「行きつけの田舎(地方)」がある楽しさ。大人の部活動として「棍棒飛ばし」を選んでみたら大成功だった話

前回の記事から引き続き、取材のため栃木県足利市の里山に来ています。
足利棍棒ギルドのみなさんと思いっきり棍棒を飛ばしたあと、ある気持ちが湧き上がってきました。
──なぜだろう、自分の棍棒が欲しくてたまらない。
里山保全と棍棒の関係性

ギルド代表である梁川さんにその旨をお話したところ、「ぜひ!」の一声。ギルドの皆さんが管理を手伝っているという里山へ連れてってもらうことになりました。

到着してまず驚いたのは、その荒々しさ。普段は登山でしか山に立ち入ることもないので、ある程度整備された道が当たり前にあるものだと思っていましたが、そんな上等なものはここにはありません。

「林業など、人の暮らしのために維持されてきたのが里山。それを放置しておくと、ベースの土壌も含めてどんどん荒れていってしまうんです」と梁川さん。
放っておけば豊かを増していくイメージのある自然ですが、人の営みが密接に関わってできた里山の場合はそうはいきません。里山の整備や保全を兼ねた活動をしていることが、全日本棍棒協会に入会する条件のひとつなのだそう。
ただ素材集めのためだけに登るのではなく、里山の状況を確認したり、倒木しそうな木を予め伐採したりするのも、ギルド活動の一環なんですね。

なかなかの急傾斜で足元もおぼつかない山を必死に登ります。「おっ、これは次の大会で殴打棒に使えるんじゃないか……」とプロ目線で棍棒を探しているみなさんを横目に、自分がイメージする理想の素材探しに集中。

「細すぎず太すぎず、棍棒以外なんの道具にもならなくて、それなりに長いモノ」というイメージで探していると、光って見える枝を発見。これはいいぞ……!

見つけたのは伐採された山桜の枝の一部。それをさらにチェーンソーでカットしてもらい、完璧な素材をゲットできました。


ギルドのみなさんも良い感じの素材を確保できた様子。ホクホクで棍棒飛ばしをしていた拠点へ戻ります。
レッツ棍棒作り!

あらためて自分の拾ってきた枝をみるとかなりイイ感じ! さっそく梁川さんから作り方のレクチャーを受けながら、ただの木の枝を棍棒にしていく作業に移ります。

まず、大切な持ち手の部分は鉈を使って皮を剥ぎつつ、理想のグリップサイズに仕上げていく。優しい木の香りに包まれつつ、そのあとは電動ヤスリを使って握り心地を調整します。

スベスベとした手触りが理想だったので、ヤスリ掛けは丁寧に。

持ち手の部分が完成すると、かなり棍棒らしい見た目になりました!
そのあとは殴打部分の枝を調節したり、突起部分を丸くしたり、自分好みに仕上げていくだけ。ここに正解のかたちはなく、各々のセンスが表れるそうです。
殴打部分は山桜の皮を残しつつ、ついでに生えていたキノコも残しつつ、上の部分に丸みを持たせた「マイ棍棒」が完成!

「ついにマイ棍棒を持っている側の人間になってしまったか!」とできたての棍棒をブンブン振り回していると、テンションが上がる!
そうして盛り上がっているうちに、ふと自分は最初から棍棒飛ばしを体験できたけど、梁川さんはなにをきっかけに棍棒を知ったのかが気になってきました。
きっかけだけでなく、この足利という場所でどうのようにギルドを結成し、活動をスタートさせたのか。広場の横に建つ古民家(ギルドメンバーの一人が集落支援活動を行っている拠点)に場所を移して、お話を聞いてみました。
足利棍棒ギルドが生まれたワケ

