アウトプットに「自分」を入れろ。金融DXのトップランナーが明かす、尽きることのない情熱の源泉 受賞記念インタビュー【後編】

この記事は、「日経クロステックが選ぶCIO/CDOオブ・ザ・イヤー2025」(※)の特別賞受賞を記念した、みんなの銀行 宮本昌明CIOへのインタビュー後編です。前編では、評価の核となった前例のない挑戦の裏側や銀行の未来像を伺いました。後編ではさらに深掘りし、イノベーションを生み出す「挑戦する集団」の作り方から、宮本CIO自身のキャリアの原点、そして尽きることのない情熱の源泉まで、広報が詳しく伺いました。

※「日経クロステックが選ぶCIO/CDOオブ・ザ・イヤー2025」は、株式会社日経BPのテクノロジー専門メディア「日経クロステック」が、IT活用やDX推進において目覚ましい成果を上げたCIO(最高情報責任者)およびCDO(最高デジタル責任者)を表彰する制度です。

宮本 昌明 Profile
株式会社みんなの銀行 取締役常務執行役員(CIO)
ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社 取締役(CIO)

日本総合研究所、楽天(現 楽天グループ)、ジャパンネット銀行(現 PayPay銀行)を経て、ふくおかフィナンシャルグループに入社。みんなの銀行の立ち上げに参画し、日本初のフルクラウド型銀行システムの開発を推進。現在は、みんなの銀行のCIOおよびみんなの銀行のシステムを開発するゼロバンク・デザインファクトリーのCIOとして、アプリ・インフラの開発、AI導入、ITガバナンス、組織風土づくりに取り組む。

イノベーションを生み出す「挑戦する集団」の作り方

―― みんなの銀行のシステム開発は、兄弟会社の「ゼロバンク・デザインファクトリー」が担っています。この2社に分けた体制だからこそのメリットや、逆に「フル内製」で進める上での難しさはありましたか?

「同じ会社の部署違い」という感覚。大事なのは“内製”という事実

正直なところ、会社が分かれているから良かった、あるいは難しかった、と感じることはあまりありません。推進や育成といった面では、どんな体制であろうとやるべきことは変わりませんからね。

普段から、みんなの銀行とゼロバンク・デザインファクトリーが分かれていることを意識せず、分け隔てなく業務をしています。感覚としては「同じ会社で部署が違う」くらいの違いしかないので、この体制による難しさを感じることは特にないですね。良くも悪くも、という感じです(笑)。

むしろ、「銀行自身がシステムを内製していること」の点でお話しすると、難しさは確かにあります。

特に、エンジニアの確保と定着は重要事項です。エンジニアという職種は、居心地が良い環境であっても、一定期間でステップアップのために転職する方が多い職種だと聞いたことがあります。私たちもキャリア採用で仲間を増やしているので、他社から人が動いてくれないと組織が大きくならないというジレンマはあります。もちろん、一度仲間になってくれた方には、ずっと居てほしいと思っています。

ですから、エンジニアが、自身の成長も感じつつ、開発に集中して最高のパフォーマンスを出せる環境をどう作るか、という点には非常に気を使っています。これが外注であれば、先方の責任者にお願いして終わりかもしれませんが、内製だからこそ一人ひとりと向き合う必要があります。

―― まさにそのチームで「日本初の挑戦」を成し遂げるために、プロジェクトはどのように進められたのですか?みんなの銀行ならではの開発スタイルやチームの特色を教えてください。

目指すのは、ビジネスとITが一体化した「距離感」

プロジェクトの進め方は、開業前と今とで大きく違いますね。最近は優秀なプロパー(正社員)のエンジニアも増え、組織も拡大し、優れたマネジメント層も育ってきているので、なるべく任せるようにしています。

ただ、押さえるべきポイントは私自身で情報収集して見にいきますし、方向性が怪しいと感じたときには、自らディスカッションの場を設けて早期に軌道修正を図ります。スピードを重視しているので、「報・連・相」を待つ姿勢ではなく、自ら動くことを意識しています。もちろん、報連相をしなくていいという話ではなく、早くしてもらうことは大事ですが、それだけに頼ってないということです。

開発スタイルについては、まだ理想には遠いというのが正直な感想です。実装すべき開発案件が常に山積みで、全社的な開発スタイルの変革に着手する隙がないのが現状です。

ただ、私たちはスクラム開発体制を採っているので、チームによっては理想に近い進め方ができているところもあります。そういった良い事例を、他のチームにもどんどん横展開していきたいと考えています。

特に重視しているのは、ビジネスサイドとITサイドの歩み寄りの結果としての「距離感」です。両者の距離が非常に近く、一体感を持って進められているチームは理想的です。一方で、まだ距離が遠く、従来型の役割分担のようになっているチームもあります。すべてのチームが一体感を持って開発できるスタイルを目指していきたいですね。

―― 時代と共に「銀行のシステムを作るエンジニア」に求められるスキルやマインドセットも変化していると思います。宮本さんが考える、「これからの金融を面白くする人材」とはどのような人物像ですか?

