスパのよいWEB広告や自然な盛り上がりを仕掛けるんですが(笑)

――時代はアナログだと?(笑)
いや、そこまで言うつもりはないですよ。ただ、結局は拡散は人々のコミュニケーションの結果という見方もあるんじゃないかなと思います。もちろん作品が面白いからっていうのは前提としてあって、そのあとは人々のコミュニケーションのネタになったものが広がっていく。誰でも発信できるから、誰でも起点になりうるわけです。昔はアナログなオールドメディアが主流。最近はSNS、WEBが主流で、その主流にフォーカスしたわけですが結局両方なんですよね。

インフルエンサーの方々、マスコミ関係の方々、SNSユーザー、新聞、雑誌、WEB、他すべての媒体の方々、ファンの方々、全方位のコミュニケーション。そういう意味では人間のコミュニケーション。私が関与しているアニメ作品は元々私がテレビ局だってこともあってその時のお世話になった方々が私とのコミュニケーションの結果として放送してくださっていて、それが私の関与作品の特徴としてSNSで「ブシロードネット」とか言って貰っています。

私が局の方々に「こんな作品のプロデューサーしているんですよ~」なんてなんとなく言ったら、「アニメ面白そうだから放送するよ!」みたいな感じで放送が決まったりします。今では一部のSNSユーザーさんからネットワークなんて言っていただいていて会話のネタにして頂いている。私の放送局さんとのなんとなくのコミュニケーションの結果でその放送局さんのエリアで放送されてたくさんの人々に見ていただき、SNSでも会話になった。これも私という人間のコミュニケーションの結果なのかなと思ってます。

さっきまでデータデータ言ってて結局アナログなのかよって思われるかもなんですが、データ「も」大事なんだよってことが言いたかったのです。どっちも大事。

データは「数字」ではなく「物語」

――データを現場にどう活かすべきでしょうか?
大貫:まず、データは“敵”ではなく“味方”です。数字を見ることは、感覚的な発想を否定することではなく、感覚を裏付ける根拠を得るためのプロセスなんです。SNSや視聴データは、ユーザーがどう感じたかを示す“声の集積”です。

たとえば投稿分析で、「どの層がどんな言葉で作品を語っているか」を見れば、ファンの“共感ポイント”や“違和感ポイント”がすぐにわかる。それを企画・宣伝・制作にフィードバックしていくことで、より“ファンと共創する作品づくり”ができるようになります。また、数字だけでなく“文脈”を見ることが大事です。投稿数が多いからヒット、ではなく、なぜその投稿が生まれたのかを読み解く。数字の裏にある感情や動機を掘ることで、次の企画のヒントになります。それと、イベントやテレビなど“オフライン接点”のデータも重要です。配信だけでは見えない層がまだまだ多い。地域イベントや店舗展開などを含めた立体的なデータ設計をすることで、より広い層に届く可能性が生まれます。

今後のアニメ産業は「海外×短編×共創」

――今後、アニメ業界はどんな方向に進むと考えますか?
大貫:まずは海外マネタイズの比重がますます増していきます。配信プラットフォームを通じて海外へ売るモデルが定着しました。“日本発”の強みを活かすために、刀・呪術・学園などのクラシック要素が再評価されています。そして、短編化・共創化の流れも進んでいます。短尺アニメや個人制作作品のクオリティが上がり、SNSとの親和性も高い。ただしビジネス的には収益構造をどう設計するかが課題です。

またAIの活用も避けて通れないテーマですが、AIにできない“人間の熱”や“ストーリー構築”に価値を置く方向に進むと考えています。

――最後に、ファンや業界関係者へのメッセージをお願いします。
大貫:アニメを“観て終わり”にせず、ぜひリアクションをしてほしいです。感想を投稿する、グッズを買う、イベントに行く——そうした行動がコミュニケーションに繋がり次の作品を生み出す力になります。そして業界側も、ファンの声をもっとデータとして観測していくべきです。マーケティングとかそういうのもなんですが、熱量とか期待感とかそういう「心」も受け取ってある程度変数に入れ込まないと。人間の心の動きをデータ化なんて出来ませんが、データと熱量とか心とかコミュニケーション的な心、その両方を見ていきたいです。説明しやすいデジタルだけでも、なんとなくな感覚だけでも駄目だと思うので。

“届ける”だけでなく“受け取る”仕組みを持つことが、アニメ産業全体の持続性を高めていくと思います。

――ありがとうございました。

(執筆者: sasuke_in)

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