1階トイレの逆流が止まらない! 老朽化団地の下水道管に隠された「7年間の衝撃の事実」とは【ポンコツ理事長奮闘記4】

ポンコツ理事長奮闘記 下水道管の巻

4棟(120戸)の団地の理事長経験者である筆者が団地の老朽化と高齢化をぼやく本連載。今回は、2025年1月に発生した埼玉県八潮市道路陥没事故でも注目を集めた「下水道管」の話。当団地の下水道管は1981年竣工で埋設以来40年を超えています。しかし、団地が古くなったからといって住人のスキルまで上がるわけじゃありません。むしろ手に負えない課題が山積み。その代表例がトイレの逆流問題でした。単年度の理事会でどこまでできるのかも知らずに究明にあたったポンコツ理事長……その道のりは正直……カオスでした。

【前置き】理事長だからといって、何でも一人で決められるわけじゃない。

本題のトイレ逆流事件の話をする前に、理事会の基本スタンスの話を少しだけさせてください。

私たちの団地の理事会はとても民主的。運営の基本は、前年度の総会で決議した予算案を執行し、展開していくなかで見つかった懸案事項に予算をつけて総会に諮(はか)ること。

「理事長」と聞くとなんだか偉そうだし、実際まるで独裁者のごとく振る舞う人もいないわけじゃない。しかし、民主主義における理事長とは本来、前年度理事会から引き継いだバトンを次年度理事会へいかにスムーズに渡すか、が腕の見せどころなのです。

こうした民主主義のマナーを教えてくださったのは他でもない、9年前に理事長を務めた経験を持つFさんでした。

筆者が理事長に就任して以来、Fさんは事あるごとに理事会とは何たるかを教えてくれていました。

「一人で勝手に決めたらアカンで!」

Fさんのこの言葉をお守りにして、筆者はこれまで何年も対処療法でやり過ごされてきたトイレ逆流問題と向き合うことになったのです。

四コマ漫画

(イラスト/てぶくろ星人)

前年度理事会からの最も不可解な引き継ぎ=「トイレの逆流を止めろ!」

前年度総会からの帰り道、Fさんの顔はとても暗かった。理由は、止年にはないイレギュラーな工事がいくつもあり、なかにはすでに工事業者や工事日が決められているものまで含まれていたからです。最も近い工事期間は6月5日~7日。総会から1カ月もありません。

Fさん「総会で予算案が承認される前からこんなふうに勝手に決めて……何かあってから非難されるのは俺らや」

Fさんのおっしゃるとおり、このまま進めれば、第一回の理事会の議事録が回覧される前に工事が始まってしまいます。このような独裁的な進め方に慣れていない住人はひどく驚くだろうし、私たち新年度の理事会に対して不信感を抱くかもしれません。

しかし、くだんの工事は1階のトイレ逆流に関わるもの。すでにD棟の1階にある6軒中、5軒で逆流が起きています。2021年には4月と8月にD棟1階が逆流し、7月には集会所トイレも逆流。2022年には10月に2回、11月に1回、合計3回の逆流がD棟1階で発生。その都度、管理会社の夜間緊急対応サービスに頼り、毎回約10万円の出費が続いていました。

「次はうちの棟かもしれない……」私だって1階の住人です。とても人ごととは思えません。私が前向きだと悟ったFさんは渋々ながら「工事に立ち会う理事がいなくては不審に思う住人もいるから、俺も当日立ち会うわ」と折れてくれました。そして「一人で勝手に決めたらアカンで」と優しく諭しながら、幾度にわたる工事業者との打ち合わせにも同席してくれたのです。

下水は右から左に向けて流れています。4つの棟すべての下水が合流する集会所横の排水管の汚れは業者も驚くほどひどい状態でした(イラスト/てぶくろ星人)

下水は右から左に向けて流れています。4つの棟すべての下水が合流する集会所横の排水管の汚れは業者も驚くほどひどい状態でした(イラスト/てぶくろ星人)