「課題理解」「技術アンテナ」「実装力」そして何より「品質への意識」

長らくレガシーな技術で走ってきた金融業界も、今やクラウドやAIを活用するのが当たり前になってきました。世の中の技術の加速についていき、業務課題や技術課題、そしてお客様に提供するサービスも、すべてを技術で便利に、効率的に、抜本から解決していくことが求められます。

そのためには、まず「課題を深く理解する力」。サービスや業務への理解も含めてですね。そして、「技術に対するアンテナの高さ」。新しい技術を実際に触ってみて、何に使えそうか考えられること。さらに、既存のサービスを持ってくるだけでなく、それで補えないところは「自分で作り込む実装力」。この3つが求められると思います。

そして、実装力の中でも特に、金融なので「品質に対するマインドセット」は高く持っていてほしい。他の業界の品質が悪くていいわけでは全くありませんが、我々がやりたいことをやるためには、品質の高いプロダクトを作ってお客様に使っていただき、フィードバックを受けるサイクルを早く回すことが、我々のやりたいことです。技術だけが尖っていればいいわけではなく、品質やセキュリティへの高い意識を持った人に仲間になってほしいですね。

―― 今でこそ輝かしい実績ですが、ここに至るまでにはご自身のキャリアで「最大の壁」もあったかと思います。そこから得た「最高の学び」と共に、未来を担う若い世代へのエールとして教えてください。

「最大の壁」はない。課題があるからこそ自分の価値がある

これまた難しい質問ですね(笑)。「最大の壁」が何かあったかというと、基本的にはなかったように思います。

もちろん、壁だったり課題だったりは常に目の前にあります。でも、課題や壁があるからこそ、自分の価値がそこにある。それが高ければ高いほど、自分の存在価値を示せるチャンスだと考えています。だから、何かが「最大の壁」だったかというと、思い当たるものがないんです。

これまで、目の前の仕事をただひたすら、自分自身が腹落ちするまで一つひとつ一生懸命クリアしてきただけなので。

あえて「壁」を挙げるなら、前職時代に会社の資本が変わったことでしょうか。あれは自分ではどうしようもできない、まさに「壁」でした。私にとって、それ以外の困難はすべて乗り越えるべき「課題」です。そして、本当に乗り越えられないのは、そうした自分の力では動かせない「壁」だけだと考えています。

ですから、何か上を目指すとか、先のことを考えるのが大事だと仰る人もいますが、私は今自分がやるべきことを、自分が納得するまで一生懸命やる。ただそれだけをやってきましたし、今もそうで、それが一番大事だと思っています。

多様な経験が「今」につながる ―― “挑戦者”宮本CIOの原点と情熱

―― 宮本さんは、日本総研、楽天、PayPay銀行など、日本の金融DXの最前線を渡り歩いてこられました。こうした多様なご経験は、現在の「銀行システムの外部提供」という革新的な取り組みに、どのように活かされていますか?

すべての「失敗経験」が、“誇れるシステム”の礎

これまでの経験は、すべて活かされていると思っています。特に、設計・開発・運用・保守における、いろんな「失敗経験」や「障害対応経験」ですね。

前編でもお話ししましたが、私たちは「銀行システムの外部提供」のためにシステムを作っているわけではありません。あくまで、自分たちのプロダクトやシステムがより良いもの、誰にでも誇れるものであるように作りたい。

じゃあ「誇れないもの」とは何かというと、過去の失敗経験の原因になったものです。「こんなことをやったから障害が起きた」「こんな作り方をしたから後で修正に工数やお金がかかった」とか。

開発の全工程における大小さまざまな失敗のすべてを踏まえて、みんなの銀行でどんなシステムを作るかを考えてきました。そうやって魂を入れて作った結果、「それが欲しい」と言っていただけて売ることができた、というのが「銀行システムの外部提供」なんです。

ですから、過去の多様な経験、特に失敗の経験があったからこそ、今があるのだと思います。それは私だけの失敗経験ではなく、色んなバックグラウンドから来て頂いている社員みんなの失敗経験の上にあるとも言えます。

―― その輝かしいキャリアの中で、最終的になぜ「みんなの銀行の立ち上げ」という、ゼロからシステムを創る道を選んだのですか?その決断の背景を教えてください。

入社直前まで知らなかった「新銀行設立」というサプライズ

これは難しくて……(笑)。実は、私は入社直前まで、「みんなの銀行」の立ち上げプロジェクトがあることを知らされていなかったんです。なので、ゼロから銀行を立ち上げるから来た、というわけではないんですよね。

当時(2019年)、ふくおかフィナンシャルグループ(※1)から「システム開発子会社のゼロバンク・デザインファクトリーを設立する」というプレスリリース(2019年4月)は出ていましたが、それは新銀行設立のことだとは思わず、「福岡銀行の勘定系システムを新しくするのだろう」と考えていました。まだ銀行の設立準備会社(※2)もなかった頃で、外部には発表できなかったんだと思います。

※1 ふくおかフィナンシャルグループは九州を地盤とし、地域経済発展への貢献により人々の生活を豊かにするとともに企業価値向上を目指す地域金融グループです。傘下の銀行には、福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行、福岡中央銀行、そしてみんなの銀行があります。