コロナ禍に何か面白い企画ができないかとSNSで情報を探していたのがきっかけですね。そこでたまたま奈良県宇陀市を拠点とする全日本棍棒協会の活動がシェアされているのを見かけて「なんだ!? 棍棒??」と衝撃を受けました(笑)。
その後、協会のサイトを見漁るなかで、宇陀の自然環境が足利と非常に似ていることに気づいたんです。自然が豊かという部分だけじゃなく、人の手が入らなくなった里山がいくつもあるという課題点も含めて。それに気づいた瞬間に「足利でもできるじゃん!」と思い立ちました
ただし、そこからすんなりとはいかなかったと梁川さん。最初は地域で町おこしに携わっている人たちに話をしてみたものの響かず、協会のSNSをフォローするところでほとんどの人が落ち着いてしまったのだそう。

それでも諦めずに棍棒入門の本を自分が営むカフェに置いて、手にとってくれたお客さんに声をかけたり、店のイベントで手作りの棍棒を配ったりと地道に布教活動するなかで、いまのメンバーが自然と集まってくれたんです。
サラリーマン、醸造家、工業系の仕事をしている人、家具職人、集落支援員、役所で里山に関わる仕事をしている人、普段関わる機会のない人たちが棍棒をきっかけに集結して、いつの間にか公式大会にも参加できる規模のギルドになっていました

でも、地元民だけでギルドを完結しようとは思ってないんです。今回取材で来てくれた皆さんのように、興味を持ってくれた都会の人にもぜひ参加して欲しい。棍棒飛ばしって、地方と結びつくのにちょうどいい手段だと思うんです。
移住となるとなかなかハードルが高いけど、足利に自分が入れる部活があるって考えると一気に飛び込みやすくなる気がしませんか? 週末だけ遊びに行くコミュニティとして棍棒を活用してもらうなかで、放置された里山や害獣被害のような地方が抱える環境課題にも目を向けてもらえたら嬉しいですね
大の大人をここまで夢中にさせ、生き方すら変えてしまう棍棒の魔力。僕もその一旦を感じることはできましたが、その正体までは掴めていないのが本当のところ。
インタビューの最後に、その正体ってなんだと思いますか? と梁川さんに聞いてみると……

棍棒の魅力ってなに?とたくさんの人に聞かれるけど、触ってみないとわからないよ!って答え続けてます(笑)。実際に棍棒を握ったり、叩いたりしてみた瞬間に、これは楽しい!ってはじめて分かってくれるものだと思っているんです
「棍棒飛ばし」はただのスポーツにあらず。視点を変えてくれる素敵なきっかけなり

足利でさまざまな体験するで、里山に対する考え方や、身近な自然の見え方がガラリと変わった気がしました。
その辺の木の樹種が気になる、もはや落ちている枝も棍棒に見えてくる。「自然を大切に」なんて口にするのは簡単なことですが、身近な自然を真に大事なモノだと実感するには、視点が変わるような体験が必要。
今だったら、東京に戻っても街路樹の枝が棍棒の素材に見えるはず。そうなれば、もはや街路樹も立派な宝物です。

この記事を通じて、ちょっと刺激的な野遊び「棍棒飛ばし」が気になった方は、全日本棍棒協会のサイトや都内などでも開催されるイベント、足利棍棒ギルドのSNSなどをチェックしてみてください。
もちろん、実際に足利まで足を運び、棍棒ギルドの活動に飛び込むのだって大正解! 週末限定の大人の部活動として都会の公園じゃ味わえない刺激が待っています。

ただ、お気をつけください。一度棍棒を握ってしまうと、人生を棒にふってしまうほどハマってしまうかもしれませんよ。
私もただ棍棒の布教活動をしているだけ、という気持ちでこの記事を真夜中に書いているのですから……。
全日本棍棒協会[公式サイト]
足利棍棒ギルド[Instagram]
梁川さんが店主を務めるカフェ「八蔵」[Instagram]
キャンプやサウナの次にくるのはコレかも!「棍棒飛ばし」が週末遊びの新定番になりそうです – ROOMIE(ルーミー) |
Photographed by Kazuhiro Suzuki

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