原因究明へのステップ1:前年度理事長が選定した水道業者Hによる共用排水管洗浄工事を実施

こうして始まった工事初日、Fさんと私が現場で立ち会っていると、ふいにとがった声がしました。

Yさん「今年度の理事長は誰?」

Fさんは耳が遠く、聞こえていないよう。ここは一発、勇気を振り絞って私が住人に対峙(たいじ)しましょう。

私「私です!」
Yさん「(え?こんなポンコツそうな人が?と意外そうな顔をしながら)去年の理事長にもずいぶん言わせてもらったけど、もう何年もトイレが逆流しつづけているのに、どうして理事会は何もしてくれないの?」
私「だからこそ、です。今日から緊急の工事をしているのはそのためです。今年度の理事会はできる限りのことをさせていただきたいと思っています!」
Yさん「……とにかくなんとかしてちょうだい!」

ぴしゃりと扉が閉じられると、今度は共用排水管の合流場所から水道業者Hさんの声が上がりました。

業者H「会長さ~ん!」
私「は~い!(誰が「会長」やねん。「理事長」やっちゅーねん)」←自覚が芽生えた?
業者H「このマンホールをのぞいてください! えらく滞留(たいりゅう)しています」
私「どれどれ……」

Fさんと私が見守るなか、その後、数時間かけてかき出された固形化した汚れの量はバケツにたっぷり2杯分になりました。

汚れと油脂が石のように固まって下水道管を狭めていました。マンホールにもぐって手作業でかき出す業者さんの仕事ぶりにFさんの警戒心も和らいだよう(撮影/水野康子)

汚れと油脂が石のように固まって下水道管を狭めていました。マンホールにもぐって手作業でかき出す業者さんの仕事ぶりにFさんの警戒心も和らいだよう(撮影/水野康子)

原因究明へのステップ2:年に一度の雑排水管清掃、共用部分は本当に実施されているのか?

業者H「この先の排水管はひどく汚れています。この汚れ方は僕たちも驚くほどで、1年や2年サボったくらいではこうなりません」

意外な指摘に私は記憶の糸をぐいぐいたどってみました。
「1年や2年?……じゃあ、その前の数年で下水道管に関わる何があっただろうか……?」

団地では竣工以来、年に一度の雑排水管清掃を続けてきましたが、管理会社に一部委託を始めたことで水道業者も変更になったのがちょうど7年前です。

そこで集会所の書棚を開け、過去の管理業務報告書を改めると、水道業者からの分厚い報告書が見つかりました。しかし、立派なのは体裁だけで中身は杜撰(ずさん)。提出されている排水管敷設図面すら7年前からずっと間違っていたのですから。しかも間違っている場所は、水道業者Hが指摘した滞留箇所のすぐ近く……市のマンホールへ連なる最終局面です。「こんなポンコツな図面で正しい工事が行えるものなの? くさい……なんだかにおう……」

ポンコツ理事長の嗅覚が何かを捉えました。

「流れてるか?」Fさんのガイドに従って次々とのぞいたマンホールの向こう側。これまで知らなかった世界が地中に広がっていました(イラスト/てぶくろ星人)

「流れてるか?」Fさんのガイドに従って次々とのぞいたマンホールの向こう側。これまで知らなかった世界が地中に広がっていました(イラスト/てぶくろ星人)

原因究明へのステップ3:管理会社による雑排水管洗浄工事立ち会いへ

水道業者Hによる洗浄工事は、7年前に交代した管理会社の下請けである水道業者Kの仕事ぶりまで洗い出しました。

水道業者Hからの報告を受けて、従来は理事が立ち会うことのなかった雑排水管清掃に、Fさんと私が立ち会うことに。雑排水管清掃は一部委託の契約内ですから、これまで工事を行っていた水道業者Kの委託元である管理会社のフロントマンにも立ち会いを要請します。

ちなみに私たちの団地の「雑排水管清掃」とは各戸の専有部分(キッチン排水口、風呂場排水口、洗面所排水口、洗濯機排水口)からホースを入れて洗浄する工事のこと。これまでも自宅の洗浄作業には立ち会っていましたが、共用部分(屋外に埋設された下水道管、および各所の汚水枡(ます))での作業を見るのは私も初めてです。

ついに原因究明! 見過ごされていた集会所裏配管。最終枡(ます)を見誤ったまま7年がたっていた!?