※2 新しい銀行を設立するために、銀行業の免許を取得するまでの準備活動を専門に行う会社。

ゼロバンク・デザインファクトリーの当時代表者であった横田(浩二)さんと永吉さん(現 みんなの銀行 取締役頭取)が、グループ内でも極秘でプロジェクトを進めていて、最終面接も横田さんでした。後から聞いた話ですが、横田さんは「CIOになれる人を連れてきた」と仰っていたそうです。もちろん、その時の私は何も知りませんでした(笑)。

ですから、「チャレンジングな道を選んだ」というよりは、後からその道が目の前に現れた、という感じですね。

―― これまでのキャリアを通じて、一貫して「新しい金融のカタチ」に挑戦し続けているように見えます。その尽きることのない情熱はどこから来るのでしょうか?

「誰よりも深く考える」ことが、アウトプットに自分を宿す

やはり、目の前の自分のやるべきことや課題に一生懸命取り組んでいると、それが面白かったり、やりがいを感じたりするんですよね。

特に、誰でも考えつくようなアウトプットではなく、そこに自分が考え抜いたエッセンス、つまり「自分を入れる」ことができたときに、やりがいや面白さを感じます。これは日本総研のコンサルタント時代に、提案日前夜に提案書をゼロリセットされて、上司から「仕事は芸術と同じ。アウトプットに自分を入れろ」と教わったことがあるのですが、今も自然にそうしているかもしれません。

「自分を入れる」というのは、変なこだわりを持つことではなく、「誰よりも考えて魂をいれる」ということです。考えて考えて考え抜いて結論を出す。そうすると、どんな人から意見をもらっても、「その道はすでに考えて通った道で、こう判断した」と自信を持って答えられる。そのプロセス自体が情熱なのかもしれません。

難しい課題ほど、たくさん考えて、自分なりに腹落ちさせて、そこに自分の魂が入ったアウトプットを作る。それが結果として、やりがいや面白さになっている。そんな感じです。

エピローグ:次の“当たり前”を創る仲間たちへ

―― 今回の受賞は一つのマイルストーンだと思います。宮本さんが次に見据えている「新たな挑戦」や「壊したい常識」は何ですか?

すべての領域にAIを。そして「金融業界の常識」は見ない

新たな挑戦として今パッと思いつくのは、業務・開発・サービスのすべてに「AIを入れる」ということです。

壊したい常識でいうと、私は最初から「金融業界の常識」というものをあまり意識していません。事故なく、障害なく、お客様への説明責任を果たしながらやっていけば、それ以上の常識は特にないと思っています。むしろ、「金融業界を見ていない」ということ自体が、ある意味で「壊したい常識」なのかもしれません。

これまでの金融業界は、金融の中だけを見てきました。そうではなく、世の中のプロダクトやサービスを見ながら、金融に今までなかったものやアーキテクチャーをどんどん取り入れていきたい。

「銀行がそんなもの使うの?」「そんなことやってる銀行あるの?」と言われるようなことでも、それが良いものであればどんどんやればいい。そういう考え方は、CISO(Chief Information Security Officer)の二宮賢治さん(みんなの銀行 上席部⾧ 兼 ゼロバンク・デザインファクトリー 執行役員)の影響も大きいですね。「やればいい」と、昔、隣の席で良く仰ってました。考えすぎずに、良いものはどんどん取り入れていきたいです。

―― 最後に、この記事を読んでいる未来の仲間たちへメッセージをお願いします。

ひたむきな仕事の先に、世の中を変えるインパクトがある

私がやっていることは、CIOになる前も、部長をやる前も、昔からずっと変わっていません。自分の仕事をとことん一生懸命やること。ただ、それだけだと視野が狭くなるので、世の中のいろんなジャンルのニュースを読んだり、コミュニティに参加したりして、常にアンテナを張ること。また、業界内外にネットワーキングを張ること。

お金は、生きていく上で誰もが関わる、普遍的な社会インフラです。だからこそ、やりがいのある分野ですし、最新の技術で世の中を便利にしていくことができる。何かやったことの効果が大きければ、世の中を変える力もある分野だと思います。

よく「世の中を変えたいからこの業界に」という人が採用していても多いのですが、私は少し違います。今の仕事を一生懸命やっていた先に、結果として世の中が変わる、というイメージです。 私自身、「世の中を変えたい」という想いが先に来たことはあまりありません。

ただ、一生懸命自分の仕事をやっている。その結果、みんなの銀行の取組みがきっかけで金融業界が少しでもテクノロジーに目を向け、クラウドにシフトしていく。さらにその結果、世の中が便利になる。

自分が直接世の中を変えるのではなく、一生懸命やったことの連鎖が、最終的に世の中を便利にするなら、それでいいんじゃないでしょうか。

自分の存在価値を追求した結果が、世の中を変えることにもつながっていく。そんな業界で、一緒に働きましょう。

※この記事はオウンドメディア『みんなの銀行 公式note』からの転載です。

(執筆者: みんなの銀行)

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