4棟分の下水が集まる集会所裏。市の水道メーター(大)の手前で管理会社の下請けの水道業者Kの手が止まりました。

私「??? 市の下水マンホールは道の向こうだから、あそこまで通していただかないといけないのでは? それに集会所脇の排水管がまだですよ?」

鳩が豆鉄砲をくらったような表情を浮かべる水道業者K。集会所裏の排水管の存在を知らされていなかった様子です。それより何より水道部の大メーターの蓋(ふた)を排水管のマンホールと誤認していたのではないでしょうか。つまり、最終桝(※)を見誤っていたようなのです。

※最終桝……敷地内の各排水管から汚水や雨水を最終的に集約し、公共の排水管へつなぐ桝(ます)のこと

枡は地中にあって見えません。目印になるのがマンホール。最終枡の位置を市の水道メーターで誤認したため、4つのマンホールが手つかずに……(イラスト/てぶくろ星人)

枡は地中にあって見えません。目印になるのがマンホール。最終枡の位置を市の水道メーターで誤認したため、4つのマンホールが手つかずに……(イラスト/てぶくろ星人)

最終枡とは人間で言えば「直腸」にあたる部分。その肝心な部分の詰まりが解消されないため、最終桝に近いD棟の1階住戸のトイレが逆流したのだろうと察しがつきました。「洗浄工事の次の日に逆流した年もあった」というYさんの証言とも矛盾がありません。

すべての点が線になってつながり始めました。

悪いのは一体、誰?

毎年、実際に作業したのは水道業者Kだけど、彼らにしてみれば図面にあったとおり、管理会社に言われたとおり、業務を遂行しただけなのかもしれません。

一方で、管理会社はどうでしょうか? 担当のフロントマンは社会人3年目。管理物件の多さに加え、昨今の働き方改革もあり、電話1本で業者に丸投げしている状態だったのではないでしょうか? ……苦虫をかみつぶしている私にFさんが言いました。

Fさん「あんまりつきつめて考えたらあかん。管理会社に発注しているのは団地の管理組合や。つまりわれわれがしっかりしてないからこういうことになったとも言えるんや」

自主管理から管理委託へ。体制の変更に伴い引き起こされた最終枡の見誤り。水道業者の首を挿げ替えただけで片付く問題ではありませんでした(イラスト/てぶくろ星人)

自主管理から管理委託へ。体制の変更に伴い引き起こされた最終枡の見誤り。水道業者の首を挿げ替えただけで片付く問題ではありませんでした(イラスト/てぶくろ星人)

次年度への引き継ぎ「年に一度程度、追加の洗浄工事を」は既読スルー

築40年を超えた団地の水面下ではさまざまな想定外が起こっています。

例えば、広い敷地にのびのびと枝葉を伸ばす大樹は団地の魅力の一つですが、その根の侵入によって配管のひび、割れが引き起こされることがあります。また、南側に流れる二級河川の影響で、河川側が少しずつ地盤沈下し、南方方向に走る配管の勾配が取れなくなっているように見受けられました。「そもそも建てたときのしまい方が悪かったんちゃうか?」という大工のA君の言葉も説得力十分です。

なにはともあれ追加の洗浄工事実施によってD棟1階のトイレの逆流は止まりました。私の任期(2023年度)中は……ですが……。

次年度への引き継ぎで「逆流が再発しないか注視して、必要であれば追加の洗浄工事を」と申し送りしましたが、結局、私の描いたとおりに事は運びませんでした。別途、管理会社から雑排水管清掃を一部委託の範囲内から外すように申し入れがあり、それを受けて次年度理事会は自主管理時代の水道業者に仕事を戻す道を選択したのです。

追記:2024年の逆流は2回。1度目は管理会社の夜間緊急対応サービスを利用して約15万円。2度目は自主管理時代の業者で、補償の範囲内となり、費用は0円でした。

以前の業者から、7年前に新しい業者になる際の資料などの引き継ぎが十分だったのか今となってはわからず、「最終枡の見誤り」というのはあくまで私個人の見解です。それが問題の本質なのかどうかは今もわかりません。ただ、今回、理事長の引き継ぎタイミングで、工事に注目が集まっていたことで、原因の追究にまで立ち会うことができました。たとえ、私のように経験不足のポンコツが理事長の役に就くことになっても、こうして1年ごとにさまざまな人の意見が反映され、みんなの総意が1本の道になってゆく。それが「民主主義」の良いところなのだろうと実感した一件でした。

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